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「ようこそ、ディシディア・ネリス・オンラインへ。さっそくキャラクタークリエイトを始めていきましょう」
「ァア゛~~~~~~~~」
「まずはビジュアル設定です。ディシディア・ネリス・オンラインでは定型パーツを組み合わせてのキャラクタークリエイトの他、すべてご自身で制作することも、自身のパーソナルデータを引き継ぐこともできます。その他、キーワードを3つ入力してランダムで制作することも可能です」
栗栖はアナウンスを聞いていなかったが、流石に様子がおかしいと思い、オペラをやめた。青い空間の眼の前には、いかにもゲームの主人公のような良い顔をした男が人形のように浮いていたからだ。ひとまず肺活量を超えて声を出すことが可能だとは分かったので、それで良かった。
「え? なんてなんて?」
「キャラクタークリエイトの方法はどうされますか? はじめからつくるか、いくつかのなかからえらぶか、じぶんのすがたにすることもできます。かんたんにじどうで作ることもできますよ」
音声は栗栖に向けて、子供に教えるように言い換えた。そういうAIになっていた。
栗栖はそれに違和感を持つこともなく、青いポリゴンだった自分のアバターを設定できるというところだけを理解した。
「じゃあ自動で」
「ではさっそくキーワードを音声入力しましょう。キーワードをみっつ教えて下さい」
自分の容姿にそこまで興味は無いし、いちから人の姿を創作する技術などない栗栖には、テンプレートから選ぶか自動しか選択肢はない。その中でも簡単そうな自動を選んでみた。キーワードを3つと言われて少し悩んだが、深く考えずに3つを発声する。
「ヒゲ、334の蓬莱、虎」
ヒゲは長年の憧れだ。栗栖はヒゲが生えない。生えても顎に数本だけだ。体質だから仕方ないが、もみあげから繋がるようなもじゃもじゃのヒゲに憧れている。特に、好きな形に整えられる所が良い。
「ヒゲ、334の蓬莱、虎ですね。ではランダム生成を開始します」
ちょうどヨドヤバシカメラの帰りに334の蓬莱に寄ってシュウマイを買った。栗栖は334なら豚まんよりシュウマイが好きだった。もちろん電車では食べずに、家に返ってチンして食べた。栗栖からすれば、電車の中で334の蓬莱を食べることは迷惑行為だ。誰だって電車の中で納豆を食べたりしない。それと同じだった。
虎は帰りの電車でプロ野球チームのファンと思われるハッピを着た人を多くみかけたからだ。栗栖は特にプロ野球チームのファンではない。ただお祭りの空気は好きなので、なんとなく虎ファンが好きだった。
目の前にあった、ゲームの主人公の人形のようなものが消え、少し待つと新しい人形が現れた。すらっとした手足、身体は細く、うっすらと六つに割れた腹筋。顔の下半分には立派な髭がたくさん生え、頭には丸い獣耳が付いていて、細長い尻尾が揺れている。しかし獣耳と尻尾は、虎縞ではなかった。
「ヒョウ柄やん……」
獣人、それも虎獣人ではなく、なぜか豹の獣人が出てきた。
「では次の項目へ移行します。次は職業や初期ステータス、付与スキルを選択しましょう」
「いや、アカン、アカンて。豹はアカン、虎やなくても、せめて豹以外にして」
ヒョウ柄には馴染みがある。なにせ母や姉のみならず、叔母も伯母もイトコも祖母も、本家の刀自である大婆まで、みんなヒョウ柄の服を箪笥に入れている。栗栖が子供の頃は週に二回は着ていた。栗栖にとって、ヒョウ柄は女の人の柄、という意識があった。
「自動生成のやり直しは三回までです。やり直しますか?」
「やり直しますゥ」
だが二回目も三回目も、虎と入力して豹の獣人になった。そして自動生成がもうできなくなったとき、栗栖のアバターはピンクのヒョウ柄をした耳と尻尾を持つ、三本ヒゲの青年になっていた。立派な髭も失ったのである。
「そ、そんな……」
「では次の項目へ移行します。次は職業や初期ステータス、付与スキルを選択しましょう」
栗栖が失意に崩れ落ちるなか、その変化は起こった。
「職…――…はいくつ…の……――初期…があり、ピ――…ッガガ……のポイント……」
青い空間がぶれ始め、不規則なポリゴンが視界に現れた。同時に音声ナビゲーションの声も途切れ途切れになり、聞き取れない機械音が混ざり始める。
「ランダ…での選――…ですがi…転―――――……」
地面であろう場所がうねりはじめ、地震のように揺れたので、栗栖はとりあえず蹲って頭を抑えた。地震のときはそうしたほうがいいとテレビで言っていた気がしたからだ。
揺れはすぐに収まり、青い部屋も気づけば元に戻っていた。だが音声だけが少しおかしくなっていた。
「ようこそディシディア・ネリス・オンラインへ! 期間限定イベントに参加中は、時間加速が通常サーバーと異なります。ゲーム内時間で一週間の限定イベントですので、ぜひ楽しんでくださいね! それでは、ロビーへいってらっしゃい!」
「え、ちょっ」
栗栖が何かを言う間もなく、青い部屋から視界が変わっていく。同時に全身が熱くなり、目を開けていられないほどの光に全身が包みこまれ、気が付けば知らない場所に移動していた。




