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「こんにちは、ゲームできる?」
「いらっしゃい。この【お貴族様ゲーム】は1ゲーム100コインから1000コインまで、勝ったら同額だ。いくらにする?」
「お貴族様て」
「はっはっは。俺たちと違って、お貴族様は洗面器を使って部屋で顔を洗うらしいんで、そこから来た名前だ」
「そうなんや。じゃ、1000コインで」
「はいよ。ちょっと待ってな」
恰幅の言いおじさん店員NPCが1000コインを受け取り、スタッフルームの扉の奥へと歩いて行った。テーブルの上に置かれた洗面台は魔道具のようで、中にある水が消えたと思ったら、すぐに澄んだ新しい水が張られた。
「待たせたな。今回の相手はこいつだぜ」
「……サメの半魚人やな?」
「失礼な奴だな。俺はマーマンの戦士、プルルフカと申す」
「あー、俺はクリス」
プルルフカは、服を着ていない上半身が見事なサメだった。灰青のツヤツヤとした上半身は、人間の骨格に付くような筋肉が盛り上がり、それでいて皮膚はしっとりしている。そして顔は、人間基準でいえばイケメンの部類だ。
「陸上で呼吸できんねや」
「うむ、【ハイの宝珠】と【ヒーフの宝珠】という秘宝を使えば、我らでも陸上で活動が可能だ」
「肺呼吸用と皮膚呼吸用の道具っちゅうことやな」
「俺は秘宝を使い、人族の国に武者修行に来ておる。今日も人族の戦士が水中戦闘の修行をするのを手伝うぞ!」
「水中戦闘の修行……?」
栗栖はプルルフカがこの施設の人間に騙されているのではないかと思ったが、黙っておいた。深く関わらないほうが良い気がしたからだ。
「じゃあ、合図で同時に顔を付けてくれ。いくぞー、はじめ!」
栗栖とプルルフカは同時に洗面器に顔を伏せた。
「いい潜りっぷりだ! 見込みがあるぞ!」
プルルフカは水中で声が話せるようだった。栗栖は、マーマンの戦士すごい、と思いながらすぐに洗面器から顔を上げた。
「プルルフカの勝ち!」
「なぜだクリス! お前はもっといける!」
もちろんプルルフカの見込み違いだ。栗栖には洗面器に長く顔を浸ける見込みなどなかった。
ただ顔を水に浸けたときのひやりとした感覚や、顔を上げても少しの間皮膚が濡れた感覚があることには感動していた。VR、すごい。
もっと頑張れと言いながらスタッフルームへ下がっていくプルルフカを見送り、栗栖は次のお貴族様ゲームを申し込んだ。
◇◇◇
「や、やっと百十万コイン……」
「まさかあんなにプルルフカさんが出てくるとは」
栗栖はひたすら洗面器に顔を浸け続けて百十万コインを貯めた。プルルフカは思っていた以上に出てきたし、そのたびに、「まだやれる!」「お前ならいける!」「そこでもう少し耐えろ!」「よしいいぞ一歩前進だ!」と声を掛けられ続けた。
「もうアイツの名前、松岡プル造とかにしたほうがええんちゃう」
「さすがに権利関係が難しいんじゃないですかね……」
「でも、「もっと熱くなれ!」て言っちゃってたで」
「このゲームの世界でも、温暖化の原因になってたりするんですかね」
ディナンと栗栖はそんな話をしながら、フゲン老人のいる休憩エリアへと向かった。ソファとローテーブルが並んでいるなか、フゲン老人はお猪口のような小さな湯呑みでお茶を飲んでいた。栗栖が頑張ってお貴族様ゲームでお貴族様になっている間に。つい、優雅すぎるやろ、お貴族様ゲーム極めるよりお貴族様やろ、と思ったが、言わないでおいた。
「じいちゃん、稼いできたで~」
「おう、おう、流石じゃのう」
「今度こそ工房ちょうだいや」
「ほっほっほ、やるとも。次が最後の試験じゃ」
「まーだあるんかいな」
栗栖はもうここまできたら、とことんゲームに付き合うつもりだった。お貴族様ゲームでも大貧民様ゲームでも、神経衰弱でも意志薄弱でもなんでも来いという気でいた。
「今度はこっちじゃよ」
そう言って部屋を出たフゲン老師についていくと、今度は階段を降り、更に降り、更に更に降りた。きらびやかな洋館然とした調度がなくなり、店員NPCが守る無骨な石造りの扉を抜け、地下であろう大きな広場に到着する。
そこは、熱気と怒号の渦巻く円形の大部屋だった。
魔法で作られた光るチェーンで作られた円形の闘技場。周囲には酒を飲みながら声を荒げるアウトローな男たちがおり、闘技場の中では二人の男が戦っている。
一人の男が顎にフックを決め、もうひとりの男が鳩尾にアッパーを入れる。同時に繰り出されたその攻撃の後、片方の男が倒れた。すぐに勝者を称えるゴングが鳴り、同時に観戦者が沸き立つ。札のようなものを放り投げる者もいれば、金貨を投げている男もいた。酒が頭上を舞い、ゴツい体格の店員NPCが闘技場の中の男たちを連れて行く。




