11
「まあとりあえず、なんとかなったかな。 ……マンジュウ、次は~?」
栗栖はディナンに入念に頭を下げてお礼を言ったあと、マンジュウにそう問いかけた。すると、マンジュウは王都に戻るように言うので、栗栖はディナンと連れ立って、街道沿いに王都へ向かって歩いた。
帰り道を歩くあいだ、栗栖は時間があったので、ディナンの話を聞くことにした。栗栖は戦い方を教えてくれたり、武器を譲ってくれたり、手伝ってくれたディナンのことを信用していた。
「噴水広場でアフォガードさんと話していたのを見て、気になって声を掛けただけなんです。何か言おうとしてましたよね、アフォガードさんに」
栗栖は最初なんのことかと思ったが、アフォガードなる人物が金髪で歯が白い男だと聞いて、やっと思い出した。
「あ、そうそう、これがデスゲームやないって話をしたかってんよな。なんか話、さしてもらわれへんかったけど……」
「…………どういうことですか?」
ディナンは、笑顔を消した無表情で栗栖にそう問いかけた。その顔は今まで栗栖に見せていた穏やかな物腰とかけ離れた硬質で冷たい印象だったので、栗栖は少しだけ驚いた。そして、「これがギャップ萌えっちゅうやつか」などと思った。
「えっと、ログアウトボタンがバグってるんやけど、別のとこからログアウトできるみたいやねん。なんやったかな、マンジュウ?」
『はい。今日はどうされましたか?』
栗栖はそこから、マンジュウに教えられたことをディナンに話した。メニューボタンの左下にある設定を押し、その他からバージョン確認、そしてその一番下にある法的表示の233行目にあるリンクを押し、表示された約款の8項目目にログアウトボタンがあること、このサーバーがクリスマスの期間限定イベント用サーバー、【クリスマスです!ゲーム三昧!】として登録されていること、サーバーの仕様上、一度ログアウト、もしくはデスをしたらこのクリスマスサーバーには戻ってこられないことなどだ。そしてそれらを教えてくれたのが、VRヘッドギアのサポートAIマンジュウであることも伝えた。
「はーーーなるほど……クリスマスですゲーム……」
「現実時間の三時間がゲーム時間で一週間になるみたいやから、その期間が過ぎたら勝手にログアウトされると思うけど……」
栗栖はディナンの反応を恐る恐る覗った。よくよく考えてみれば、第三者からこういうことを言われても、自分なら素直に信用できないのではないかと思ったからだ。デスゲームだと言われ、ゲーム内で死ねば現実でも死んでしまう。なら、誰かに騙されておかしな操作をしてしまったら、その行動でも死んでしまうのではないか、と疑ってもおかしくはない。いつも遊んでいるゲームで急に命が掛かるとなれば、疑心暗鬼にもなるんじゃないか。
栗栖としては、別にそれを話しても話さなくても損はない。ただ一週間後にゲームから出られて、現実時間の三時間を失うだけだ。しかし、さっきまで色々と親切にしてくれたディナンに、嘘吐きだと罵られるのは傷付くかもしれないと思った。
だが栗栖の不安に反して、メニュー画面らしきものを操作していたディナンは納得したように何度も頷き、穏やかな笑顔を栗栖に向けた。
「いや、教えてくださって助かりました。ヘッドギアの性能上、ゲームでのデスで現実の肉体に影響があるとはどうしても思えなかったので……それにしても、噂には聞いていましたが、本当にフジマルテクニカ製のヘッドギアにはそういったAIが搭載されているんですね」
「はぁ……」
栗栖はどんな噂なのか気になったが、聞きたくないような気もしたので曖昧な返事に留めておいた。
「それで、どうして商業ギルドに行ったり、毛皮や尾羽根を獲ってたんです?」
「ああ。それは、ゲーム内でネトプリが観られるようになるみたいなんですわ」
栗栖はもともと、ベッドで寝ながらネトプリを観たいがためにVRヘッドギアを買ったこと、初期設定をしているうちに、気付けばディシディア・ネリス・オンラインのキャラクタークリエイト画面になっていたこと、そしてそのままあれよあれよという間にクリスマスデスゲームが始まったことを話した。
そのあと、ゲーム内時間と現実時間の進みの違いと、特定の場所ではゲーム内でネトプリが視聴できることを知り、一週間ネトプリ視聴三昧のために色々な行動をしていたことも、順を追って話した。
「なるほど、よく分かりました。ゲーム内からブラウザソフトを使ってウェブへのアクセスはできませんが、ハード側のAIだからウェブサイトへアクセスができるんですね。それで攻略サイトを参照して……それにしても、そんな特殊イベントを初心者に案内するなんて……さすが噂のフジマルテクニカ製AIです」
栗栖は再度どんな噂なのか気になったが、やはり聞かないほうがいい気がしたので何も言わなかった。
また、このゲームバグについて他のプレイヤーにも話していいかと聞かれたので、栗栖は頷いた。この話で不安が解消されるなら、それは良いことだろう。信じるか信じないかは栗栖の感知するところではない。信じたい人だけ信じれば良い。どうせ誰もが、遅くとも一週間後には知ることになるのだ。




