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ストーカーは結局、痴情の縺れが原因だったと言ってもいいのだろう。桔梗さんにとって、仁柳さんの存在は十分特別で、もしかしたら恋愛の対象の内にも入っていたのかも知れない。まあ、結局選ばれたのは朴木さんだったけれど。
今回の殺人事件で重要な参考の一部に写真がある。桔梗さんと仁柳さんのツーショット。俺が、隠し撮りしたものだ。お互い、無意識だったのかも知れない。でも、他の人には見せない表情や視線が絡み合う写真が何枚も見受けられた。それこそ、朴木さんはもちろん、材木谷さんや柘植さんよりもだ。一緒にいる時間が長いというのも一つの理由だったかもしれないが、確実に二人の間には特別な感情があったんだ。
俺が、もう少し早く、その事に気が付いていれば、桔梗さんを死なせることも、仁柳さんを殺人犯にすることもなかったのかもしれない。おこがましい考えだというのは自分でも十分分かっている。でも、二人の特別な関係。もっと早く気がついていればと、後悔が消えることはない。
警察へ連行されてからの仁柳は罪の全てを自供した。犯行方法は翔の言った通りだった。
「お前は、あの二人が両思いだったと思うか?」
仁柳の取り調べが全て終わった後、猪又が翔の下宿に訪ねてきた。
二人とは、優愛と仁柳の二人の事だろう。翔は、改めて二人を写した写真を眺めると、優愛と朴木、材木谷、柘植とのツーショット写真とを一緒に猪又の前に広げ立てる。
「お前にはどう見える?」
オレを通す声。翔は眉を顰め、今にも泣きそうに、そして口惜しそうにする。どう思っているかは表情が語ってしまっている。
「そうだな、俺には…」
猪又も翔の様な表情を見せた。
しばらく、猪又と黙って茶を飲んでいると、下から聞き覚えのある声が響いてきた。
「ばあちゃん久しぶり。翔、いる?」
懐かしい、と言っても最後に聞いたのは一月も立たない位前で、俺が、部屋から顔を覗かせると、手を挙げて軽く挨拶してくれる。
猪又が来ているとはいえ、特に気を使うこともない。何故なら、今来た来客も猪又と知り合いだからだ。
「あ、客って猪又だったんか」
準備良く、左手にはお湯の入ったポット、右手にはお盆に急須と湯呑を乗せて持ってきている。
「久しぶりだな」
人の良い笑顔を見せるこいつは、"狛 謙太"。俺の幼稚園からの幼馴染で、猪又とも高校の同級生で、大学は学部は違ったが同じ大学を卒業している。
いそいそと、三人分の茶を淹れながら今日、ここへ来た用件を話し始めた。
「今度、高校の同窓会有るだろ?翔、行くか?」
そして、視線は猪又へも向けられ、とうするんだ?と問いかける。
「そんな知らせ、いつ来た?」
猪又が狛に訊ねると、狛は斜め上をぼんやりと眺めながら何かを思い出すように、うんうんと頷くと、
「たぶん、二、三日前…くらい?」
と、逆に俺に確認するような視線を向ける。二、三日前と言えば、俺も猪又も事件の真っ最中。一応、ばあちゃんが俺宛の郵便は部屋に置いておいてくれてはいるが、確認はしていなかった。ここ数日の間に溜まった郵便物から同窓会のお知らせを探し出す。消印は四日前だった。
「あらまあ…」
とぼけて狛が茶をすする。
ハガキには熱海の温泉旅館で一泊の同窓会と書いてある。しかも、なかなか有名な旅館の名前が書いてある。が、会費は15,000円。
「本当にここで同窓会するのか?しかも一泊」
俺は猪又にもハガキを渡し、狛に内容を確認する。
「幹事に一応確認したぞ?会費は大丈夫なのかって。そしたら、女子の方の幹事がそこの旅館と仕事で取引が有るから、人数がそれなりに集まりそうなら大丈夫らしい。って言ってた」
「珍しいな、狛がわざわざ同窓会のお知らせに反応するなんて」
狛は俺と同じく、同窓会とか行きたくないタイプだと思っていたが。
「いや、わざわざ俺の携帯に男子の幹事から連絡が来た。俺の番号、高校の頃から変えてないし。いつも断ってたんだけど、今回のはどうしてもやりたいらしい。こんなに安く、この旅館に泊まれるなんてそうそう無いらしいから。で、人数集めに翔も誘えって。ついでに猪又も来いよ。お前も同窓会行ってないだろ?」
じっと俺と猪又の目を交互に見つめる瞳に、断るのも憚られる。
「良いぞ」
俺が、行くと言うほんの数瞬前に猪又が返事をした。それに勢いを削がれながらも、無言で頷くと、目の前の友人の顔が笑顔に変わる。
これで断ってたらこいつに幹事に断りの連絡をさせなければいけなかったんだよな。それは申し訳ないからな。
まあ、一泊位なら、狛もいるから大丈夫だろう。最悪、猪又もいるし。黙って、温泉浸かって飯食って寝て、温泉浸かってりゃなんとかなるだろう。それに狛がなんとかするだろう。
狛はなんだかんだ面倒見が良いからな。




