第8話 善意のクラッシャー、獣人のハーヴィー現る
『お、何だ何だ。知らない気配がすると思ったら、ここに人間がいるなんて珍しいな。しかもこの空間にいるなんて』
『お兄ちゃん!!』
ラウルが、箱庭に入ってきた人に向かって走り寄る。ルーファスは知らない人が来たから、私の肩に乗ってきたよ。
『よう、ラウル、元気にしてたか?』
『うん、とっても元気。でも、悪い人に連れて行かれて、ルーファスとフィオナと一緒に隠れて、それからパパが来た』
『あー? 何だって? 悪い人に連れて行かれただぁ?』
『うん、悪い人。お友達もその悪い人に意地悪された』
『そうなのか? ……まさか魔獣狩りでもしに来たのか? この森に? で、その悪い奴はどうしたんだ?』
『パパが今度捕まえて来る。それで、お仕置きするって。僕もお仕置きするの』
『そうか? まぁ、オヤジがそう言ってるなら問題ないか? じゃあ、この空間はどうしたんだ?』
『ここはね、ルーとフィオナが暮らす場所。パパが2人にあげたんだ。ねぇねぇ、お兄ちゃん、ぜんぜんここに来なかった。どうして来なかったの? みんな遊ぶの待ってた』
『この空間をあげた、ねぇ……。いや、俺もちょっと、いろいろあってな。来るのが遅くなって悪かったな』
私たちのことを気にしながら、ラウルと話しまくる誰か。ただ、そんな2人をセイリーが呼んだよ。
『ハーヴィー!! 先にこっちへきて挨拶をしなさい!! ラウル様も、お話をするのなら、まずは全員の挨拶が終わってからにしましょうね。フィオナとルーファスは、初めて会うのですから』
『ほい!!』
返事をするラウル。
『お、おう!! はぁ、セイリーはあいかわらず細かいことにうるさいな?』
箱庭に入って来た人に抱っこされて、ラウルが私たちのところへ戻って来ると、宙返りしながら地面に降りるラウル。私はセイリーさんに、ジェスチャーで挨拶するように言われて、すぐにその人に挨拶したよ。
「初めまして、フィオナです。家族のルーファスです!」
『キキィ!!』
『おう、初めまして。俺はハーヴィーだ。この森の近くにある村に住んでるんだ。よろしくな!!』
「ウルフの獣人?」
『獣人は始めてか?』
「ううん。でも、ウルフの獣人は初めて会った。家には、ラビットの獣人がいたの。街には……いっぱいいたけど、誰がどんな獣人なのか分からなかったの」
『そうかそうか。まぁ、子供の頃はそうだろう。姿が似てても違う種族の奴もいるし、分かりにくいよな。ま、俺は良くここに遊びに来るから、これからよろしくな!』
「うん!!」
『キキッ!!』
『で、お前たちは人とはあまり関わらないのに、何でここに人間の子供がいるんだ? しかも、この空間に住んでるだなんてさ』
セイリーさんに話しかけるハーヴィー。
『はぁ、あなたはいつも落ち着かないわね。もう少し、ゆっくり話ができないのかしら』
セイリーさんは小さく溜め息をついたあと、この森で起きたこと。私とルーファスとラウルがどうして出会ったか。それから、ここで暮らすことになった経緯を、全部説明してくれたよ。
ただ、ハーヴィーは、その説明の途中でいちいち口をはさむもんだから、セイリーさんはなかなか話を進められなくてね。途中で、まずは話を最後まで聞きなさいって、セイリーさんに吹っ飛ばされたけどね。
ラウル曰く、いつもの事だって。他にも何かしらやらかして、よくみんなに怒られ、吹っ飛ばされるらしい。
そうそう、ハーヴィーのことだけど。さっきハーヴィーが言っていた通り、彼は森の隣にある、獣人だけが住んでいる村で暮らしているらしい。
姿は、ほとんど人と同じかな。洋服も普通に着てるし。違うのは耳としっぽくらい? ウルフ系らしく、オオカミみたいな耳をしていて、しっぽがズボンから出ているよ。
それから身体能力が他の獣人と同様、人よりもぜんぜん良いだろうね。私の家にいた獣人たちも、街にいた獣人たちも、漫画や本に出てくる獣人たちみたいに、魔獣並みに身体能力があったから。獣人によっては、魔獣よりも強い獣人がいるし。
ウルフ系ってことは、かなりの身体能力のはず。だから、セイリーさんに吹っ飛ばされても、怪我1つなくこっちに戻って来たんだろう。
『いてて、そんなに強く蹴り飛ばさなくても良いじゃないか』
『私の話をうるさく遮るからよ。子供たちの教育にも悪いわ。それで? フィオナとルーファスがここへ来た理由は分かったのかしら?』
『ああ、ちゃんと分かったよ。みんな、よく無事だったな。それによく頑張った! えらいぞ!!』
『僕、いつも通り。ちゃんと攻撃もした』
『ハハハッ、そうだな。よく攻撃したぞ!!』
一応、私たちがここへ来た理由は分かってくれたみたい。
『セイリー、僕たちのお話し終わり?』
『ええ』
『じゃ、今度は僕がお話。お兄ちゃん、どうしてなかなか遊びに来なかったの?』
『ああ、それだけどな。村で片付けをしてたのと、街でも片付けをしてて、なかなか来られなかったんだよ』
『……また何かした?』
ん? また?
『はぁ、どうせまた、余計なことをしたのでしょう? 今度は何をしたのよ』
『いや、俺は手伝えって言われたから、手伝っただけなんだぞ。街でだって、俺は悪い奴を捕まえただけなんだよ』
『それで、いつものダメダメしたの? だからすぐに遊びに来られなかった?』
『キキ、キキキ? キキィ?』
『うん、お兄ちゃんはダメダメなんだ。あのね、いつもやらなくて良いことをして、パパたちに怒られたり、やり過ぎて怒られたり。いろいろダメなことをして怒られるから、ダメダメお兄ちゃんなの』
「怒られるダメダメお兄ちゃん……」
『キキキ……』
『はぁ、それで?』
今回ハーヴィーがやらかしたことと、いつもハーヴィーがすることとは?
まずは、村でのやらかし。村には、みんなで使う荷物をしまっておく共同の小屋があるらしいんだけど、その小屋をまるまる一つ壊したらしい。
村の共同の小屋に、かなり荷物が溜まっていたらしく、これ以上は荷物が入らないってことで、新しい小屋を作ったハーヴィーたち。それで、新しい小屋は無事に完成したんだけど……。
ちょうど良いから、荷物の仕分けをしようということになって。その新しい小屋に、元々あった小屋から荷物を運ぶ係として、ハーヴィーと何人かの獣人が選ばれたんだ。
余裕を持って運ぶことが出来る量の荷物を持って、移動をする獣人たち。ただ、ハーヴィーはそうしなかったの。
たくさん荷物があるんだから、もう少しまとめて運んだ方がいい。俺は誰よりも力があるから、大きい荷物をまとめて運んでやる、と言ったらしくてね。
何の荷物かは知らないけれど、言った通りまとめて荷物を持ったハーヴィーは、仲間が止めるのも聞かずに小屋の扉のところへ。そして……。
1つの荷物が扉の枠に引っかかり、それを外そうとしているうちに、別の荷物も引っかかってしまい。そのうち、これまた別の荷物が、何故か天井に突き刺さっちゃって。それを無理やり外そうとしているうちに小屋は……。音を立てて、全壊したって。
幸い、小屋に押しつぶされた獣人たちは、みんな無事だったけれど。それがあって、ハーヴィーはめちゃくちゃ怒られ、そのあと1人で片付けを言い渡されたらしい。だから、なかなか村から出られなかったと。
そして次、街でのやらかしは……屋台を3軒壊したって。
街へ遊びに行ったハーヴィー。街へ入ってすぐ、ある獣人がおばあさんの荷物を引ったくり、逃走をはかったようで。それを見かけたハーヴィーは、その犯人を追ったんだ。ただ、その犯人の獣人は、かなり足が早かったようで、ハーヴィーでも追いつけず。
そこでハーヴィーは追いかけるのをやめ、別の作戦に変更。目の前にたまたまあった、そこそこ太く長い、加工された木材を引っこ抜き、それを2つにへし折ると、犯人向かってその木材を投げたんだ。
すると、その木材が犯人にヒット。犯人は気絶しその場に倒れ、逃走撃は終わったの。でも、その直後……。
ハーヴィーの後ろで、ガッシャンガラガラと、かなりの音がして。振り向いたら、後ろにあった屋台が数軒、全壊していたんだって。
何故、そんなことが起きたのか……。ハーヴィーが犯人に投げつけた、へし折った木材。それね、屋台の柱だったの。それで柱を奪われた屋台が最初に倒れ、それに巻き込まれる形で、数軒の屋台も全壊してしまったんだ。
それで、その街の警備隊から、犯人を捕まえたこと、おばあさんの荷物を取り戻したことはお礼を言われたけれど、それ以上に、やらかしの方を怒られたらしく。屋台を直せと言われ、つい最近まで、街で作業をしていたらしい。
こんな風に、悪気があってやるわけじゃないんだけど。余計なことをしたり、周りを気にせずに動いたりするもんだから、毎回毎回いろいろとやらかすみたい。ここに遊びに来た時も、いつも何かやらかすとか?
でも、それを除けば、とっても優しく、いろいろ教えてくれて、いっぱい遊んでくれるお兄ちゃんだから、みんな大好きなの。
『はぁ、何をやっているのよ』
『やっぱりいつも通りダメダメ』
『ハハハハハッ! まぁ、全部直してきたから良いだろう!!』
いや、良くないだろう。もう少し周りを見て、そして周りの声を聞いて動きなよ。今回は怪我人が出ずに、おばあさんの荷物も無事に戻って、良いこともしたかもしれないけど。そのうちもっと大変なことになるんじゃない?
『ま、俺のことはこれくらいで良いじゃないか。それよりも、家が見つからないって?』
『はぁ、あなたときたら……。そうなのよ、良い場所が見つからなくて。ただ、良さそうな大きな岩は見つけたから、もしこのまま見つからない場合は、その岩をくり抜こうかと話していたの』
「大きな岩。私とルーファスなら、悠々過ごせる」
『ふーん、そうか。今はどうしてるんだ?』
聞かれたから、今の私たちの寝床をハーヴィーに見せる。と、途端にハーヴィーの目が輝いて、私の心には、一気に不安が広がったよ。
『何だよ、こんな感じで寝てるのか? 荷物を外に出しっぱなしだし。こんななら、とりあえず掘れば良いじゃないか。俺は予定通り家に帰れない時、よくその辺で野宿するけど、その時は穴を掘るんだよ。よし! 俺が掘ってやろう!!』
「穴を掘る? ちょっと待って!!」
『ハーヴィー止まりなさい!!』
私の言葉とセイリーの言葉を無視して、さっと1本の大きな木の方へ移動したハーヴィー。そんなハーヴィーをセイリーが追いかけ……。
でも、セイリーが止める前に、ハーヴィーが勢いよく地面を掘り始めちゃったんだ。そう、勢いよくね。
……うん。ハーヴィーが掘り出した土が、全部私たちにかかりましたとも。口に土が入ったし、洋服は土だらけ。ルーファスとラウルは、ハーヴィーのその行動に怒って、ハーヴィーを威嚇。
『キィーッ! キィーッ!!』
『ふしゅうぅぅぅっ!!』
セイリーはもう止めるのは遅いと思ったのか、舌打ちをした後、私たちの方へ戻って来て、私たちの周りに結界を張り、土から守ってくれたよ。そして数分後……。
『ほら、入り口は狭くして、中はお前たち2人がゆっくりできるくらいの広さにしたぞ。入り口は、その辺の大きな葉っぱで塞いでおけば良いだろう』
泥だらけのハーヴィーが、成長すると葉っぱの大きさが、1メートルくらいになる花があるんだけど。その葉っぱをぶちりと取り、穴に蓋をする感じで置いて、私たちの方をニッコニコで見てきた。
『ん? どうしたんだ? みんなそんな顔して』
え? 何?
『はぁぁぁ、あなたは、まったく。子供たちだって、そんな顔にもなるでしょう』
そんな顔?
「……セイリー、……何?」
『あなたたちみんな、同じ顔をしているわ。それに、私もあなたたちと同じ気持ちよ』
何かと思って、ルーファスとラウルの方を見る。
すると2人とも、眉間に皺を寄せ、目は細目に、口は縦にパカッと開けて、呆れているような、何か衝撃的な物を見たような、怒っているような、何ともいえない顔をしていたんだ。私もこの顔をしていたみたい。でも、そうもなるでしょうよ。
『キキキ、キキ……』
『うん。あれは家じゃない。僕たちのお昼寝の穴よりも悪い。それに変な穴だから、スポンて地面の上が崩れちゃうかも』
と、ラウルが言った時だった。ボスンッと穴を掘った場所の地面が陥没したんだ……。
「……」
『……』
『……』
『あれ? ハハハッ、ちょっと地面ギリギリを掘りすぎたみたいだ。次はしっかりと掘るぞ!』
……おい、もうやめろよ?




