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◇◇◇
「こんにちは、クリスさん」
「あ、ディナンさん。場所教えてくれたら僕から行ったのに」
マギ麻雀を終え、空腹値も回復した栗栖がゲランシャトー(仮)を出て隣の工房へと戻れば、ドアの前にはディナンの姿があった。ゲーム中にレターを送り、会いたい旨を伝えていたのだが、わざわざ出向いてくれたようだ。
にこやかに会釈をするディナンは装備が変わっていた。水色の髪は長くなり、後ろでひとつでまとめている。また、黒いサンタ用ブーツを履き、それにあわせてキャメル色だった革鎧が黒いものになっていた。
「クリスマス仕様? 似合ってる」
「ありがとうございます。イベントアイテムを装備している状態だと、情報収集が捗るんです」
クリスチャンの駆け込み寺へディナンを招き入れながら、ディナンの三日間のことについて話を聞く。クリスチャンの駆け込み寺で人をもてなせる場所は工房しかないので、入ったのは工房だ。だが工房の中には最低限テーブルと椅子はあるものの、客に出す茶がなかった。栗栖は、次にゲランシャトーへ行ったら茶葉と茶菓子をたかろう、と思った。
「やっぱりみんな、クリスマスイベント頑張ってるんやね」
「はい、ログアウト方法自体の周知はもう終わったので、今サーバーに残っているのはイベント攻略の意思があるプレイヤーだけだと思いますよ」
どうやらこの三日の間に、栗栖を除く六百名以上のプレイヤーへの周知が済んだらしい。それも、拡声魔法のようなもので街中に聞こえるようにしたのだとか。
「大規模戦の時に使う、スクロールという使い切りアイテムをたまたま持っていた人がいたので、それを使用しました」
栗栖は寝室に引きこもってネットプリックスを見ていたので、もちろんそんな魔法には気付かなかった。どうやら建物の中にいても、宿屋の寝室などでは聞こえないらしいので、きっと栗栖の寝室にも聞こえなかったのだろう。
「ですが、情報収集についてはあまり芳しくありませんね。王都の住人はこのブーツのような、イベントアイテムを装備していないとイベントの情報を出してくれないみたいなんですが、その情報も多くはありません」
栗栖やディナンの他にも、キーワードでイベントアイテムを手に入れたプレイヤーは数人いるらしいが、教会で得られた情報以外は殆ど無いそうだ。
「え、じゃあ商業ギルドと冒険者ギルドで特別なクエストが受けられるっちゅうんは?」
「ああ、それは教会の神官からの情報ですね。でも、両ギルドへ行っても受けられないんです。クリスさん、どうして知ってるんです?」
栗栖はディナンに、隣のゲランシャトーでマギ麻雀をしていることと、仲良くなった住人NPCから教えてもらったことを伝えた。
「なるほど、プレイヤー専用の武器が必要なんですね」
「そうそう、この飴ちゃんやねんけど」
栗栖はアイテムボックスから、キャンディソードを取り出した。大きめのステッキ型の飴だが、なんと仕込み杖になっていた。とはいえ栗栖は剣術など使えないし、そういったゲームスキルも持っていないので、飴として舐める以外の使い道はないのだが。
ディナンは驚いた顔をして、栗栖が抜いた仕込み杖キャンディをまじまじと見る。
「それは、キーワードで?」
「そう、キャンディソードでこの仕込み杖剣、キャンディケインで普通の杖やったわ」
「……。……キャンディソード」
ディナンが小さくそう言うと、ポンっと音を立ててプレゼントボックスが現れた。それは栗栖が先ほど手に入れたものと同じで、やはり仕込み杖の、キャンディソードだった。
「おっ」
「私も同じキーワードで貰えるということは、複数人取得できるキーワードなんでしょうね」
栗栖はそう聞いて、ひとまず安心した。この飴が栗栖しか手に入らないとなると、どれだけギルドで働かないといけないのか、と少し憂鬱だったからだ。まあ昼間から麻雀をしている住人NPCのオッサンも働いてはいるようなので、せめてオッサンと同じくらいは働かなくてはいけないのかもしれないが。
「良かった~一人でクエストやれて言われてもでけへんやろうし」
「ふふっ、教えてくださってありがとうございます、クリスさん。このキーワードは、他のプレイヤーにも教えて構いませんか? ……広く周知すると、他プレイヤーのイベント貢献度を上げることになってしまうんですが……」
「ええよええよ、僕らだけ使えてもしゃあないし」
どうやらディナンは一切魔法が使えないらしいので、知り合いの魔法職の人たちに杖を使ってもらうそうだ。おそらく杖と剣で枠が決まっているので、他にも剣が得意なプレイヤーに伝えたいという。イベント貢献度はランキング形式ではないものの、クリア後の報酬に関わってくるのだが、栗栖はそういったことに特に興味はないので、快く頷いておいた。
そもそもバグが多すぎてクリアできるのかも分からず、季節もクリスマスではないので、このサーバーから出たら運営がなかったことにする可能性もある。それでもこのゲームを最大限楽しもうとしているディナンや他のプレイヤーに、栗栖は少しだけ眩しい思いを抱いた。




