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ポンコツAI『マンジュウ』と遊ぶVRMMORPG  作者: マッチョ増田
第0章 デスゲームに巻き込まれ……なかった

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 砂滑(すなめり)栗栖(くりす)は横向きで寝るのを好まない。横を向いて寝ると、下になる肩が窮屈だからだ。かといって、枕を高くすると首が凝る。だから眠る時はいつも上を向いていた。上向き睡眠は良い。首から肩をしっかり支える枕さえあれば、一日のうちの多くの時間がリラックスタイムにできるのだ。

 そんな上向き睡眠に不便を感じたのは、ネットプリックスで映画を鑑賞するときだ。ソファで座って観るのも良いが、せっかく映画館ではなく自宅で配信を観るのなら、横になりながらリラックスして鑑賞したい。だがソファに横になって鑑賞するにも、ベッドに寝そべって鑑賞するにも、寝る姿勢へのこだわりが邪魔をした。天井にモニターを設置することも考えたが、地震の時に頭上に落下する危険性を考えると、なんとなく避けたほうが良い気がしたのだ。栗栖はあまり危機感がない男だが、テレビで毎年放映される震災の番組を見てなんとなく、地震は怖かった。

 そんな時に栗栖が手に入れたのが、VRヘッドギアだ。

 昨今のVR技術の進化により、VRヘッドギアは省電力化、小型化、高性能化が進んでいた。若い子はVRヘッドギアでファッション通販サイトを閲覧し、自分のアバターで試着してから買うことが増えているし、五感の同期機能を活用して医療方面への実用化も始まった。

 そんな最新のVRヘッドギアなら、もちろんネットプリックスもアクセスができる。つまり、仰向け姿勢で寝たまま、存分に映画鑑賞ができるのだ。

 栗栖はVRヘッドギアを、ヨドヤバシカメラで一割値切って購入した。おまけで予備のバッテリーも付けてもらった。ついでに、最近調子が悪くなっていたタコ足配線ももらった。フロア責任者の店員は手強かったが、最後には笑顔で栗栖は勝利した。



「じゃあ早速初期設定してまおか」



 配信を楽しみにしている海外ドラマ、『ドエリャードン家』の新シリーズ配信は来週の金曜日だが、それまでに動作確認をしておきたいと思ったのだ。初期設定のあとは、試しに映画を一本再視聴して音響や視界、姿勢の確認をしよう。視聴するのはどの映画にしようか。『毛滅の刃』の劇場版や、『テルマエ・オマエ』、久しぶりに『ローメの休日』なんかも良い。

 ヘッドギアを枕元のコンセントに繋ぎ、ベッドに横になって頭から被る。もちろんコンセントは新しいタコ足配線だ。右のこめかみあたりにあるスイッチを押すと、真っ暗だった視界がゆっくりと白くなり始める。



『認証を開始します。脳波……――正常。視力補正……――正常。声帯認証、目の前に浮かぶ文字を読み上げて下さい』


「えーっと、じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ……ってなんで落語やねーーーん!!』



 栗栖はあまり教養の無い男だが、父が落語をよく聞いていたのでたまたま寿限無を知っていた。



『……――エラー。声帯再認証、目の前に浮かぶ文字を読み上げて下さい』



 だがヘッドギアはツッコミを理解してくれなかったので、栗栖はしかたなく、良い発音で寿限無を読み上げた。そうすると機械音声はどこか満足そうに正常、と通知してきた。



「なんっか生意気なやっちゃなー……ってうおっ!」


『五感感知機能を展開します』



 その音声と同時に視界が暗転し、気付いたら真っ白の空間に立っていた。立っているという感覚があった。自分の手足を見ると、青い透明なポリゴン製なのに、拳を握った感触まである。

 栗栖は感動した。

 自分の顔を触ったり、足踏みをしたり、口を開閉したりした。そのせいでアナウンスを聞いていなかった。



『スナメリ クリス様。ようこそ、フジマルテクニカVRシステムへ。私はハードウェアナビゲーションAIのマンジュウと申します。本日より72時間、あなたのVRライフをサポートさせていただきます。ナビゲーションAIは72時間で自動的に停止となりますが、再開はシステムパネルより設定していただけます』


「ヤバい、VRの俺、髪生えてへん! は、ハゲてる……」


『早速、内蔵されている初期特典ソフト、ディシディア・ネリス・オンライン無料体験版を開始しますか?』


「うわ、どんだけ動いても全然息切れせんな! 肺活量とかどないなってんのやろ。ンマ゛ァ゛~~~~~~~~~~!!!!!」



『では開始します。どうぞお楽しみ下さい』



 栗栖が一人でオペラを歌唱しているときに、真っ白の空間は足元から宇宙に変わった。遠くで星が無数に輝き、地面がなくなり無重力空間に放り出される。

 けれど栗栖はオペラをやめなかった。自身の肺活量を超えての発声が可能なのか知りたかったからだ。なんとなく、「無重力空間の内臓がふわってする感じ、どうやって再現してんねやろ」と考えていた。

 周りの風景は勝手に進み、栗栖は地球へ向かって、否、地球のような星に向かって進んでいく。視界いっぱいにその星が映し出された後、すぐに視界は紺色の部屋に変わった。


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