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「こんにちは、ディナンさん。お祈りですかな? ……おや、お連れの方がおられるようですな。お連れの方、……クリス・スナメリさんというのですか。私はこの教会で司教を務めております、バッサーリアと申します」
「…………。えっと、バグで……」
「……ああいえ、……ハイ、大丈夫です、クリスさん」
栗栖はキャラクタークリエイト画面でバグに遭遇したため、プレイヤーネームが本名になっていた。VRヘッドギアは購入時、個人識別のために本人確認と個人登録が必要な機器だ。それが司教に名前を呼ばれたため、ディナンに知られることになってのこの言葉だった。
だが実のところ、ディナンは栗栖のプレイヤーネームを正確に知っていた。パーティを組めば相手の名前はパーティ欄に表示されるし、そうでなくても、プレイヤーやNPCの名前を表示する設定があるので、このゲームでは名前は隠せるものではない。
しかしプレイヤーのネーミング自体は非常に多様で、本名かと思うような名前の、そうではないキャラクター名を付けているプレイヤーも多くいるのだ。ディナンは栗栖をその類のプレイヤーかと思っていた。思っていたが、今の栗栖の反応で全てを察し、そっと聞かなかったことにしようと思った。
「……寄付したいんですけど。イッカクウサギのモモ肉を十個」
「おお! なんと、ありがとうございます。この教会には孤児がおります。女神にお供えした後、子供たちの今夜の夕食にしたいと思います。ありがとうございます、クリス・スナメリさん」
「……」
「わが教会では寄付はいつでも受け付けておりますぞ。子供たちの食べ物、衣服、ベッドや布団修理のための道具など、冒険に不要になったものがあればぜひお持ちください、クリス・スナメリさん」
「……」
「どうされましたかな? クリス・スナメリさん」
栗栖はフルネームを呼ばれ続けて気が遠くなった。そして、気付けばアイテムボックスにあった、アカコマドリからドロップした毛糸の靴下を巻き上げられていた。だがそれも仕方なかった。本名フルネーム連呼攻撃はあまりにも破壊力がありすぎた。司教の強力な攻撃の前に、軟弱な栗栖のメンタルは膝を屈した。
そして靴下を譲渡したあと、司教であるバッサーリアはうやうやしく栗栖に向かって頭を下げ、真面目な口調になった。
「クリス・スナメリ様、儀式のための聖遺物をお譲りくださり、感謝します。流石、聖なるきざはしに昇らんとされるお方と感服いたしました」
「え? 急に何?」
「いただいた聖遺物は儀式までの一週間、祈りの間で然と保管させていただきます。つきましては、聖石碑に刻まれたクリス・スナメリ様の御名に祈らせていただくことをお許しください」
「……もしかして、クリスマスイベントでしょうか」
栗栖ははっとした。ここがクリスマスの期間限定イベントサーバーだと思い出したのだ。クリスマスイベントのために用意されたサーバーであり、おそらくバグだらけどころか、完成していないだろうと思われるが、クリスマスイベント自体があってもおかしくはない。
「はて、クリスマス? 私は寡聞にして存じませんが……」
ディナンが司教に色々と聞き出したところ、どうやら聖タンクローゼスを彼方から召喚し、祈りを捧げて祝福を頂く儀式というのがおこなわれるらしい。その儀式がおこなわれるのが一週間後で、それまでに聖遺物や、聖タンクローゼスの愛したものを供えるため、教会ではそれらを集めているのだとか。
そして聖石碑は、聖タンクローゼスへの祈りが届いた者の名前が輝きで刻まれるらしい。神官たちがこの聖石碑の輝いた名前に向かって祈ると、聖なる力にあやかれるとか。
その聖石碑とやらを見せてもらうと、666人の名前が黒字で刻まれていた。そう、クリスマスですゲームに参加しているプレイヤーの名前だ。
「何人かは名前が黒くなってますね……きっと何かの方法でログアウトしたんでしょう」
「それか、どっかでデスしてもうたプレイヤーか」
「低レベル帯の人であれば、そうかもしれませんね」
現在サーバーに残っている人は普通に名前が刻まれているが、栗栖の名前のところは、キラキラと淡く輝いた光の文字で刻まれていた。そしてその下に、虹色の星マークがひとつ、それよりも少し小さな、黄色の星マークがひとつ付いていた。
ディナンがアカコマドリから手に入れた靴下を司教に寄付すると、ディナンの名前の下にも黄色い星マークが付く。
「この黄色い星は、おそらく貢献度かなにかだと思います」
「なるほど。虹色はなんやろな?」
「えーっと……たぶん、クリスさんが頭に付けているものが原因だと思いますが……」
栗栖はそう言われてハッとした。そういえば、トナカイの角のカチューシャを着けていたのだった。ピンクの豹耳と尻尾を揺らし、青緑のチャンパオを着て、トナカイの角のカチューシャをした変人が今の栗栖だ。そのことを思い出し、栗栖は少しだけ落ち込んだ。




