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悩んでいた栗栖がふと興味を持ったのは、神経衰弱のテーブルだった。テーブルの上のトランプが、ゲーム開始と同時にふわりと宙へ舞い上がり、くるくると回転しながら落下、そして整然と並んでいく。そこからゲームが始まる。店員がテーブルにあるスイッチをおしていたので、何かしらの魔法なのだろう。
ルールとしては、NPCの店員と二人で神経衰弱をする、というもののようだ。ただしカードの中にはランダムで魔法トラップカードがあり、それを引いた場合、持ち札が半分相手のものになる。そして魔法チャンスカードというのもあり、そのカードを引けば、失敗してももう一度カードを捲ることができる。非常に単純なゲームだった。
「これにしよか。ルール簡単やし」
「神経衰弱、ですか」
「ディナンさん、やったことある?」
「ありませんが、あまり評判のよくないゲームだということは聞いたことがあります。チャンスカードに対しトラップカードの罰則が重すぎるそうです」
どうもミニゲーム勢、というこのゲーム内でミニゲームを中心に遊ぶ層がいるらしく、その人たちの間では神経衰弱はゲームバランスが悪く、あまり評価が高くないらしい。けれど相手をしてくれる店員NPCが必ず可愛い女性で、かつそれなりに雑談をしてくれるので、そこそこ人気はあるのだとか。
「可愛い女の子と楽しくお喋りして金を巻き上げられる? なんや聞いたことあるな」
「まあ……」
ガールズバーやキャバクラとして楽しまれているようだ。ちなみに注文すれば酒も飲める。
「いうて一回のゲームが短いみたいやし、とりあえずやってみるわ」
そう言って、栗栖は開いている神経衰弱のゲームテーブルへ座った。
「こんにちは。こちらは神経衰弱のテーブルです。ゲームをされますか?」
「はい、はい。よろしく」
「賭けコインはいくらになさいますか?」
「一番少ないのは?」
「1000コインからになります」
「じゃあそれで」
「はい」
ディナンが見守る中、ゲーム開始のエフェクトがテーブルの上に光った。相手NPCがボタンを押し、重ねて置いてあったトランプが宙を舞う。くるくると周り、ポップな星型の魔法エフェクトをきらめかせてテーブルに並んでいき、NPCの女の子がにこりと笑った。
「よろしくおねがいします」
◇◇◇
2時間後。栗栖の所持コインは百万を超えた。
「いや~凄いですね。まさか全勝してしまうとは」
「落ちてくるトランプの数字、そのまんまやったからな」
「不具合というか、テーブルに伏せられてからランダム配置にする設定にしてなかったんですねぇ」
栗栖は神経衰弱で全勝していた。開始時に舞い上がって落ちてくるトランプの数字をできるだけ暗記することで、最終的にNPCより多い枚数のトランプを得て勝ち続けたのだ。
「でもあれ、トラップカードで取られるカードが半分なんやったら、落ちてくるカードを完全に暗記できる奴ならいつでも全勝やろ」
「トラップカードとチャンスカードだけはカードが並べられた後にどこかに入れ替えで入るシステムのようでしたから、完全暗記前提にするならトラップカードでカードを全部取られるようにしたほうが良い気もしますね」
「まあ全部取られてたらだいぶ、負けてたやろうけどな」
「後半にトラップカードを引いた回、焦りましたね」
まあこれはでは本来の神経衰弱として成立していないので、そのうち修正が入るんじゃないかと思います、とディナンは言った。たしかに神経衰弱として楽しむのなら修正するべきだろう。カードを舞い上げて並べる魔法のパフォーマンスを止めればいいだけだ。それだけで普通の神経衰弱にトラップカードとチャンスカードが足されただけのゲームになる。
「じーちゃん、コイン稼いできたで~」
「ほう、もう百万コインを超えたか。なかなかやるのう」
栗栖がディナンと共にソファで寛ぐフゲン老人のもとへ向かい、百万コインを超えたことを報告する。するとフゲン老人は面白そうに笑い、立ち上がった。
「では次に行こうかの」
「まだあるんかいな」
「もうちっとだけじゃ」
吹き抜けの階段を登り、廊下を進み、今度もまた大きな広間に入った。中は先ほどの部屋と同じようにゲームをしているようだが、どうもテーブルゲームではない。
「今度はここで百十万コインじゃ」
「え? 百十万? 元手は今の百万コインでええの?」
「そうじゃ。そのコインを元手に、十万コイン稼ぐのじゃ」
「急に簡単そうなん来るやん」
栗栖の言葉に、ディナンが後ろで首を横に振った。
「難しいと思います。このフロアのミニゲームは、レベルが勝利に直結するものばかりですから」
「え」
「アクション系のゲームなんですよ。それもレベルやスキル、基礎ステータスを参照した」
「うむ。頑張るんじゃぞ。十万コイン増やすだけじゃからな」
フゲン老人はそう言って、また休憩エリアのようなソファが置かれている場所へと行ってしまった。




