第6話 まさかのまさか、魔獣王が作ってくれた箱庭に住むことになりました
「凄い!! 一瞬で森じゃない場所に来た!!」
『キキィーッ!!』
魔獣たちとの挨拶が終わり、そのあとは、詳しい森の案内は、私たちがこれから過ごす場所に慣れてからってことになったけど。魔獣王と子魔獣が暮らしている寝床へ連れて行ってもらったり、何がどこにあるか、簡単に案内を受けた私たち。
私たちはもちろん、魔獣王の縄張りから出るつもりはないけれど。場所が場所だから、襲って来る魔獣はいるわけで。
縄張りから出ると、魔獣だろうが人間だろうが、見境なく誰でも彼でも襲ってくる肉食魔獣たちが襲ってくるらしい……。
だからそうならないように、まずはその場所について、しっかり教わった感じかな。
そして、そんな簡単な案内を受けたあとは、魔獣王が私たちに、私たちが暮らす場所を用意してくれたんだけど。これが本当に凄かったんだ。
魔獣王がひと声鳴くと、魔の森の時みたいに、白いベールのような物が私たちの目の前に広がって。魔獣王にその中に入れと言われたから入ったら、とても素敵な場所へ出たんだ。そこはどんな場所かというと……。
まず目に入ったのは、どこまでも続く広い草原。青々と茂った草が、風が吹くたびにゆらゆらと気持ちよさそうに揺れているの。
それから横に目を向けると、そっちには草原じゃなく木々が生い茂っていて。葉の隙間からは、やわらかな木漏れ日が降り注ぎとても綺麗なんだ。
さらに木々の間を縫うように、私たちの方まで、静かに川が流れて来ていたから覗いてみると。川の水は透き通っていて、太陽の光で水面がキラキラと輝き、こちらもとても綺麗だったよ。
こう、人の手が入った形跡はどこにもない、木漏れ日と緑に包まれた、手つかずの自然そのものが、そこには広がっていたんだ。
そのあまりの綺麗さに、だから私は、魔獣王がどうやったかは分からなかったけれど、一瞬で危険な森じゃない、別の場所へ移動したと思ったの。
『ハハハハハッ!! 別の場所へは移動していないぞ。ここは森の中だ』
「え? でも、ぜんぜん違う」
『キキ?』
魔獣王たちが暮らしている森は危険な森といっても、魔の森のような、じめっとした薄暗い森じゃなく、見るだけなら普通に見える森だった。でも、今私たちがいる場所は? どう見ても森の中じゃないんだけどな。
『ここは、我は作り出した空間だ。お前たちが住みやすように作ってみた』
「作った!?」
『キキッ!?』
『ああ。1度外に出てみるか』
そう言われて、白いベールのようなものを通り、外へ出てみる。と、そこは、さっきまで私たちがいた場所で。子犬と、子犬のお世話をしてくれている、シルバーウルフのセイリーがいたよ。
「元の場所に戻った!!」
『キキィ?』
『では、顔だけその中に入れて見ろ』
白いベールのようなものに、顔だけ突っ込む私とルーファス。
「んんん?」
『キキキ?』
何度も出たり入ったり。そうして気づく、白いベールのような物に入ると、いきなりさっきの綺麗な場所に出るってことに。
でも、白いベールのような物を通る前は、その向こう側に見えるのは普通に森なんだよ。それなのに通り抜けると、あの綺麗な場所に出るの。
『今度は上から見てみるか』
魔獣王の背中に乗せてもらうと、魔獣王は木に登り、そのあと高く飛び上がる。するとあの白いベールのような物が、こう丸くドームのように広がっているのが確認できた。かなりの広さかな。それから近くにもう1つ、同じような物があったよ。
『あの中には、我が作った空間が広がっている。そして、あの白い物が見えるのも、あの空間に入ることができるのも、お前たちと子供たち、そしてお前たちに害のない者たちだけだ』
「害のない?」
『ああ。まぁ、害がないと言っても、お前以外の人間は、元々そう簡単に入れないが。それであの空間のことだが、前に俺の知り合いの人間が言っていたが、その人間は空間のことを、箱庭のようだなと言っていたな』
箱庭!? 箱庭ってあの箱庭? いや、なんとなく箱庭っていうのは聞いたことがあるし、漫画や本で、イラストを見たこともあるけど。箱庭って、こんなに大きい物なの?
って、いやいや、そうじゃなくて。箱庭って、なんか特別な? 神聖な? 物じゃなかったっけ?
「箱庭、とっても大切な場所のはず。そうでしょう?」
『まぁ、人間はそう言っているな。だが、我としては、大切な者たちに、幸せに暮らしてもらうための場所だ。いつでも何個でも作っているからな。これといって珍しいものでもない。使い終われば消せばいいしな』
いくつもって……。
「でも、本に書いてあった。大切な場所だから、本当に大切な魔獣や人しか入れないって」
『お前たちは大切な客人だろう? というか、ここまでお前たちは頑張って生きて来たんだ。ここで過ごしている時くらい、少しでも安全に暮らせばいい。……お前たちはまだ小さい。大人になるまでは、大人に守られ、しっかりと成長するべきだ』
「……」
『キキキ、キキ!! キキキ?』
『おう、そうだぞ。あの場所は、お前たちの好きなようにしていい。寝床を作るのも、何か作るのも自由。あそこで育っている物を食べるのも自由、育てるのも自由だ。外から何かを持ち込むのも良いぞ』
『キキキーッ!!』
私の肩で喜びジャンプするルーファス。
『だが、そうだな。あの中で何かする時は、自然に感謝して使ってくれ。我々は自然に生かされているからな。それだけ守ってくれれば良い』
『キキッ!!』
『フィオナ。人間たちはこの空間を、神聖な場所だと伝えていて、確かに神聖な場所ではあるが。我は、お前があの場所を、大切に使ってくれると確信している』
「……」
『だから、あの場所を用意したのだ。なに、我がやはりお前たちには貸せんと思ったら、あの場所は元に戻し、お前たちをその辺に放り出すまでのこと。だから、まずはあそこで暮らしてみろ。きっと楽しい生活が待っているぞ』
会ったばかりの私を、そんなに信用してくれているのか……。ここは魔獣王のお言葉に甘えさせてもらおう。今の私たちには、行き場所はないんだから。そして、魔獣王の気持ちを裏切らないように、大切にあの場所を使わせてもらうんだ。
「魔獣王、ありがとございます!!」
『うむ、それで良い!! お、そうそう。お前たちには安息の加護をつけてやる』
「安息の加護?」
『そうだ。あの空間は、確かにお前たちに害をなす者は入れないが、もしもという場合もあるからな。この加護をつけておけば、もしも誰かがお前たちの空間に入ろうとしても、空間を認識できず、ただ森を通り過ぎたと思うか、空間を飛び越え、別の場所へ移動することになる。が、そうなっても、その相手はそれに気づかない。より、安心して暮らせるようになる』
「空間に入るところを見られたら?」
『それも、木々の間に隠れたと見えるようになっているから問題はない』
「そか」
周りを気にしながら入らないといけないのかと思ったから良かった。誰かが隠れて私たちの後をつけてきて、私たちが空間に入るところを見られたら困るじゃん。いくら害をなす者たちが入れないとしてもさ。
『さて、そうだな。好きに使って良いとは言ったが、どう使えば良いか、1度見てみると良いだろう。お前たちの住む空間の隣に、同じ空間があるだろう? あれは息子や子魔獣たちがゆっくり遊べるように作った空間だ。あの中を見てみれば、どれだけ自由に暮らせるか分かるはずだ』
そう言い、地上に降りた魔獣王。地上に降りると子犬はいなくなっていて、セイリーだけが同じ場所にいたよ。
『あの子なら、お友達と遊びに行ったわ』
『そうか。では、入るぞ』
魔獣王に続き、隣の空間に入る私たち。そうして中に入った瞬間、私は心の中で思い切り叫んだよ。
“なんじゃこりゃあぁぁぁー!?”
ってね。だって私たちの前には、カオスな状況が広がっていたんだから。
辺り一面穴だらけで、その中で遊ぶ子魔獣たち。木にツルを引っ掛け、そのツルを咥えたり、足や手で持って、サーカスばりにブンブン揺れて遊ぶ子魔獣たち。
それから、誰が早く草をむしるかの競争をする子魔獣たちに、そこら中の物を食べまくる子魔獣たち。水遊びをして、周りに水をかけまくり、喧嘩を始める子魔獣たち。
他にもいろいろとやっている子魔獣たち。全体的には、私たちが暮らす空間と変わらないんだろうけど、いろいろやりすぎていて、元の状態がわからず、本当にカオスって感じだったんだ。
「……え? すご」
『キキキーッ!!』
喜びの声をあげ、泥んこ遊びをしている子犬のところへ、ルーファスが走っていく。
『あ、ルー来た。一緒に遊ぶ』
『キキッ!!』
あああ、綺麗な真っ白な毛がぁぁぁ!?
『どうだ? これくらいやっても問題はない』
いやいやいやいや、問題でしょう。地形が変わっちゃってない!? 木も花も草も大変なことになってるし。
と、そう言おうとした時だった。空間に、大きなサイのような魔獣が入って来て、自分の子を呼んだんだ。今日の遊びの時間は終わりらしい。
『帰るわよ!!』
『はーい!!』
『みんな、ママ迎えに来たから帰るね』
『でも、その前に』
『『今日もありがとうございました!! またよろしくお願いします!!』』
そう子供たちは言うと、2匹は誰も遊んでいない場所へ移動して、地面に何かを植えたんだ。
『それじゃあ、バイバイ!!』
『また明日ね!!』
そのまま空間から出ていく親子。私はすぐに、子魔獣たちが何かしていた場所へ移動する。するとそこには、小さな苗木が植えられていて、それから何かを埋めたあとが残っていたんだ。
『皆、その日に自分たちが使った物に関しては、出来る限り元に戻していく。あの子供たちは、木と花を使ったのだろう。だから帰る前に代わりを植えて帰ったのだ。ここに植えたものは、外よりも早く成長するからな。数日経てば、また遊べるようになる』
「……木の実や果物を食べたら?」
『完璧になっている木や花を、ダメにしてしまった時は、新しく植えるが、残っている場合は水をやって帰るぞ。そうすればこちらも、数日でまた実ができるからな。あとは、掘った場所なども、綺麗に戻してから帰るからな。だから次の日には、かなり元通りに戻っているぞ』
「ほ、ほんとに?」
『ああ。……そうだな、夜にまた見てみると良い。夜活動する魔獣たちが遊んでいるが、昼よりは少ないからな。綺麗に片付いているのが見られるはずだ』
片付けて、元に戻して帰る。それは大切なことだけど、本当に元に戻るのか?
『だからお前たちも、あの場所は好きに使うが良い』
「う、うん」
『キッキキー!!』
『う、うん。楽しみだね』
ルーファスが私のところへ一旦戻って来て、楽しみと全身で現してから、子犬の方へ戻っていた。
こうして、住む場所を提供してもらった私たち。うん、まさか箱庭というには広すぎる場所、そして神聖な場所に住むことになるとは思っていなかったけれど。今日から私たちは、この素敵な場所で暮らすことになったんだ。




