21
「さすがにこれは違法賭博やろ」
「多分、賭博のほうは合法でしょうね。違法なのは人間を戦わせていることでしょうか」
「ほっほっほ。奴隷闘技は禁止じゃが、決闘法で定められとる私闘は禁止されとらん。とはいえ、王家の直轄領以外の領では、ほとんど領法で禁止されておるんじゃがの」
栗栖は、奴隷が存在するゲームなんか……、とぼんやり考えていた。もっとこう、ファンタジーゲームといえば夢と希望、愛と勇気、剣と魔法、のようなポジティブなイメージだった。というか、こういった生々しいものには年齢制限が必要なのではないだろうか。
「一応、中学生以上からのゲームですね。ですがキッズパッチという小学四年生からプレイできるようになる専用パッチと、18歳以上の人が購入できる大人パッチが有料でDL販売されています」
「え? ここから更に大人になるパッチ?」
「そうです。更に大人になります。流血描写が解禁されたり、アンダーウェアの着脱が可能になります」
「大人や……」
栗栖が想像している以上に、このゲームは奥が深いらしい。ただイッカクウサギやアカコマドリとの戦闘では流血の描写はなく、虹色のポリゴンが吹き出していたので、そのあたりが変わるのだろうと予想はできた。
「クリスや、今回はこれじゃ」
「うん? ここで賭けして勝つってこと?」
「いや、戦うんじゃよ。そうさな……一勝でよいぞ。コインを全額ベットすれば闘技場に上がれるからの」
「は? 戦えるわけないやん?」
栗栖は基礎レベル2、メインジョブレベルが4、スキルや魔法も初期に貰えるもの以外は揃っていない初心者だ。それに比べて、闘技場でさきほど戦っていた男たちは、明らかに栗栖よりはレベルが高いだろう。色んなスキルの発生エフェクトが出ていたし、なんだかよくわからない技名も叫んでいた。
「なに、一勝で良いからの。そう難しくもないじゃろ」
「難しいけど?!」
「ほっほっほ」
フゲン老人は笑いながら人並みの中をするすると進み、ソファ席(おそらく休憩エリア)へ行ってしまう。そんな後ろ姿を栗栖は呆然とした顔で見送ることしかできなかった。この押し合いへし合いしている人混みのなか、まるで普通に歩くかのように進むフゲン老人に追いつけるわけもない。
「あのじいちゃん、只者やないな……しかしここに来て、ゲームやなくて戦いか~」
今までは一応ミニゲームだったから、栗栖でもなんとか遊べて、なんとか勝ててきたのだ。栗栖にはこのゲームでの戦闘経験がほとんどない。戦ったことがあるのはイノシシのようなウサギと、落ちてきた鳥だけだ。それも、ディナンに手取り足取り教えてもらいながらなんとかこなしただけ。対人の戦闘経験はゼロである。
「とうとう詰んだんかな?」
「そうともいえませんよ」
栗栖が腕を組んでどうにかできないか考えていると、後ろのほうからディナンが声を掛けてきた。どうやら栗栖から離れて、闘技場の運営席のほうへ行っていたようだ。一緒にいても気配がよく消えるので、栗栖は気付かなかった。
「というと?」
「どうやら一騎打ち型ですが、通常PvP形式とは違って通常戦闘のようなんです」
闘技場ではあるが、NPCが複数の魔獣と戦うような見世物や、バトルロイヤル形式のものもある関係上、PvP一騎打ちとは異なるのだとか。
「一騎打ちでNPCやプレイヤーと戦う場合、一騎打ち状態という特殊状態になり、周囲からの干渉ができなくなります。ですが通常戦闘の場合は、フィールドのように周囲のプレイヤーやNPC、物などの干渉が可能なんです」
「ということは、あの檻の外からディナンさんに助けてもらえるっちゅうこと……?」
「いえ。パーティを組んでいても闘技場のフェンスの中には一人しか入れません。魔道具のフェンスですが、破壊不可属性が付いているので破壊も難しいでしょうね」
「……やっぱり詰んでるやん?」
「ですが通常戦闘形式なので、システムの補助が使える可能性があります」
ディナンの話によると、最近のアップデートで実装されたシステム補助があるのだとか。その名もメンターシステム。上級者が初心者のお助けをするシステムだ。初心者が戦闘中に窮地に陥ったとき、助っ人として上級者をその場に召喚できる。
「上級者の基準は最新エリアへの到達、もしくは基礎レベル100です。レベル100は今の上限なので、カンストしていること、ということになります。私は基準に達しているので、メンターの資格があります」
「お、おぉ~」
栗栖は純粋に驚いた。ディナンのことは親切なプレイヤーだし頼りになる男だと思っていたが、それほどやり込んでいるとは思っていなかった。ネットゲームに詳しくない栗栖の印象では、そういったいわゆる廃人プレイヤー層は、ゲーム内の効率を非常に重要視する。特に珍しくもないしリターンも見込めないような、初心者への親切など時間の無駄だと考える人々だと思っていたのだ。
「……ガチ勢?」
「いえ、ほどほどです」
「またまた~」
ディナンはクリスの言葉をさらっと笑顔で躱した。できる男である。




