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「流石です、クリスさん」
「そう? ありがと」
「そこな渡り鳥の御仁よ、名を教えてくれ。俺はマーマンの戦士でクリスの友人、プルルフカという」
「ディナンといいます。プルルフカさん、よろしくお願いします」
「うむ。では参ろうか。良き訓練にしよう!」
そんなディナンとプルルフカの会話で、あっさり戦闘は始まった。レフェリー役と思われるNPCは、二人の審判役を始めるようだ。とりあえず戦いが始まったので、それで良いのだろう。栗栖はディナンとプルルフカの戦いの邪魔にならないよう、フェンスの側まで下がった。
「行くぞ!」
拳を顔の前で構えたディナンに向かって、プルルフカが飛び込んだ。おおよそ人間とは思えないスピードで繰り出される拳の数々を、ディナンは避け、払い、いなしながら足払いを仕掛けている。プルルフカはその足技を避けながらも攻勢を崩さない。
「やるな、ディナンよ!」
「ありがとうございます」
「足捌きが素晴らしいぞ!」
「……穏やかな優男風のイケメンがステゴロでやり合うん、なんか違和感すごいなぁ」
ディナンは見た目の小綺麗な姿からは想像もできないような、荒々しい戦い方をした。栗栖にはそれがボクシングなのか空手なのかムエタイなのか何も分からなかったが、ディナンがものすごく強いということだけは理解できた。そしてプルルフカも、レベル一桁である栗栖の対戦相手にするには上級者すぎるだろう、と呆れるくらいには強い。ディナンがいなければ何をどうやっても勝てないだろう。早口言葉で舌を噛みまくっていた姿からは想像もつかない強敵だ。
周りのアウトローNPCたちは、なんだか知らないがとりあえず暴力が始まったので喜んでいた。酒を片手に野次を飛ばすオッサンや、どっちが勝つか掛けた木札のようなものを握りしめて叫んでいるオッサン、あとはプルルフカを応援しているセクシーな美女も少しだけいる。
「ケンカキックかっこええ~!」
二メートルを超える巨体を活かし、間合いを詰めて上から拳を振り下ろそうとするプルルフカに対し、ディナンはゼロ距離からのフロントキックでプルルフカの巨体を引き離した。仰け反った上体を腹筋の力で戻したプルルフカは、下から突き上げるようなディナンのアッパーを両手の前腕で受け止め、半歩後ろへ下がる。
二人の戦いは、合間合間に黄色や青や緑のエフェクトが見えたり、身体が発光したりしているので、おそらく何かのスキルを使用しているのだろう。おおよそ現実では人ができないような、重力を無視した動きや身体のひねり、あとは栗栖の目の錯覚でなければ、ディナンは何度か空中を蹴っていたりもする。
「……だんだん違和感が仕事せんくなってきたな」
VRゲームってすごい、と栗栖は感嘆のため息を漏らした。現実世界では違和感だらけの不規則な動きを、ディナンは自然にこなしてしまう。光のエフェクトを纏い、連撃を軽く捌き、まるで流れるようにカウンターへ持って行く。その一連の動作だけで、ディナンがこのゲームにおける上級者だということをまざまざと見せつけられる。それは高揚と同時に、安心感でもあった。ディナンなら、プルルフカがどれほどの達人でも負けることはないだろう。
そんな栗栖の安堵とも信頼とも付かない思いの通り、プルルフカの攻撃を全ていなし、ディナンはプルルフカのHPを削りきった。終了のゴングが鳴り、膝を付いたプルルフカと構えを解いたディナンに歓声が浴びせられる。レフェリーっぽいNPCは、空気を読んで栗栖ではなくディナンの腕を持ち上げて勝者を示した。
穏やかな笑顔で拳を天に打ち上げるディナンに栗栖はすっかり夢中になっていた。
「ディナンさん、かっこよすぎる~!!」
「いや~、なんとか勝てました。手甲やグローブなんかも装備不可だったので、思いの外時間が掛かってしまいました」
「そうなんや! めちゃくちゃ余裕そうやったのに、意外~!」
栗栖はもともと装備を持っていないので、装備不可なことには気付かなかった。それよりもすらっとした高身長イケメンキャラクターがステゴロでサメ人間と戦う、という図が映画のようで、栗栖はハリウッドスターの舞台挨拶にいるファンのような受け答えをしていた。
なので、ディナンが拳に装備する武器には攻撃力が上がるものがあったり、TPの消費が少なくなるものがある、と教えてくれたが頷きながら聞き流していた。
プルルフカは膝を付き、肩で息をしながら栗栖とディナンに何か話そうとしていたが、運営NPCが二人がかりで担いでスタッフルームへと運んでしまう。二人はそれを手を振って見送った。
「勝者はァ! 助っ人渡り鳥のディナン!! ……あ、ルール上はクリスさんの勝ちです!」
「ほっほっほ、やるのう、クリスや」
勝者として喝采とブーイングとブーイングとブーイングを浴びる中、フェンスの中へとフゲン老人が入ってきた。




