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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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学食から外へ出ると陽射しが眩しく、目が痛い。何とか痛みをこらえ目を見張ると桔梗さんがこちらを見ているのが見える。俺は少し近寄り、軽く会釈をしてから改めて彼女に近寄り挨拶をする。彼女はにこりと笑うと同じように挨拶を返してくれる。そして二人、肩を並べ広いキャンパス内を歩いて行く。その間も彼女に会釈をする人間や、話しかける人間が何人もいる。その度にどういう関係の人間か尋ねてみるも、多くがよく知らない人間で、一方的に知られているようだった。彼女に心当たりを聞いてみると、やはりサークルでの舞台出演がきっかけの様だった。そう考えると、ストーカーにとってこの環境はとてもやりやすい環境と言えるだろう。なにしろ、大学の近辺やキャンパス内であれば、誰がどこから彼女を見ていても、声を掛けてもそうそう怪しまれないのだ。同じ大学の学生であれば、それはなおさらだ。俺は演劇サークルの練習場へ向いながら、送り迎え以外の時間はほとんどを護衛に回すべきかと悩む。

悩み悩み、それでも辺りをきょろきょろと見ながら歩いていると、いつの間にか練習場にしているらしい大教室へ到着していた。

「着きましたよ」

桔梗さんの声ではっと意識を彼女へ向ける。彼女が開こうとする扉の向こうから、張りのある声が聞こえてくる。扉が開くとその声は更に大きく強く聞こえてくる。意外にも本格的で、これがアマチュアとは言え、演劇をする人の声なのかと少々驚いた。教室へ入るなり、一人で立ち尽くしてしまった俺に桔梗さんがサークルの部長さんを紹介してくれると言った。正直なところ、今日はとりあえず写真を撮る事さえ出来れば後の人間関係は桔梗さんに直接聞くつもりだったのだが、サークル見学なのに部長に挨拶無しもおかしいよな。彼女の後に付いて大教室のど真ん中より二、三段下の席に腰掛ける部長さんの所へ向かう。側まで行くと彼女は俺を見学者として紹介してくれた。俺はなるべく目立たず、怪しまれない様に、事前に口元をマスクで隠しておいたのでそのままいつも通り腹話術で挨拶をする。

「初めまして、このサークルの部長兼監督の"材木谷"です」

明朗快活で意志の強そうな男だ。肉食系男子を擬人化するとこんな感じだろう。俺は普段より高めの女性らしい声色で挨拶を返す。声色を変えるなんてのは腹話術では出来て当たり前だ。

「初めまして、野兎です」

頭をゆっくりと下げて、会話はここで終わりだと言わんばかりに視線を黙って他の部員達の方へ向ける。それに釣られるように、部長と桔梗さんは部員達が集まる一番下のフロアに降りていく。俺も後に付いて歩きながらある事に気が付いた。この部長と桔梗さんは男女の関係がある、もしくはあったという事だ。と言うのも、二人の間隔が近すぎるからだ。確かに彼女は色々な人と親しくしていたし、もちろん中には男性も多くいた。しかし、その中の誰よりもこの部長は彼女と物理的距離感が近いのである。それゆえ、この部長はよほど特別なのだろう。しかし、彼女は打ち合わせの時に現在お付き合いをしている様な人間はいないと言っていた。それを信じるのであれば、後者の関係になる。もしくは、彼女がこの部長に惚れているということになる。だが、これは無いな。あの距離感は一方的と言うよりも互いに無意識に取っている距離感の様に見えた。

下のフロアまで降りると、俺はまるで品定めのように、上から下へと舐めるように見られる。どちらかと言うと、女性からの視線が多い、と言うより痛い。それは決して見学者や新入部員に対する歓迎や物珍しさから来るような見られ方ではない。そうそれは、例えるなら敵か見方かじっくり見極める様な視線だ。これは一体なんなのか、理由がさっぱり分らず軽く挙動不審になった俺に、彼女がこっそりと教えてくれる。

「みんな、部長達に憧れてるのよ」

彼女の一言で合点がいった。つまり、少しでも部長さんに好意を抱きそうな女は敵になるという事か。しかし、彼女は部長"達"と言った。"達"とは他にもこの視線の原因がいるという事なのだろうか。男として、なんて羨ましい奴らだろうか。どうせなら俺もこんな敵としての視線ではなく、憧れの視線を集めてみたいものだ。

「桔梗ちゃん、見学者かい」

いつの間に後ろへ来ていたのか、突然後から両肩を掴まれる。驚いて振り向くと、俺よりも高い位置に男の顔がある。少し気障っぽいが部長さんとは別の意味で肉食系男子に見える。

「"柘植"さんよ。柘植さん、見学者の野兎さんです。この子、驚いてるみたいなんで離してあげてください」

柘植さんの気が桔梗さんに行った隙にささっと彼女の影に下がる。彼女と柘植さんの会話は続いているが、こちらは男女の関係は無いように見える。

それよりも、だ、部員達、主に女子部員達の視線がこれまた痛い。つまり、"達"の一人はこの気障野郎な訳ね。

そんな事を考えながら、桔梗さんと部長さん、柘植さんの様子を見ていると、部長が部員達に向かって大声を出す。とても良く通る声だ。役者としてステージに立っても目を引く、いや、耳を引くと言うべきか、とても良い声をしている。

「そろそろシーン別の練習をやるぞ」

その声を合図にそれぞれが自分の役割を演じるため移動する。桔梗さんも柘植さんもそれぞれの役割のため移動する。俺は部長さんに呼ばれ、最初に部長さんが座っていた辺りの席へ移動した。

「これからやるのはシーン別の通し練習だ。本当は全体の通し練習が出来たらいいんだけど、授業の関係でどうしても人数が揃わなくてね」

つまり、演者が全員揃ったシーンもしくはそれに近い状態のシーンだけを取り出して練習をするという事らしい。そして、全員が揃う放課後に練習量が少ないシーンや全体の通し練習を行うそうだ。

俺はまた女子部員に睨まれるのが嫌なのと、桔梗さんと演劇サークルの関係を見るため、部長さんから離れた位置で全体を見渡せる場所に座り込む。いくらかの人間が、朝からここに来るまでの間に写真を写していた。そうは言っても正体不明な人間の方が圧倒的に多い。とりあえず、彼女が空いているタイミングで彼女にやたらと近づく人間は覚えておこう。

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