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恋愛不信  作者: あきら
12/13

二人の結婚記念日

2年経って柴田は帰ってきていた。そしてお互いに何事とも無かった様にもとの生活をしていた。

そのころ圭子の生活は、朝はいつも柴田より早く起き、そして食事をする事もあるが、いつもはほとんど朝ご飯を食べない一日2食主義。彼女が時々朝、食事をするとき、彼はまだ寝たままだ。起こすと機嫌が悪いので、起こさずに自分だけで食事をする事にしている。食事と言っても買い置きの食パンに、買い置きのバターと、買い置きのはちみつ(バターも、はちみつも結構高価なものだ)を塗って3分焼くだけ。飲み物は買い置きの牛乳に、買い置きの粉の青汁を入れ、はちみつを入れてかき混ぜる。よくかき混ぜなければ青汁も、はちみつも解けないのでよくかき混ぜる。これだけ。食事を済ませると、さすがに彼をそろそろ起こさなければ、そう思い、彼を起して自分は出かける。だから彼がどんな朝ご飯を取っているか知らない。

朝に乗るバスの込み具合はいつもほとんど変わらない、そして座れる。バス停には朝はだいたい10人程度待っているが、始発点なので必ず座れる。終着駅までバスに乗ることになるが、終着駅に着く頃にはバスは満杯状態。運転手はもう乗れません、次にしてくださいと言いながら、乗車口を開ける。

 仕事は数字の計算問題、中学時代の試験問題を解かされているような気が彼女はしている。時々高校級も出てくるのだが、数学は好きだったので面白い。それを基に資料を作成し、そして会議で発表する。この会議は各部署部長クラスが出席し、もし間違いがあったりするとここで攻め上げられる、この攻めが厳しいので気が抜けない。

 彼女は昼休みの時間はほとんど後藤と一緒だった。若い女の子のグループに交じって食事をする事もあるがやはり話題に全くついていけず、苦痛すら感じ、結局一人になる。そうすると後藤が近づいてくる、この繰り返しだ。昼ごはんのメニューは会社の食堂のA定食550円。魚と肉料理が1週間に交互に出てくる。そして自動販売機の野菜ジュース130円を飲むようにしている。一日の出費はこの680円である。

 3時の休憩時間にはラジオ体操がある、参加は自由だが彼女は必ず参加するようにしている。この時間に体操をすると体中の血行が促進されるような気がする。彼女が参加するようになってから、参加者が増えたと評判になっている。彼女は、ここは一発、見たけりゃ見せてやる。そう思いブラジャースケスケのTシャツ一枚に着替えて体操をしている。このTシャツは去年彼女が近所の藍染め教室に参加した時に、その藍染め工房で500円で自分が手染めしたもので、彼女お気に入りのTシャツだった。

 4時を過ぎる頃、彼女はいつも仕事が重く感じてくる。定時は5時半だが、それまでの1時間半がかなりハードな上り坂に感じられる。そこで気を抜くと残業ということになった。結局短時間で過酷にやりきるか、長時間で楽にするかの違いである。

 帰りもバスに乗って約40分あるが、彼女は必ず座れるので楽だと思っている。眠っていても終点まで行く事になるので着いたら運転手が起こしてくれる。

「お客さん、着きましたよ」

ありがたい。

バスの中ではよく高校生、中学生の女子一群と一緒になることがあるが、彼女たちがうるさい。何が楽しいのかきゃあきゃあ騒ぎながら話をしている。自分にもあったあの頃だ、圭子はそうは思ったが、腹ただしくて、一度前の席に座っている女子高生のポニーテールの髪の毛の縛り口を、捕まえて思いっきり引っ張ってやろうと思うがさすがに実行できないでいる。

バスを降りて10分くらい歩く。途中のスーパーで晩ご飯のおかずを買っていく。彼女はここの総菜はなかなか美味しくてボリュームがあるそう思っている。そしてこの時間は30円引き、気前のいい日は50円引きということもある。

そして部屋に着く。

今日は、柴田は帰っていた。

「ただいま」彼女が言った。

「おかえり」新聞を読んだまま彼が言った。


柴田が風呂に入りそして食事をした、圭子は食事をしてから入る。彼女は少しぬるめのお湯がいいのだ、シャワーを浴びて時間をかける。

 風呂に入りながら圭子は考えた。もう冬、しかし今年もまだ雪はない。そうだ部屋は何も冬の準備していない、そろそろ始めなければ。彼の服も夏物のままだ。そう、そして今年の冬はダウンのコートを新調しよう、何色にしようか。そんなことを考えながら彼女は風呂に入った。

そして圭子は風呂から上がり、本を読んでいる柴田に言った、

「お願いがあるの」

「何だい」柴田が本を読んだまま答えた

「私、今年の冬はダウンコートを買おうと思っているの」

圭子が言った。

「いいね、僕もダウンが欲しい、お揃いにしようか?」

柴田が、本から顔を上げて言った。

「素敵、おそろいのダウン、お揃いなんて初めてね」圭子ははじけるような笑顔を見せて喜んだ。

「次の休みに買い物に行こうか」柴田もニッコリと笑って言った。

「久しぶりのデートね」

圭子が言う。

「そうだった、次の休みは結婚記念日だ」

柴田が答えた。

「あら、覚えていたの」

圭子が柴田に抱き着き叫んだ。

さっそく次の休みに二人で街に出かけてダウンコートを買った。二人で街へ出るのは久しぶりだ。ダウンは圭子が深い赤、柴田が深い緑だった。柴田は緑色が好きらしい、圭子はそう思った。結構高価なダウンだった。二人はどうせ買うならいいもの主義だった。安いものは買わない。そしてその日が偶然にも結婚記念日だったことがさらに圭子を喜ばせた。

お昼は二人でラーメンを食べた。山岡家のラーメンである。圭子は山岡家のラーメンが好きだった、何がどうと言われてもわからない、コクだの深みだの、香りだの辛味だの抽象的なことは分からない、ただ決定的に美味しいだけである、そう感じていた。二人で外食も久しぶりである、彼女は子供のようにはしゃいだ。

夜は寿司を食べた、「結婚記念日、贅沢をしよう」柴田がそう言ったのが圭子を感動的に喜ばせた。圭子は部屋の近くのトリトンが好きだったのでそこへ行く事にした。

「私はサーモンが好き」

圭子が言うと、柴田が答えるように言った。

「僕は何といってもトロ、脂ののった、とけるようなトロが好きだ」

二人は買ったお揃いのダウンをさっそく着ていた、その日の柴田は久しぶりに楽しげな表情を見せ、そして二人はお酒を飲みながら寿司を食べた。お酒を飲んだということが、その夜を一段と素敵な結婚記念日とした。しかし二人が心の奥底で何を思っていたのか、お互いをどう思っていたのかは知らない。それは二人だけしか知らない。

 圭子は部屋に帰ってからのことはよく覚えていなかった。ただ素敵な夜だったという以外は・・・・。


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