第7話 箱庭で家探し。お尻は出さないからね?
「よし!! じゃあ今日は、家になる場所を探します!! それか、家を作る場所を見つけます!!」
『キキッ!!』
『ほい!!』
私の前に立って、真剣な顔をしながら返事をするルーファスと子犬改めラウル。……ラウルはここで何してるんだ?
「どうしてここにいるの?」
『友達、今日すぐに遊び場に来ない。だから新しい友達のところに遊びに来た。ルーとフィオナ、新しい友達。遊ぼうと思ったけど、何か探すんでしょう? 一緒に探す』
「そう?」
『それと探し終わったあと、ここでの遊び方教えてあげる』
『キキッ!!』
いやいや、すぐに遊ばないから。まずは家として使える場所を探して、その後はその場所を整えるからね? ルーファスも家の時と同じ、真剣な顔で返事をしない。
『それで、何を探す? いえって言ってたけど、いえって何?』
ちゃんと家って聞いてたんじゃないか。
「うーん、家っていうのは、寝たり、ご飯を食べたり、荷物を置いたり、何かをしたり、いろいろなことをする空間かな」
『ご飯食べたり、寝たり? なら、ここがいえ。なんでいえを探すの? 僕たちいつも、遊んだり、お昼寝したり、いろいろしてる』
「えと、確かにそうなんだけど……」
『ラウル様、私たちは夜寝る時に、どこで寝ていますか? 遊び場で寝ますか?』
『ううん。洞窟で寝る』
返答に困っていたら、セイリーさんが代わりに説明を始めてくれたよ。
『ご飯も洞窟の中で食べたり、遊んだりしますよね』
『うん』
『雨の日は、なるべく濡れないように、洞窟の中から出ない。そして大切なものが濡れないように、洞窟の奥の方へ入れておく』
『そうねぇ』
『私たち魔獣は、そういう場所を住処と言いますが、人間は家というのです。そしてここにはまだ、フィオナたちの住処はありませんから、2人は今からその家を見つけるか、作ろうとしているのですよ』
『ふーん、そか。濡れないの大切。僕の宝物濡れたら大変。濡れてびしょびしょになって、病気になるのもダメ。うん、いえ? 探した方がいい』
セイリーさん、ありがとう。
昨日、遊び場の状況に衝撃を受けた後、自分たちの箱庭に戻って来た私たちは、箱庭内を少し散策して。それからは、時間も時間だからということで、箱庭に実っている果物で夕飯を済ませ。その後は、草原にマットを敷いて寝たんだ。そう、全て外ですませたの。
レジナルドに箱庭の環境について聞いたら、外と連動しているみたいで。外が朝になれば、箱庭も朝になるし、外が夜になれば、箱庭も夜になるって。
それから天候も同じらしく、外で雨が降れば、箱庭も雨が降って、外で雪が降れば、箱庭にも雪が降るらしい。
だからさ、そのまま外で過ごすのはちょっとね。汚れた物は、綺麗にする魔法クリーンで、いつでも綺麗にしてくれると言ってもらえたけれど。ちゃんと家みたいなものがあれば、自分でできる限りは綺麗にしたいし。雨やら雪やら、そんな時に外で過ごしたくないし。
そのためにも、家になりそうな場所を見つけるか、もしもなければ、なんとか家らしき物を作ろうと思ったんだよ。
気候に敏感な魔獣がいて、当分の間は雨が降らないって教えてもらったから、今のうちにいろいろ進めちゃわないと。
「さすがに草原の方には、家になりそうな場所はないから、木の方へ行こう」
『キキッ!!』
『ほい!!』
『それじゃあ、行きましょうか』
全員で木々の方へ歩いていく。木々……、小さな私たちにとっては、もうそこは、小さな森だけどね。
ちゃんと小道があって、そこを歩けば迷うことはないし、もしも迷っても、とりあえず前に進めば、箱庭から出られるから大丈夫だって言われたけど。慣れるまでは、迷子になりそうだから、本当気をつけなくちゃ。
『ああ、フィオナ。その木の実は、私たちには美味しい木の実だけれど、人間にとっては、触るだけで手が痒くなるものだから気をつけてね』
「はい!!」
セイリーさんは、ラウルにいろいろなことを教えてくれる、先生みたいな存在かな。それで、森のことをあまり知らない私とルーファスに、森のことを教えてやってくれって、レジナルドが頼んでくれて、今日から教わっているの。
魔獣は良くて人間はダメ。その反対に、人間は良くて魔獣はダメ。箱庭は平和な空間だけれど、そういうのはあるからね。
それにここで教わることは、外でも使える知識。箱庭以外、外は危険なものだらけだから気をつけないと。ここでの知識はとても役に立つ。
家から、植物や鉱石、魔獣に魔法、他にもいろいろと勉強できるように、図鑑や参考書や資料を拝借して来たから、それでも勉強はできるけど、本だけじゃ分からないことはいっぱい。だから、しっかり教わらなくちゃ。教えてもらえて、本当に助かるよ。
『良い寝床が見つかると良いのだけれど。寝る場所と、ちょっとした荷物を置く場所、それからあなたたちが、天候の悪い日にゆっくり遊べる広さもいるとなると。あなたたちが小さいとはいえ、それなりの広さがいるわね』
「もし、見つけた場所が狭かったら、頑張って広くしてみる」
『広く……ね。綺麗に奥へ広げられそうなら広げるとして。もし外に何かするとなると、彼を呼んだ方が良いかもしれないわね』
「彼?」
『魔獣の中に、寝床作りが上手な魔獣がいるのよ。人間が住んでいる家とは違うものになるけれど、それくらいしっかりとした寝床を作れるの』
へぇ、そんな魔獣がいるのか。セイリーは昔、ある人間と契約していて、その人が老衰で亡くなったあと、この森で暮らし始めたらしいの。だから、人の生活をよく知っているんだ。
『キキッ!! キキキーッ!!』
と、ルーファスが何かを見つけて私たちを呼んだ。
『うん、ここは、僕とルーが昼寝するのに良さそう。でも、フィオナはお尻が出る。足は縮こまれば大丈夫? フィオナ、お昼寝はお尻出てていい?』
いや、ダメだから。なんでお尻を出して寝なくちゃいけないんだ。そして今は、昼寝をする場所を探してるんじゃないからね。
そうそう、ルーファスの言葉についてだけど。やっぱりルーファスは、生まれたばかりらしくて、だから言葉が話せないんだって。
もちろん魔獣によっては、小さいとか大きいとか関係なく、話ができない魔獣もいるけれど。ルーファスは、もう少し大きくなるか、力が強くなれば、ラウルたちみたいに私と話ができるようになるって。ルーファスと話をするの、今からとっても楽しみだよ。
あ、そういえばレジナルドが、私たちがここでの暮らしに慣れたら、私たちの能力のことで話がしたいって言ってきたんだ。
なんの話なのか。魔の森で私たちの能力を調べた時も、なんとも言えない反応していたけど。……もしかして、能力が下がった、なんて言った私の言葉が、本当だったとか?
まぁ、それならそれでも良いけど。だって私はもう、大切なルーファスに出会えたからね。ただ、ルーファスの力が下がったとかじゃないと良いな。だって、ルーファスの大切な力だもん。
『キキキッ!!』
また、先行するルーファスが何かを見つけたみたい。
『キキィー!!』
『うん! 木の中に穴を発見!!』
木の幹の直径が1メートルくらいの太い木に、穴が綺麗に空いていて、その中へ入るルーファスとラウル。
『ここは秘密の場所に使えそう』
『キキ?』
『うん。秘密の場所。宝物を隠したり、内緒のお話をする時に使ったり、特別なことをする場所。地面に穴を掘って作る時もあるし、岩に穴が空いてて、そこを使う時もある。いろいろ。ここは他の木で隠されているから、秘密の場所にちょうど良い。お昼寝できるし』
『キキィ!! キッキ、キッキ』
ルーファスが空間から、自分の宝物を何個か出し、木の穴に入れる。
『木の場所を忘れないように、目印をつけておいた方が良い。あの木とあの木にツルを結ぶ。フィオナ、結べる? それからフィオナ、お尻出るけど良い?』
いや、だから、なんでお尻出る前提なのよ。別に足を出せば良いじゃない。って、そうじゃなくて、秘密の場所って秘密基地みたいで、ルーファスも喜んでるから、まぁ良いけど。なるべく家の方に集中してくれないかな?
それから少しの間、秘密の場所で足止めされることに。私はルーファスが1人でここに来ても、秘密の場所がすぐに分かるように、木にツルを結んであげたり、石で目印を作ったり、いろいろしたよ。そして……。
『そろそろお昼ご飯の時間かしらね。一旦草原の方へ出てご飯にしましょう』
「……うん」
『キキィ!!』
『うん、なかなか良くなった。ご飯のあとで、もう少し綺麗にしよう。少しずつ完璧な秘密の場所にしていく』
『キキィッ!!』
家探しは? ねぇ、家探しは? はぁ。私は小さな溜め息をついてしまう。今日はもう見つけられそうにないな。
こうして、1日目の家探しは、ほとんど進まずに終わることになったんだ。そして3日後……。
『キキキー』
『うん、見つからない』
『これだけ広いのだから、どこかしらに2人が暮らせそうな場所があると思うのだけれど。なかなか見つからないわね』
「何でないんだ」
『ただ、全部探して見つからなかったら、大きな岩は見つけたから、誰かにその岩に穴を開けてもらうこともできるし。他にも何かできないか、一緒に考えましょう』
「うん」
少しずつ範囲を広げて、家にできそうな場所を探しているんだけど、3日経っても私たちは良い場所を見つけられず。今日も、箱庭の森から出てくることになった私たち。
ただ、とりあえずは、セイリーの言った通り、大きな岩は見つけたから、それだけでも良かったかな。
今、私とルーファスは、箱庭の森の入り口付近の木に、布を引っ掛けて即席の屋根を作り、地面には藁を敷いて、その上にいろいろと物を置いて生活しているよ。今度、物が倒れないように、平らな木の板をレジナルドが持って来てくれるって。
『あっ!』
『あら、来たのね』
と、箱庭の森から出た時だった。ラウルとセイリーさんが止まって、箱庭の壁、白いベールのような物の方を見たんだ。
「どうしたの?」
『キキ?』
『ダメお兄ちゃんが来た』
「ダメお兄ちゃん?」
『うん。ダメお兄ちゃん。いろいろできて、遊んでくれて、大好きなお兄ちゃんだけど、ダメお兄ちゃん』
いろいろできて大好きなのにダメって。
『タイミングが良いのか悪いのか、でも、いろいろやらせるにはちょうど良いかしらね』
セイリーさんが苦笑いをしながらそう言った、その瞬間。
『おう!! 何だぁ、新しい空間を作ったのか!!』
そんな言葉と共に、誰かが箱庭に元気よく入って来たよ。




