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「行ってきまーす」
楽しそうにお風呂セットと鍵を手に大浴場へ向かう狛を見送り、俺も風呂の支度をする。うさぎはちゃぶ台に置いて、着替えは浴衣が備え付けであるので、下着とバスタオルを準備し、部屋の奥にある露天風呂へ。
俺は、身体も頭も全部洗ってから湯船に浸かる派なので、とりあえず備え付けのシャンプーやボディソープなどで全身を洗い清めていく。洗い終わり、泡をシャワーで流し終わると、全身がスッキリした。外の風が濡れた肌に少し冷たい。身体が冷えきる前にお湯に入ろうと、足先をお湯に浸けると思ったより熱くて、びっくりして転びそうになった。露天だから温めだと思ったのだが、俺は予想以上に熱さに弱かった。家で風呂に浸かるときはばあちゃんの後だから露天風呂より温かったようだ。もう一度、熱さへの覚悟を決め、そっと足をお湯に沈めていく。なんとか身体をお湯に沈めきると、身体がぴりぴりする。その感覚にしばらく耐えると、熱さに慣れ身体がほっこりしてきた。
「はぁ…」
自然と口が小さく息を吐く。木枠で囲われた風呂の縁に身体を寄りかからせてのびのびと足を伸ばす。家の風呂はここまで広くないから久しぶりに足を伸ばして入れた。お風呂の中で、ぐっ、と背伸びをするように腕から足先までを伸ばすと、疲れが取れていく気がする。このまま寝られそう…。
「ただいまー…」
扉の開閉音と狛の若干疲れた様な声ではっとする。少しだけ寝てたようだ。危ない危ない。下手すると死ぬところだった。俺も風呂からさっさと出よう。ざばっと音を立てて立ち上がると目の前がぐらりと揺れる。やばい、のぼせた…。
「翔っ!?」
遠くで狛の声が聞こえた。
ざーざーと水の流れる音と、身体が冷えていく感覚。というか、寒い。目を開けると、目の前には心配そうに俺を見つめる狛の顔。
「大丈夫か?どっか痛いところないか?」
ごめんな、温泉から部屋まで迷って帰るの遅くなった、と申し訳無さそうに言う狛。悪い事なんてどこにもないのに。
「俺こそ悪かった。驚いたろ?」
ゆっくり起き上がろうとする俺に手を貸しながらも俺にシャワーを掛け続ける。肘と尻と肩がズキズキする。倒れたときにぶつけたかな。
「…寒い」
身震いで身体が震えた。起き上がって分かったが、真っ裸で倒れた俺に、狛は冷水をシャワーでぶっかけていたようだ。寒いと言った俺に気を使ってシャワーの温度を上げてくれる。温めのお湯が当たりじんわりと心地良い。
「もう一回風呂入るか?」
「少し入る…」
身体が芯まで冷えている。そっと身体の調子を確かめながらお湯に入る。また、身体がぴりぴりした。一息ついて、改めて狛に礼を言おうと思い、狛に視線をやると、狛はびしょ濡れに。どうやら俺を冷やすのに自分も水を被っていたようだ。
「悪い、狛。お前も風呂入れよ。風邪引くだろ」
慌てて呼ぶと狛も寒かったようで、濡れたTシャツとジャージ、下着を脱ぎ捨ててお湯に入る。
「熱っ…!!」
そういえば狛も熱い風呂苦手だったな。身体がぴりぴりするのか腕や背中を擦っている。
「あー、着替えどうしよう…」
下着替えたばっかりだったのに、浴衣苦手なんだよな、なんて言いながら手足を伸ばしている。
「ノーパンで浴衣だな」
と冗談を言ってやると、狛の動きが止まり黙り込む。しばらく沈黙していたかと思うと、神妙な顔付きで俺を見る。
「それしか無いかな?」
俺の冗談を本気で考え込んでいたらしい。俺は、こいつのこういう所が結構好きだったりする。
「浴衣はともかく、下着は履いてきたやつ我慢して履けよ」
そして、旅館の売店に売ってたら買ってやるよと、助かった、ありがとうと、介抱の礼とともに一言言ってやった。
「可愛いのあるかな?」
普段からキャラクター物のボクサーパンツばかりの奴の趣味に合うパンツは無いだろう。今日も見たことあるような、だが名前は分からないキャラクターのボクサーパンツを穿いていたようだ。
「流石に無理だろ」
温泉の温度が皮膚を通して身体をぽかぽかと温めてくる。今度はのぼせないようにしないとな。
「そういえば、さっきお前に水掛けてる時に思ってたんだけどな、この旅館って新館と旧館がくの字型に向き合ってるだろ?それでさ、旧館からこの部屋って覗けないかなって。双眼鏡とか使って…」
始まった、狛の職業病。小説のネタに使えそうな場所チェック。そういえば、ここは覗き・盗撮チェックしてない場所だった。
「そこまでは確認してなかったわ」
後で調べるか?と聞いてみると、小説に使うならちょっと考えてみるかなって感じだな、と狛が目隠し用の壁の向こうを覗こうとしている。
「一応、湯船からは覗けなさそ…う…?」
「じゃあ平気かな…」
「いや、シャワーの辺りなら…んー…」
なんて話しているうちに身体も温まり、二人で湯から上がりながら浴衣に着替えた。




