33
バスの席順を決めるくじ引きを適当に引くと、バスの一番後ろのど真ん中。パリピ席じゃん。嫌々ながらも自分の引当てた席へ向かうと、右には何となく顔に見覚えがある気がする男が既に座っていた。視線と頭の動きと愛想笑いを混ぜた挨拶を済ませ、拳一つ分ほど隙間を空けて座る。その後も続々とくじ引きを引き終わった同級生がバスに乗り込んでくる。ぐるりと見てみると、斜め左前の席に猪又が座っている。先に座ってたはずだが見逃していたようだ。そして、俺の左隣にはこれまた顔に見覚えがある気がする女性が、周りに座る同級生や俺や猪又にも向かって、「久しぶり」などと挨拶しながら座った。右隣に空けていた隙間を少し狭め、左隣に隙間を作った。
「猪又君と狛君と野兎君が同窓会に来るなんて珍しいね」
村上理香、だったかな。猪又の方をチラチラと見ながら話しかけてくる。
「田崎にどうしても、か…野兎を連れて来いって言われたんだよ。誘いに行ったらついでに猪又もいた」
「そうなんだー…」
村上さんの視線は完全に猪又にロックオン状態。あー、落ち着かない…。ソワソワして視線をバス中に彷徨かせていると、翔が前の方で座ったのが見えた。とりあえず、翔の横の席の奴に席を交代してもらおう。
その前に、俺の席に猪又座らせとくとするか。
「猪又ー、ちょっと…」
バスの中、翔の人見知りを察知した狛がすぐに座席の交代を申し出てくれた。オレとしても知らない女の横にずっといるのは疲れる。
席を交代するとき、"吉岡 さゆり"からの視線は少し気になった。なんというか、とてもオレという存在を意識しているような?まあ、ぬいぐるみが何言ってんだって感じだが。
席を交代した狛は、さっさと眠り込んだ翔をよそに、自分だけひざ掛けを掛け、パーカーで顔を隠すように陰りを作る。そして、眠りやすい体制をつくると、片手でオレの顔をもにもにしながら、もう片方の手で携帯を軽く確認しながら眠りについた。
ほんと、こいつら自由だよな。
目的地に着くと、意外にも猪又が起こしに来た。
「おい、着いたぞ。さっさと起きて降りろ」
翔と狛の肩を揺さぶり起こす。
「あー…」
「んぅ…」
二人揃って寝ぼけながら手荷物をまとめると、猪又のジャケットの裾に狛が掴まり、狛がオレを掴んでいるので、まるで翔と狛は手を繋いでいるようになる。
周りの同級生からは猪又が「お父さんだ」と囃されている。しかも、バスの階段や人の有無を気を付けて歩かせ、二人に自分たちの荷物を持たせるとまたもや二人を引き連れて宿の中へと入っていく。
猪又は情が移ると完全に面倒を見てくれる奴のようだ。良いやつだ。




