第15話 知り合いの人間の王とフィオナたちのために(魔獣王レジナルド視点)
『お久しぶりです』
『我らにとって、会わなかった時間は、久しぶりというほどでもないだろう』
『それでも以前に比べれば』
『まぁ、そうか。ヒューイとセドリックはなぜ森の外にいる?』
『セドリックは、今は、自分は行かない方が良いだろうと。ヒューイはセドリックを守るために、その場に残りました』
『はぁ、そんなこと気にせずに、会いにくれば良いものを。大体、いまさらだろうが』
我の元へ来るか来ないかは、最初に気配を感じた時は、まだ分からなかったが。子供たちが騒がないよう、場所を移動し待っていれば、少ししてファイヤードラゴンのジュードが、我の元へとやってきた。
『皆、元気か?』
『はい』
『お前の家族もか?』
『本当は今日も来る予定だったのですが……。オリヴィアに、王から何も言われていないのならば、事件はそれくらいのことだということです。あちらはセドリックたちに任せ、あなたは溜まっている仕事を片付けなさい。片付けるまで、私が見張っていますからね、と言われたもので』
『ハハハハハッ!! あいかわらず、オリヴィアの尻に敷かれているのか。人間の王とは思えんな。いやぁ、しかし、いつも通りで安心したぞ。ハハハハハッ!!』
ジュードは昔、この森に住んでいた。しかしある時、人間の王がこの森へやって来ると、なぜか我らと力比べをしたいと言ってきて。そこで戦ったのが、このジュードだった。
そして、長い戦いを終えると、お互いを認め合ったジュードと人間の王は契約をし、ジュードは人間の世界へと旅立って行ったのだ。
それからは、時々この森へ遊びに来るようになった人間の王。すると、少しの間、姿を見せない時があったのだが、その後ここへ来ると、奴は自分の子供を連れていて。
この息子の名はセドリックと言うのだが。このセドリックがまた、人間の王のように変わった子供だった。まだ2歳の子供が、ワイバーンのヒューイに、少しも怖がることなく懐いたのだ。
これに対しヒューイは、いつも人間には怖がられ、魔獣でも、子魔獣たちには慣れるまで怖がられるのに、なんだこの子供はと気持ち悪がり、少しの間逃げることになったのだが。
しかし、子供のしつこさに負けたのか、それともジュードと人間の王のように、お互いに何かを感じたのかは知らないが。最終的にはセドリックと契約をして、ヒューイもこの森から旅立って行った。
そんな、変わり者の人間の王と息子だが。人間の王の番はオリヴィアと言うのだが、これまたこのオリヴィアが、2人よりも上をいくというか。
オリヴィアは、どれだけ強い魔獣がこの森にいるのかと、面白がってやって来ると。我らに、王よりも強い力を示し、息子よりもしつこく絡んできて……。
だから我らは、一応人間の王はいるが、実はオリヴィアが、本当の王ではないかと、思っているのだ。
『笑い事ではありません』
『ハハハハハッ!! まぁ、良いではないか。いつもと変わらないと言うことは平和だということ。何か面倒ごとが起き、悲しむようなことあるよりも良いだろう』
嫌そうな顔をするジュード。まぁ、向こうで暮らすと決めたのは自分だからな。少々のドタバタは我慢しなければ。
さて……。他にも話をしたいところだが、ジュードたちがなぜここへ来たのか、そろそろ聞かなければ。
いつも通り遊びに来ただけなら、森の魔獣たちに声をかけながら我の元へ来るだろう。それが誰にも声をかけず、すぐに我のところへ来たとなると、やはり何かあるはず。
『……さて、それで。今日は何の用でここへ来た? ただ遊びに来たわけではないだろう? あの魔獣好きのセドリックが遠慮しているのだからな』
『……まずは、お子様の誕生、おめでとうございます。ですが、お子様が攫われたと聞きました。そして、その攫った人間を追っていると』
『なぜお前たちがそれを知っている? お前たちの方へは、話はいっていないはずだが?』
『用があり、人間たちが魔の森と呼んでいる森を通ったのです。その時、王の気配を感じ、森を確認しました。そして、魔獣たちに話を聞いたのです』
『そうか』
『お子様はご無事で? 魔獣たちの話では、元気にお帰りになられたと聞いたのですが』
『ああ、心配はいらない。とても元気だぞ。大体、追いついた時には、元気よくご飯を食べていたからな』
『残るような傷や、心の傷は?』
『それもないな。あとで我と共に攫った者たちにお仕置きすると、毎日少しだけだが、魔法の練習をしているほどだ』
『そうですか。それは良かった。攫った人間の方は?』
『そろそろ、仕置きに行こうと思っている』
『その者たちがどこにいるかお分かりに?』
『ああ』
『なるほど。では、こちらは問題ないようですね』
『フッ、安心しろ。奴らはある街にいるが、その者たちも仕置きのために、街を破壊するようなことはせん。ここへ連れてきて、子にお仕置きさせるか、別の場所でやるか、今考えているところだ。人間の王にもそう伝えておけ』
ジュードが少しホッとした顔をする。我は無闇に人を殺したりしないし、人間たちが住んでいる街を破壊することもしない。まぁ、若いころは、少々やり過ぎてしまったこともあるが、今はそんなことはしない。そう、そんなことはないぞ?
『では、そのように伝えます』
『ああ、任せたぞ』
『……』
『……』
『……それだけを聞きに来たわけではないだろう?』
無言の時間が続き、こちらから話をふってやる。
『……はい。人間の子供と魔獣の子供を、共に連れ帰ったと聞きました。そのことについて、詳しい話が聞きたいと』
やはりか。というか、こちらが本題だろう。
『どこまで、向こうの魔獣たちに聞いてきた?』
『あまり詳しくは。子が騎士に襲われ逃げた後、王のお子様に出会い、共に立ち去ったとしか。バリントンは、人間の子供の素性が分かれば、親の元へ返したいと考えています』
『フッ、親も元へか。そんなことをすれば、また殺されることになるぞ』
『……どういうことで?』
我はジュードに、フィオナについて話した。まぁ、我も、そこまで詳しく話を聞いたわけではないが。それでも今のフィオナの状況は、しっかりと分かっているつもりだからな。
『まさか、そのようなことが……』
『ああ。だから、親元に返すなどと考えない方が良いだろう。それから、街に連れて行くのもやめた方が良い。どこの街でもだ。街で知っている者に見つかってみろ。生きていたのかと、また命を狙われることになるぞ』
『確かに……』
『それに、授かっている魔法も問題だ。神獣とも既に契約しているからな。これが知られれば、どれだけの人間に狙われることになるか』
『そうでしょうね。まさか、これほどの魔法を授かっている人間がいたとは。何年振りでしょうか』
『だからだ。だから今は、我の元にいた方が安全だろう。だが、そうだな。お前たちの方は、そう簡単にはいかんのだろう?』
『おそらく、何かしら動くことになるかと。しかし、これ以上の話は……。まずは、今の話をバリントンに伝えます』
『ああ、そうしてくれ。そうだな……1つ頼みがある』
『何でしょうか』
『人間の王に伝えてくれ。もしもフィオナが誰の子か分かり、なぜ殺そうとしたのかも分かっても、その理由がなんであれ、すぐにその者たちに何かするのはやめてくれと。何かするのならば、まずはフィオナの意見を尊重してやりたいのだ』
『必ず伝えます』
『それと、フィオナとルーファスの世話をし、家族から助けてくれていた人間についても調べてくれ。名はレイラだ』
『レイラですね』
『ああ。家を追われ日、最後に会うことができなかったと。父親は、別の人間の世話をしていると言っていたようだが、本当かどうか。フィオナの関係者だと殺されていないかと、2人はずっと心配しているのだ』
『そのことについても、必ず伝え調べます』
『頼むぞ』
『では、私はこれで。何か分かり次第、お伝えしに来ます』
そう言い残し、空へと飛び立つジュード。
もし人間の王がフィオナに、フィオナを殺そうとした人間に罰を与えるかと聞いても、おそらくフィオナは何も言わないだろう。フィオナはもう、関係のない人間と、家族のことは切り捨てているからな。
では何故ジュードに、王に待つように伝えろと言ったのか。それは、我が許せんからだ。少しは何かしてやらなければ気がすまん。あれほど小さな者に、まだまだ守ってやらなければならない者に、どうしてあのような仕打ちができるのか。
我は、相手を殺さずに、長く苦しめることができる、ある力を持っている。それで、少しずつじわじわと苦しめてやろうではないか。
あとは、フィオナたちが心配しているレイラという人間が、生きていれば良いのだが……。




