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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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練習の合間の休憩時間、柘植に声を掛けられた。今度は前からだったので翔も驚くことは無かったが、正直なところ会話とか面倒くさいのだろう。曖昧に首を傾げてごまかそうとしている。しかし、その姿もここの女子部員達にはかわいこぶりっ子に見えるんだろう、めっちゃ睨まれてる。挙げ句の果てには、この気障野郎が横に座って肩なんか抱かれてる。翔は完全に死んだ魚の様な目をして気障野郎とは反対を向いてしまっている。

「野兎さんはなんで演劇に興味持ったの」

馴れ馴れしく近寄る男にうんざり気味の翔は黙ってオレを気障野郎に向ける。

「オレはうさぎだ」

翔は腹話術でオレに喋らせながら立ち上がる。もちろんさり気なく席の場所も変えている。

「もしかして人形劇に興味あったの」

気障野郎はオレと翔を馬鹿にしたように薄ら笑う。オレはかなりいらっとしたが、翔も相当いらっとしたのだろう。黙ってマスクを外し、気障野郎に向き直ると俺を喋らせ始める。

「人形劇なんかじゃない」

「腹話術です」

「お前に馬鹿にされる」

「謂れはないね」

翔は全ての言葉を違う声色の腹話術で喋る。それに気障野郎は相当驚いたのだろう、びっくりして声も出ない様だ、ざまあみろ。

翔はそれですっきりしたのか、気障野郎とは教室の中心の部長を挟んだ真反対に移動して再び座り込んだ。まあ、女子部員には気障野郎とのやり取りなんて聞こえて無いから、睨まれたままだったけど。

時間が経つにつれて、教室内の人が増えてくる。

そこへ、白衣姿に銀縁眼鏡の男がふらりとやって来た。見た目は翔より歳がいくつか上で中肉中背、白衣は油絵具だろう、所々にカラフルな模様が出来上がっている。部長やその他の部員達が口々に挨拶をしている。たぶん顧問かなにかだろう。その男は翔に気が付いた様で、翔に近付いてくる。こちらに来るのを見て翔は立ち上がる。

「見学者かな。私は顧問の"朴木"です」

笑顔の自己紹介に翔も返す様に、野兎です、と答える。楽しんでいってね、との顧問の言葉に翔は、ありがとうございます、と返した。実に人見知りの翔らしいやり取りだ。全身で早く会話を切り上げたい、と言うのがひしひしと伝わって来る様だ。とは言っても、顧問が部長の元へと行ったら直ぐに携帯電話のカメラを起動してシャッターを切っている。

そうこうしている間に、今回の舞台の演者が全て揃ったのだろう、部長が部員達に声を掛ける。

「じゃあ、そろそろ全体の通し練習始めるぞ」

衣装以外は全て揃えて行う通し練習。もちろん役者のスタンバイ位置も小道具も、背景に照明、音響まで揃えられている。他の演目で衣装替えを何度も行う物であれば、衣装も通し練習の時に身に着けて練習するらしい。しかし、今回はその必要が無いため特に着ることはないそうだ。

結愛の方を見ると、今朝、そして、昼食の時に学食で一緒にいた女と会話している。あの女とはかなり仲が良いようだな。後で名前だけでも確認するべきだな。翔も気になったのだろう、今日写した女の写真を携帯のフォルダから一生懸命探している。翔はフォルダから女の写真を何枚か見つけた様で、何度も繰り返し、繰り返し隅から隅まで写真を眺める。そして、写真を眺め終わったかと思うとステージ脇に待機している女のことをじっと見つめ始める。そして、女の動きや視線の先を事細かに追いかける。そうして、何か気が付いたのだろう、翔は自分の口元に俺を嵌めていない右手を添えると、口は相変わらず動かさないままに小さく呟いた。

「辛いな」

と。

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