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殺人として捜査されることになったのは良いが、そのお陰で翔も晴れて容疑者の仲間入りとなった。
「皆さん、という事でこの事件は殺人の線でも捜査されることになりました。つまり、ここにいる皆さんは容疑者となります。もちろん、野兎、お前もだ」
猪又の言葉を聞いているのかいないのか、翔は相変わらず室内をうろうろと歩き回る。どうにも何か気になる様子だ。
「おい、野兎」
いい加減にしろと言わんばかりに、猪又がまるでマンガの様に首根っこを掴み押さえる。
「とりあえず今日はここまでにして、明日からお一人ずつお話を聞かせていただきたいと思いますので」
刑事の一人が改めて容疑者となった翔を含めた五人の連絡先を確認している。翔は刑事に一応持っている名刺を渡して連絡先の確認を済ますと猪又へ近寄り、珍しく目を合わせて小声で話し掛けた。他の四人の取り調べに同席させて欲しいと。当然、猪又はその要求を却下した。翔も却下されることは分かっていたのだろう、少し考え込むような様子を見せると交換条件を提案した。
「桔梗さんから依頼を受けてからの四人の行動を分かる限り教える」
その提案に猪又は暫く黙り込んだ後、翔の提案を飲んだ。
「ただし、ミラー越しに見るだけだ」
無理を承知に頼んだ翔も猪又の言葉を無言で頷くことで受け入れることを伝えた。
翔は取り調べの為に警視庁へ出向くと、自分以外の容疑者達の結愛からの依頼以降の行動を時系列順に説明していく。御丁寧にも翔は昨晩の事件から家へ帰るなり、手元にあったストーカーの証拠や資料を見やすいようにわざわざまとめ、改めて殺人事件についての考察もしていた。結愛の死にショックと責任を感じていたのだろう、眠る気配のない翔の作業は今朝、ばあちゃんに朝食だと呼ばれるまで続いた。
翔の集めていた証拠や資料は刑事たちに驚きを与え、ますます容疑者が昨夜、結愛の部屋に集まった面子であると確証させる物になった。そして、これまた残念なことに、翔が常に結愛の行動を監視し、いつでも殺すことが出来た証しにもなってしまった。
提出された資料では、結愛が殺された当日、自宅へ帰り着き、部屋の明かりが消されるまでの様子を撮影した動画のデータがある。翔はいつも部屋の明かりが消えるのを確認してから帰っていた。事件当日ももちろんそうだった。
そのデータを確認した刑事たちは、死亡推定時刻ともほぼ一致する時間に撮影が止められていることを指摘する。それに対して翔は、いつもの通り、部屋の明かりが消えたからビデオの録画を止めて帰宅した旨を伝える。事件前日までと何ら変わりの無いルーティーンに刑事たちは一応納得するが、その後なら事件を起こせるんじゃないかと議論が始められる。つまり、この時点でアリバイがある人間は容疑者の中にはいないということか。
「この資料を見る限り、お前は被害者へのストーカー行為の犯人を把握していたようだが、なぜ、夜は被害者から離れていたんだ?」
猪又が翔へ疑問を投げ掛ける。確かに、夜も張り付いていればこの事件は起こらなかったかもしれない。
「ストーカー犯が誰か分かっていたからだ。だからこそ、殺人まで犯すとは考えられなかった」
そして、付け足すように、だいたい被害届が受理されてるのに警察が動いてないのがおかしい、俺一人で休みなく護衛できるわけ無いだろ、と猪又には目もくれずオレの顔を猪又の目の前へと突き出した。被害届の話を出すと刑事たちはうっ、と息を飲む。そこは突かれたくないらしい。まあ、被害届が出ていたにも関わらず、警邏の一つもしていなかった様だしな。結構な問題である。ちなみに、下宿のばあちゃんなら俺のアリバイを証明してくれる、と翔は一言付け加える。そういえば、ばあちゃんは毎晩遅くまで起きて出迎えてくれていたな。
「とりあえず、他の容疑者の取り調べを聞かせてもらうぞ」
翔の言葉に押されぎみの刑事たちは取調室の隣の部屋へと案内してくれる。中は薄暗く隣の取調室の中が覗ける窓、刑事曰く、マジックミラーがあった。取り調べの声もばっちり聞こえるらしい。ただし、こちらの声もある程度の大きさになると聞こえる様だが。




