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恋愛不信  作者: あきら
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柴田の話

 ある日の朝、柴田は会社で本部長に呼び出されていた。

 ここはIT関連会社では大手で、いくつか支社もある。本部長クラスからは個室と秘書付きだ。何度も本部長室に呼び出されたことはあるが、どこも、ただタバコ臭いだけの狭い部屋だ。

 たぶん開発プロジェクトに関連する話だと柴田は思っていた。彼の今後にも影響してくる仕事だった。幾分の緊張感をもっていた。

 本部長室に行って、若い女性秘書に本部長の在室を確認した。ノックをすると、

「入れ」本部長のシガレた様な声がした。

ドアを開けて中に入ると、煙草の煙だ。本部長は仕事中でも煙草を吸うのか。そんなことを思いつつ彼の顔を見ると

「まあ、座れ」とソファを指さし、彼も少し細身の体を何とか重々しく見せようとしながら座った。その頑張りが少しいじらしくも思える。

 この業種は人の入れ替わりが激しいが、この本部長はたたき上げらしく相当長くこの会社に勤務しているらしい。彼に逆らうとつるし上げを食うということだ。彼に逆らった部長は地方へ飛ばされたらしい。どこかは知らない。どこか遠い所だ、雪の多い、寒い地方だということだった。平社員が下手なことは言えない。

「失礼します」そう言って座ると、なんとも座り心地の良い柔らかなソファだ。若い女秘書がお茶もって入ってきた。

 本部長は早速タバコを出し、マッチで火をつけた。銘柄はラークか、柴田はそう思いながら、彼が煙草に火をつけるのを黙って見つめていた。

「どうだ、部署の調子は」と、下品な目つきで彼を見つめ、本部長が聞いてきた。彼は何と答えていいかわからず、答えに窮していると本部長は彼の緊張感を見透かしたように大声を出して今度は下品に笑いながら言った。

「そう緊張するな、リラックスしろ」

 そうして煙草を一息吸うと、煙を大きく吐き出した。柴田は彼の吐き出した煙草の煙を煙たく感じたが、我慢した。柴田は煙草を吸わない。

「君にとってはいい知らせだ、柴田」そう言うと。本部長は少し優しく微笑んで、煙草の先を見つめながらゆっくりと言った。

「今度の君の部署の開発プロジェクト、君に任せる。まあ、重要なプロジェクトだ。しっかり頼む。」

 確かに今の会社の現状から考えると重要なプロジェクトになりそうだと彼は思った。だから尚更下手なメンバーでは取り組めないだろうとも考えてもいた。

「メンバーはどうするのです」

「それも任せる。全部君が部署から選んでくれ。君の所には若い優秀なのがいっぱいいるだろう」そう言うと、一口吸った煙草をガラスの灰皿に押し付けてもみ消した。

 さすが本部長ともなると、煙草は一口吸って消してしまうのか。彼がそう思っていると。ポッケトから煙草の箱を取り出し、彼に差し出した。彼は軽く手を振り断わると、箱から煙草を取り出し2本目に火をつけた。タバコの吸いすぎは健康によくないぞ。彼は言いそうになったが、つるし上げはご遠慮だ。黙っていた。

 そうすると本部長が、急に厳しい顔になり言った。

「会社の今後に影響を与える重要なプロジェクトだ、よろしく頼む。」そして2本目の煙草をくわえたままゆっくりと立ち上がり後ろを向いた。

「はい」と一言答え、立ち上がり、部屋を出ようとした。

 その時、本部長が突然振り向いた。

「そうだ。君、結婚したのか?」と聞いてきた。柴田は内心、やれやれまたか、そう思いつつ

「はい」と面倒くさそうに返事をした。本部長が彼の顔をみながら、

「どこの誰だ、いい女なのかね」とニヤリとこれもまた下品に笑って聞いてきた。

 柴田はどうこたえていいかわからず、

「それなりに」と返事をして、とりあえず彼女の仕事と年齢を答えておいた。

 実際、彼は彼女がいい女だと思っている。どこへ出しても恥ずかしくないと思っていた。


 フロアに戻り席に着こうとすると吉本が声をかけてきた

「本部長のおよびだって?」いやらしい声だ。

 柴田はこの男が嫌いだった。彼と同じ大学を出ている男だが、彼はこの男の人格は2流だと思っている。もちろんやつの仕事自体も2流なのだ。前回も当然プロジェクトから外したが、そのことをいまだに根に持っている。

「お前には関係ない」柴田はきっぱり言った。

「プロジェクトの件だろう」吉本がしつこく聞いてくる。

 柴田はわかっているなら聞くな。内心そう思いながら黙っていた。この男は何かと人の粗探しをしたがる。どこの会社にでもいる、一番嫌われるタイプだと柴田は思っていた。まあ、相手にしないのが一番だ。今回もメンバーには選ぶつもりはなかった。

 そう、メンバー選出。柴田はこのメンバー選出に苦労しそうだと思っていた。

選ばなかった人間との間にどうしても確執が生じてしまう。その溝はなかなか埋めづらい。関係を悪くすると後々の仕事、人づきあいにまで影響してくる。性格の悪い連中のいびりは執拗だ。前回任されたプロジェクトでも、選ばなかった足立とはいまだに仕事がしづらい。そんなことを思っていながら、「とりあえず早めに木島は抑えとかなければ」、そう思い彼に声をかけた。

「木島、ちょっといいかな」

「なんですか」スマートな声だ、スーツもいいものを着ている様に見える。

 この男は某有名私立大学卒のエリート社員で、同期の間でも出世頭と目されているらしい。

「今度のプロジェクトの件だ」柴田は言った。

「やっぱり先輩が仕切るのですか」木島が柴田にあこがれる様に言った。

「とりあえず仕切らせてもらう。君も手伝ってくれ」柴田が言った。

「わかりました。お手伝いします」やっぱり、スマートな返答だ、この男に頼ればプロジェクトもスムーズに進むだろう。実質的に彼に仕切らせればよいのだ。柴田はそう思いほっとしていた。

その日会社で柴田は悩んでいた。プロジェクトとのメンバーがなかなか決まらないのだ、自分を含めて6人と設定したがあと一人・・・・。まず木島、斎藤、この二人のC言語の腕は社内でNo1と言っていい、外す訳にはいかない。そして高橋の開発力、そうなのだ、彼の想像力は開発に必ず必要だ。林。プロジェクトを進めていくうえで彼の総合的な技術力というものは必ず必要になってくる。あと一人。そう、あと一人がなかなか決まらない。

 若手社員が何かと声をかけてくる。普段、会話をしたことのないような連中が何かと声をかけてくる、柴田は彼らを平然と見つめ、腕を組んで目をつむった。確かにプロジェクトの参加回数は人事評価の対象だ。昇進への近道だ。

 そしてこのメンバーで何が欠けているか考えたがなかなか出てこない。

 3時の休憩時間に、女子社員のグループが集まって会話している。この会社は女子がほとんどいないが皆優秀だ。

 それを見つめて柴田はピンときた。そう女子、女子社員を加えよう。そうすればプロジェクトに花が加わるようなものだ。柴田はそう思い、自分の中の「マチズム」を反省しつつ、早速1人の女子社員に目を付け、近づき話しかけた。

「高田さん、今回のプロジェクト興味ないかい」ずばり聞いた。彼女の心臓の鼓動が高鳴るのが聞こえた様だった。確か彼女は入社2年目25歳。柴田から見れば自分の娘のように見えた。

「えっ」彼女は急に顔を赤らめて柴田を見つめた。

「あたしなんかでいいんですか」

 なんて初々しいのだ。きっとまだ男を知らないに違いない。そんなことを思いつつ。

「勿論だ。だからこうして声をかけているじゃないか」

 彼女ははにかんだ様に下を向き少し考えてから。柴田を見上げ、

「はい」と元気に答えた。その瞬間に彼は彼女に圭子にない魅力を感じた。確か彼女は入社2年目25歳、そこに何か圭子にない魅力を感じ、困惑してしまった・・・。


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