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「……無理やん?」
栗栖の現在の基礎レベルは2だ。そしてメインジョブである道士のレベルが4、スキルや魔法は、特に増えていない。初心者のままだった。
「おそらく目標コインはレベルによって難易度が調整されているんでしょうね。クリスさんは低レベルなので、十万コイン分で良いんでしょう」
「でも勝てへんかったらいくらも無いやん?」
目標コインがどれだけ少なくとも、一勝もできなければ増えはしない。それに栗栖にとってはVRゲーム自体が初めてなのだ、とてもアクションで勝負できるレベルだとは思えない。
「ひとまずどんなゲームがあるか見て回りましょうか。もしかしたらクリスさんに合うゲームがあるかもしれません」
ディナンが慰めるように栗栖にそう声を掛けた。
「クリスさんの場合は、まずステータス参照系は避けたほうがいいと思います。あのあたりにあるゲーム魔道具ですね」
ディナンが指さした場所には、盾を持ってどんぐりを防ぐゲームが置いてあった。リスのような可愛らしい絵が描かれている四方八方から、どんぐりが飛んでくるのだ。
「あのゲームは、飛んでくるどんぐりを盾で完全に防ぐのは不可能です」
「そうやなぁ。真後ろどころか、天井とか床からもどんぐり飛んできてるもんなぁ」
「なので、当たっても耐えられるゲーム内でのVIT、体力が必要なんです」
「なるほど」
他にも、剣で切り付けたときの威力で競うゲームや、そのものずばりパンチングマシンのようなものもあった。
「クリスさんに勝てる可能性があるとしたら、回避系でしょうか」
「でも、回避っちゅうたら、ステータス画面のAGIってとこが必要なんちゃうん? 俺、一桁やで」
「AGIが必要なゲームですが、クリスさんには酔拳があります。酔拳は回避スキルではないので、スキルを使用しないルールの回避ゲームなら運が良ければ勝てる可能性があります」
「俺、運良くないやろなぁ」
「悪くはないと思いますけど……」
栗栖はディナンの言葉にも頷いた。実際のところ、栗栖としては運など良くもなければ悪くもないと思っている。運の良し悪しに明確な指標は無いだろう。
フロアを一通り見て回った結果、ひとまずディナンが可能性を示唆していた、回避系のゲームを試してみることにした。
AGIが必要になるミニゲームで、毛糸玉が入った籠を頭に乗せ、障害物を避けながら目標地点に行くゲームだった。目標地点には、編み物をしているおばあちゃんの看板が置かれている。そして障害物は、魔法で生み出される子猫の形をした人形だった。
「なんか和むなぁ」
そんなことを言えたのは、最初の一回目だけだった。
子猫の形をした人形が、あらゆる方法で毛糸玉を我が物にせんと襲いかかって来る。バク転をして尻尾ではたき落とそうとしたり、大量の子猫たちと質量攻撃を仕掛けて来たり、顔に飛びついて目隠しをしてきたり……。栗栖は三度の敗北の後、諦めた。
「これは無理や」
「ああ、猫に攻撃できないタイプでしたか」
「ぜったいむり」
「僕もです。猫には優しくしたいですよね」
とはいえディナンは、ゲーム内の子猫の人形なら平気だそうだ。栗栖には無理だ。足元にじゃれ付いてくる子猫を、たとえ人形だとしても、ゲームだとしても足蹴にするのは辛い。
「あと十三万コイン……」
「うーん」
栗栖はディナンと二人で悩んだ。悩んだ末、フロアで一番コインベット上限が低いゲームをやってみようということになった。下限10コインから遊べ、上限でも1000コイン。どういうものか試してみるには良いと思った。
「これは水中呼吸スキルがあればほぼ勝てるゲームですね」
「へぇ~」
「ただ、ときどき対戦相手のNPCにサメの半魚人が出てきて負けます」
「ディナンさん、けっこう詳しいね??」
「フレンドにミニゲーム好きがいるんです。その人に聞いたことばかりですよ」
どうやらこのゲームは洗面器に顔を入れ、無呼吸状態の長さで勝負をするゲームだそうだ。小学生の頃によくやっていた遊びのようで、栗栖は少し懐かしくなった。だが、重要な問題がある。
「水中呼吸スキルなんて持ってないけど」
「これを使って下さい」
そういってディナンに手渡されたのは、ひとつのガラス瓶だった。蓋の部分にハート形のガラス細工が付いていて、中の液体は半透明な緑色をしている。
「これはプレイヤーズメイドの『Hot薬・3級品』という薬品で、飲むと三十分間の間、少しずつ体力が回復していきます」
「ほう」
「水中呼吸スキルが無い場合、顔を水に浸けた状態ではTPが少しずつ消費されます。TPが0になった後は、そのままHPが減っていきます」
「なるほど。そのHPが0になったら負けるから、薬でHPを回復させるんやね」
「ただし私の手持ちもそう多くはないので、サメの半魚人が相手に来た場合は即負けて下さい」
栗栖は『Hot薬・3級品』を飲んだ。いついかこのお礼はしっかりしよう、と心に決めて。




