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きょろきょろと視線を動かしながらディナンの後ろを付いていき、栗栖は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。そこでは商業ギルドと同じように、カウンターや待合室の椅子があり、何人かの冒険者がいた。そして、その冒険者らしき人のなかに、栗栖の知っている赤毛の少女がいた。
アイコンは◎であり、彼女はNPCではなくプレイヤーだ。三日前、クリスチャンの駆け込み寺を手に入れた後、ディナンと連れ立って街へと消えた、例のハラスメント監獄少女だ。もちろんそんなことは口には出さない。
「あらディナンじゃない。イベントクエストを受けに来たの? どうやら夜でも受けられないみたいよ」
「こんばんは、チロルさん」
「相変わらず胡散臭い笑顔ね。もうちょっと自然に笑えないの? これだから腹黒い男は嫌なのよ」
栗栖はディナンの後ろで、気配を消して黙っていた。
ハラスメント監獄少女については、監獄なるコロッセオのような場所で見かけ、三日前にディナンと別れる際に見かけ、今回で顔を見るのは三度目だが、会えば会うほど強烈な人格だと実感する。栗栖は心の中で、クセ強……と思うなどした。
そもそもディナンを胡散臭いというのなら、栗栖の胡散臭さはさらに上を行くだろう。ピンクの髪にピンクのヒョウ柄、おまけに少し糸目がかって顔に三本ヒゲが付いている。こんな顔でチャンパオを着ていては、ディナンの三倍は胡散臭い。むしろディナンはどちらかといえば、爽やかなお兄さんのような印象だ。少なくとも栗栖にはそう見える。親切だし、頼れるし、穏やかで丁寧に話してくれる。こんな好青年が胡散臭いというならば、ハラスメント監獄少女にとって、栗栖はとんでもなく胡散臭いだろう。トラブルには巻き込まれたくないので、栗栖は後ろで静かにしていることにした。したのだが、残念ながら、栗栖はディナンに比べて気配を消すのが上手くなかった。
「あら、後ろのプレイヤーは誰? 広場では見なかった気がするけど」
「フレンドです」
「あなた、フレンドは選んだほうがいいわよ」
視線を下げてしまったせいで目が合い、栗栖はハラスメント監獄少女に見つかってしまった。ディナンは簡潔に答え、それに対してハラスメント監獄少女は栗栖を心配した。
「どうも、こんばんは。 ……じゃあディナンさん、僕先にチュートリアル受けてくるから」
栗栖できるだけ当たり障りなく受け答えし、さっさとこの場を離れようとした。栗栖が冒険者ギルドのチュートリアルを受け終わる頃に合流すればいいだろうと考えた。
「えっ? チュートリアル? じゃあまさか、あなたがログアウト方法を教えてくれた初心者プレイヤー?」
「……」
「すみません、クリスさん」
「いやいや、まあ……あー、しゃあないんで……」
栗栖としては、なぜそんな話を、と思ったが、よくよく考えると仕方がない気もした。マンジュウが教えてくれたログアウト方法は、適当に自分で見つけたと言うには複雑な場所にありすぎる。特にデスゲームだなんだとなっている時に、下手な嘘を吐くのも難しかっただろう。ある程度は栗栖の存在がディナン伝で知られるのは、致し方ない部分もあったのだろう。
「ちょっと、何謝ってんのよ。別に取って食いやしないわよ」
「チロルさん、クリスさんへしつこい声掛け、待ち伏せ行為、付き纏いをしたら、私が即通報します」
「え……? す、スト……」
「しないわよ! 私を何だと思ってるの?!」
ストーカー、と声が出そうになり、栗栖は慌てて口を抑えた。もしこのハラスメント監獄少女がディナンの言ったようなことをするような人なら、下手なことを言って目をつけられたら大変だと思ったからだ。だが、すぐに本人が否定したことで、栗栖は少しだけ安心した。少なくともそういった行為が良くないことだとは、理解している人物ということだ。
だが、実際のところはそうではなかった。
「私にも選ぶ権利ってものがあるの!」
「……」
「それに相手に悟られるようじゃ三流よ、見つからずに見守るのが重要なんだから! Yesスニーク、Noタッチよ!」
栗栖はもう一度思った。クセ強……と。
そして、ストーキング行為を見守ると言っているところがホンモノっぽい、とも思った。だがハラスメント監獄少女本人の言葉で、栗栖が当事者になることはないことが確認できたので、そこは安心した。はたして安心していいのかわからないが、とにかく安心した。栗栖はあまり深く考える質ではなかった。
「こんにちは。僕はクリスていいます」
「どーも。私はチロルよ。一応お礼を言っておくわね。あなたのおかげでこのサーバーがデスゲームじゃないって分かって、安心してゲームができるわ」
「いやいや、大したことはしてないんで……」
「ところでクリス、あなたジョブは何?」
「え? 道士やけど……?」
「サブジョブは? あとレベルは?」
ハラスメント監獄少女ことチロルの質問に、栗栖は聞かれるままに答えた。ディナンが隣で苦い顔をしていたが、それには気付かなかった。




