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全ての練習を終える頃には、長くなってきた日もとっぷりと暮れてしまっていた。顧問がお疲れ様、と言って教室を後にし、その後部長の解散の合図で本日のサークル活動は終了となった。部員達がそれぞれ連れ立って帰ったり、アルバイトや友人を待つからと一人で行ってしまう者などとそれぞれに解散していく中、翔は完全に立ち往生してしまっていた。どうやら、柘植が部長に翔の特技、腹話術の話しをしてしまったようだ。そして、その話しに見事に食いついた部長が、翔とどうしても話しがしたいと言い出したのだ。正直、翔は人見知りな上に演劇にも興味は無い。たまたま、今回の仕事に平生から行っている腹話術が役に立っただけで、演劇談議なんぞを振られても良く分からないだろう。そんな事よりも、結愛の護衛をしたいという気持ちが体全体から溢れ出ている。視線はちらちらと結愛の方を見つめ、部長や柘植の話しは心ここに在らずと言った風で、むしろ離れた所で朝、昼と一緒にいた女と話している結愛の方の会話に耳を澄ましている。
「野兎さんも一人じゃ不安だと思うし、桔梗ちゃんも一緒に飯行こうよ」
突然の柘植の発案に翔の意識が一気に気障野郎に向く。結愛も急に呼ばれた自分の名前に不思議そうに顔を上げた。そんな結愛の表情を見た翔はすぐに結愛に歩み寄り声を掛ける。皆で食事に行かないか、と。そして体を少し横に向けあの女に話し掛ける。
「あなたも良かったら、お話し聞かせてください」
翔はサークル内での結愛とその周囲の人間関係をハッキリさせるつもりらしい。
一緒に飯、と言っても所詮は学生。良いとこファミレスだろうと予想していたが、それは的中した。翔は嫌々ながらも自分で決めた事だと、マスクとオレを外し素顔を晒す。みんな次々に食べたい物を注文していく中、翔は飲み物だけでは誤魔化せないと悟ったのだろう、腹を決めた様子で適当にピラフを注文している。
注文が終わるとさっそく翔の特技の話題になる。自己流なのか、どれくらいの種類の声色が出せるのか、普段はどんな練習をしているのかなどなど。部長と気障野郎が代わる代わる質問や実演を求める。実際は物心つくかつかないかの頃から人見知りだった翔の日常がこうなるきっかけだったのだ。練習も何もない。翔は適当な嘘を吐きながらやり過ごし、注文の品が届いた後は適当に頷き、視線を誘導する事で他の四人に上手く喋らせる。そうする事で、また四人の関係が分かったようだ。




