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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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オレとしては、最初の予想通り、殺人で、この四人の中に犯人がいると思うんだよな。根拠としては多少弱いが、テーブルの下の椅子と本棚の本だな。几帳面だった結愛が死ぬ直前だからといってそんなに普段と変わったことをするだろうか。特に本棚とかな。鍵の閉まった自分の部屋なのだ、わざわざ誰も来るはずの無い状況なのに、慌ててしまいましたと言わんばかりの乱雑な片づけ方をされているんだ。誰かが慌ててやったようにだって見える。

「野兎、お前は本当にこの事件が殺人だと思っているんだよな。本の片付け方以外には何か根拠はないのか」

猪又が考え込むような表情で翔に問いかける。

「ドアロックが内側からされていなかった」

翔が出口を見ながら答える。そうだ、ストーカーに怯えていた結愛はいつもドアロックを掛けていた。それなのに、オレ達はすんなりとこの部屋へ侵入しているし、自殺であれば少しでも自殺の成功率をあげる為、時間を稼ぐ為にドアロックなんかを掛ける。しかし、翔が駆けつけた時には、ドアに鍵は掛けられていたもののドアロックは掛かっていなかった。

「それを早く言え」

猪又は少々怒ったように翔に言い募るが、聞かれなかったから、と翔は飄々とオレを猪又の眼前ち差し出し言い切った。

「忘れてた」

その一言で猪又の眼差しがいっそう厳しいものになる。

「タオルと椅子とペットボトル」

翔はその三つのことがどうも気になるようで口に出して呟く。もちろん口は開いていないが。



タオルと椅子とペットボトル。あまりにも無造作すぎる扱いが桔梗さんらしくない気がする。例えば、この事件が自殺だとして、死のうとする人間が死ぬ間際に何をするかなんて分からないという考えも出来る。だけど逆も然り。死ぬからこそ身の回りを整えておきたいと考えることもあるのではないだろうか。特に、普段から身の回りをきちんと整えていた人であれば。

例えば遺書。これも身の回りを整える物の1つ。ま、例えあったとしても自筆部分が1箇所でもないと信じる価値は無いが。

「指紋は?」

訊いてはみるが答えはわかっている。

「四人全ての指紋が出ている」

「柘植さんもですか?」

「ああ、それがどうかしたか?」

ふむ、とひとつ考える。この部屋は演劇部四人の溜まり場、つまり桔梗さん、材木谷さん、柘植さん、仁柳さんの溜まり場にでもなっていたのだろうか?

朴木さんの指紋はお付き合いをしていたのならあってもおかしくはないが。

「材木谷さん、皆さんはよくこの部屋へ来ていたのですか?」

俺の質問に、盗聴器を仕掛けていた材木谷さんは顔を歪めるが気にしない。

「皆さんの溜まり場のようになっていたり…」

その言葉に少しほっとしたのか軽く息を吐いた材木谷さんは何度か集まって飲み会を開いたことを教えてくれた。

それなら指紋があってもおかしくはないか。

いや、例えばあると不自然な場所の指紋とか。

そうは言ってもストーカーに恋人。多少おかしな場所に指紋があっても、それが逆に自然に見えてしまう。

「指紋が付いていた場所はどこだ?調べた場所は?逆に指紋の無かった場所は?」

指紋が目で見える訳ではないが、指紋のありそうな場所をぐるりと眺める。

俺の独り言のような問い掛けに刑事の一人が手帳を開き指紋が出た場所を述べていく。日常的に触れるであろう場所や頻繁には触れないゆえに埃の下等があげられた。その中には俺が違和感を感じた場所も含まれていた。しかし、その中で、首を吊ったロープには指紋が無かったらしい。

「猪又、首吊り自殺をする人間が手袋も残さずロープにだけ指紋を残さず、首を吊る方法はあるか?」

どう考えても無理だ。首を吊るその瞬間だけは手でロープの輪に首を通すはず。服の袖を伸ばして指紋を残さない様にした形跡も見当たらない。そもそも、ロープ以外には指紋が残っているのにロープにだけ指紋を残さない理由が分からない。

「…いや、状況から言って無いだろうな。また、そうする理由も考えられない」

「なら、これは殺人として捜査する理由にならないか?」

うさぎ越しにちらりと猪又の方に視線を向ける。猪又はしかめ面で目を閉じ俺の言葉を認めた様に、ああ、と一言頷いた。

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