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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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最近、インターネット界隈で"匂わせ"というものがあったような気がする、ということを思い出した。ポケットからスマートフォンを取り出し、ホーム画面の上部に常に表示されている某大手の検索エンジン先生に"匂わせ"と入力し検索を掛ける。すると、画面には芸能人のSNSでの恋愛事情の匂わせについての記事がズラリと並んだ。つまり、"匂わせ"とは、恋愛事情を周囲の人間に"秘密にしている"体で、敢えてバレるように行動することと考えて良さそうだ。つまり、桔梗さんと朴木さんの行動は"匂わせ"の一種と取って間違いは無さそうだ。

しかし、桔梗さんの性格であればなんとなく納得のいく行動とも思えるが、朴木さんはストーカーのいるこの状況での"匂わせ"行為に対して何も考えなかったのだろうか。それとも、"匂わせ"自体に気付いていなかったのだろうか。

ぼんやりと考えながら、窓越しの猪又と朴木さん、そして、先ほどこの部屋から出ていった刑事を見ていると、猪又がこちらを睨み付けてくる。向こうからはマジックミラーのおかげで俺は見えないはずなのだが。

猪又はその場を馬原と鹿川に任せると、取調室を足早に出て行ってしまった。どうしたのかと思うのと同時に俺のいる部屋の扉が開き、猪又がズカズカと俺に詰め寄った。

「知っていること、気が付いたことを全て言え」

怒っているような表情と口振りに軽く疑問を感じたが、取り調べを見せてもらっている立場としては素直に頷く他道は無い。

「桔梗さんはきっと、朴木さんとの関係を"匂わせ"していたんだと思う」

俺の言葉に対して、猪又はさっぱり意味が分からないとでも言いたそうな顔を見せる。

「つまり、桔梗さんは恋愛関係を隠してる振りをしながら、わざと二人が関係を持っていることを仄めかすような行動を取っていたってことだ」

朴木さんはどういうつもりだったのかは知らないけどな、と一言後に付け加えてやる。

猪又は少しの間考え、なるほど、と呟くと、また気が付いたことがあれば鹿川に伝えろ、と言って取調室へと戻っていった。

猪又が取調室へ戻ると同時に鹿川へ二言三言話すと、鹿川は入れ替わりにこちらへとやって来た。

「何か少しでも気が付くことがあれば言ってください」

俺に向かって、というよりは視線は俺と左手のうさぎを交互にチラチラと向けながら告げる。この刑事はうさぎが気に食わないのだろうか。まあ、そうは言ってもこのスタイルを変える気はないけれど。

「桔梗さんの恋愛感について、お聞きしてもよろしいですか」

猪又が朴木さんに匂わせについての質問を始める。朴木さんは質問の意図がいまいち理解できていない様子で、首を傾げながらも、ええ、と同意の返事を返す。

「では、貴方と桔梗さんはお付き合いをしているという事を周囲の人間には話してはいなかったのですか」

「はい、彼女が…結愛が、学生の間は秘密にして欲しいと言ったので…」

その返事に猪又は質問を返す。

「貴方は、それに納得していましたか」

淡々とした口調。心理テストでもしている様だ。

「もちろんです、万が一誰かに知られて結愛が大学を卒業出来ないなんて事になったら…」

朴木さんの視線が下がり、少し間を開け言葉が続けられる。

「それに…、自分の立場もありますから…」

途切れ途切れの言葉から、何とは無しに本心が見え隠れしている。朴木さん自身としても、桔梗さんとのお付き合いは学内において大きなリスクになると考えたのだろう。たとえ、相手が未成年では無いとはいえ、相手は学生。大学という割と開かれた場所であったとしても、所詮、学校は学校で、教師と生徒という関係が消え去ることはない。二人の関係が周囲にバレれば、桔梗さんはともかく、朴木さんは良くて減給か退職。下手をすれば研究者としての道が閉ざされる事になる。

「誰かに知られていた、という事はありませんか」

再び質問がされる。

「それは…、分かりません」

少し考える様子を見せながら、答えが返される。

「誰かに言ったことはありませんが…、その、時々、授業中に目を合わせたり、部活中につい、見つめてしまったりと態度に出てしまっていた気もしますし」

気付いていた人間はいたかもしれない。そうなると、朴木さんに恋愛感情を持っていた人間はいなかったのか?よく、男と女では嫉妬の対象が異なるという。男は浮気をした彼女へ怒りを向けるが、女は浮気をした男ではなく、浮気相手の女へ怒りを向けるという。もしかしたら、まだ、容疑者はいるのかもしれない。

「朴木さんに恋愛感情を持っていた人間はいますか」

鹿川にうさぎを向け、質問を伝える。鹿川も何か察したのか、急いで部屋を出ると、取調べ中の部屋へと飛び込んでいく。猪又の耳へと鹿川伝手に伝えられた俺の疑問は、そのまま猪又の口から朴木さんへと伝えられる。

「貴方に対して恋愛感情を持っていた方は誰かいますか」

「ええっと…それは、私には分かりません」

周りにいる女性といえば大学の学生がほとんどでしたから、と朴木さんは猪又を見てはっきりと言った。それに対して猪又は質問を更に追加する。

「大学の職員や学外でも、女性とは関わりがありませんでしたか」

「職員は事務員や司書、あとは…、他の先生とは仕事上の関係位ならありました。学外は、特にいないと思いますが」

朴木さんの答えに猪又は、そうですか、と一言返し、少しの沈黙が流れた。

「ちなみに、あなたにとって、桔梗さんはどんな存在でしたか?」

「かけがえの無い、大切な人でした。純粋で、真っ白な天使の様な…ですかね…」

彼女のことを思いだし、しみじみとした言葉が、彼の口からあふれだす。

それを聞くと、猪又は今日はありがとうございました、と言って椅子から立ち上がると、朴木さんもそれに倣い、椅子から立ち上がった。

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