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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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一人目の容疑者、材木谷 康。

「材木谷さん、事件当時の行動についてお教えいただけますか?」

猪又の声が取調室から窓越しに聞こえてくる。取調室の中には猪又、それから馬原(事件現場に来ていた刑事の内の一人だ)、それに聴取を書き取る制服警官が一人、そして材木谷の四人。推理マンガや刑事ドラマでよく見る光景に見える。本当にこんな風景なのか。翔の目が少し輝いているのは気のせいでは無いだろうな。

「当日はいつも通り学校へ行きました。授業が終わってからはサークルの練習で、その後は結愛を送って帰りましたよ」

淡々と答えていく材木谷。まるで台本でも読んでいるかの様に見えてしまう。

「被害者の桔梗 結愛さんを送った後はどうされたんですか?」

猪又の質問は続く。本当は翔が提出した録画データに全て映っていたため、一旦優愛の部屋から離れているのは確認済み。しかも、翔自身で、材木谷が近辺に潜んでいなかった事も確認済みで、その報告もしっかりしてある。それでも形式上アリバイは尋ねるのだろう。取り調べ記録にも残さなければならないようだし。材木谷の答えは至極淡々としたもので、

「自分の部屋へ帰りました」

実に的確に要点がまとめられている。

「それを証明できる人はいますか?」

「いたら、とっくに言っていますよ!」

形式的な猪又の質問にデスクに両手を強く叩き乗せ、椅子から腰を浮かし少しイラついた様に材木谷が応答した。眉間に皺が寄っている。ま、そりゃそうだ。いるなら昨日の時点で言ってただろうし。翔の仕事にも気が付いていなかった様だ。

「では、桔梗さんへのストーカー行為についてですが」

猪又がストーカーの話題に触れた途端、材木谷の表情が、それまでの怒りの表情から苦虫でも噛み潰したかの様な顔に一変する。下を向きデスクの上の手が強く握り締められる。体はストーカー行為が警察に知られていたことに対する恐怖か、絶望か、わなわなと震え、力無く椅子へと落ちる。

「あなたは、桔梗さんに対して盗聴行為をしていましたね?部屋から発見された盗聴器から指紋も出ています」

調書に残すために改めて盗聴器の話が材木谷にされる。猪又の冷静な声に材木谷は否定の声を上げる。

「俺は殺してない。結愛を殺してなんかいない」

強い否定の声にも怯むこと無く猪又の声が質問を繰り返す。

「盗聴器はあなたが仕掛けたものですね?」

猪又の表情にも声にも感情の変化は感じられない。ただただ、罪を犯した者を探し出す、追求の言葉を繰り返す。その表情と口調、言葉に材木谷は何を感じているのか、弱々しくだが、盗聴について認めた。本当は結愛と交際中から盗聴をしていたらしい。道理で盗聴器の位置が電源タップ等にまで仕掛けられていたのか。別れた後では電池式程度しか仕掛ける隙は無かっただろうからな。初めは合鍵を持っている相手がいるのかと考えもしたが、結愛は合鍵を誰にも渡していないと言っていた。勝手に合鍵を作られている事も考えたがそれならば電池式や録音式を置く必要性が無い。何故なら盗聴器の存在がバレやすいというデメリットがある。せっかく電源タップ等のバレにくい場所に仕掛けていたのだ、必要以上に部屋へ侵入するのであれば、盗聴以外のことを目的とするのではないだろうか。少なくとも、翔は自分であればそうすると考えたようである。

「桔梗さんが朴木さんとお付き合いしていた事は、知っていましたか?」

猪又が質問をする。材木谷は何かを否定する様に首を強く振り、否定を示す。

「盗聴していたのではないんですか?」

どこか冷たさを感じる猪又の声。盗聴という行為に対して咎めている口調に聞こえる。

「別れてから暫くは盗聴していました。でも、柘植に気付かれた様な気がしてから、それからはやってません。だから、知りませんでした。朴木先生と優愛が付き合ってたなんて…」

この言葉が本当かどうかは分からない。分かっているのは、材木谷が優愛の部屋や荷物に盗聴器を仕掛けていたこと。確かに電池式の盗聴器は電池が切れていた。けど、電源タップの盗聴器は生きていた事も事実だ。材木谷が朴木と優愛の関係を本当に知らなかったかは確証が持てないな。

「材木谷さんは、桔梗さんと二人きりで部屋で過ごす事はあったのか?」

ぼそりと翔が呟くと(確か現場に来ていた刑事の鹿川だったか)が何か思い付いたように部屋から出て行く。そうして何処へ向かったのかと思うと取調室へと入って来た。そうして、確か馬原と呼ばれていた刑事と少し話をするとこちらの部屋へと戻って来た。それと同じくして、材木谷との会話が一段落した猪又へと何かを伝えている。

「材木谷さんは、桔梗さんの部屋で彼女と二人きりで過ごす事は?」

猪又が俺が抱いた疑問を口にする。材木谷さんは少し落ち着きを取り戻したのか、静かに話し出す。

「付き合っていた時はありました。でも、別れてからはありません。」

「材木谷さんから見て桔梗さんはどんなイメージだったんですかね?」

俺の独り言を同室にいた刑事が猪又の元へ伝えに走る。

そしてその内容が、猪又の口から材木谷さんに伝えられた。

「奇麗で、優しくて、自慢の彼女でした…」

少し寂しそうに材木谷さんは呟いた。

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