第14話 あり得ないほど育ったトーマと、夕焼けに同化する子魔獣たち
『みんな、並んで! みんな連れて行ってもらえる。だから喧嘩しないで並ぶ!!』
『キキキ、キキッ、キキッ!!』
『ルー、みんなちゃんと並んでる!?』
『キキッ!!』
『分かったぁ! 割り込んだら、最後に並び直させてね!!』
『キキッ!!』
『上でゴンタおじさんが待っているから、おじさんの言うことをよく聞くのよ。いいかしら?』
『『『はーい!!』』』
『フィオナは、ルーファスとラウル様と一緒で、最後でいいのね?』
「うん」
『分かったわ。それじゃあ、私は登ってくるわね。みんなも、順番にどんどん連れて行ってあげて』
『分かったわ』
『任せろ!』
セイリーが、先頭に並んでいる子魔獣たち5匹を背中に乗せると、どんどんあるものを登っていく。そうしてそれを確認した後、集まっている親魔獣たちの1匹が前に出ると、セイリーみたいに、次に並んでいた子たちを数匹背に乗せて、またあれを登って行って……。
って、おかしくない? みんな、おかしいとは思わないの? それとも箱庭ではこれは普通とか? 確認する前に、ラウルがどんどん話を進めちゃったから、いまだにこれが普通のことなのか分からないままなんだけど。
今、私の前には、子魔獣たちの長い列ができている。でも、その子魔獣たちだけじゃなく他にも、白いベールのようなものを通り抜けて、続々と子魔獣たちが集まってきているよ。
そして、そんな子魔獣たちに、きちんと1列に並ぶよう声をかけながら、列の番整理をするラウル。そんなラウルを見習いながら、一緒に列の整理をしているルーファス。私たちの箱庭は今、たくさんの子魔獣たちと親魔獣たちでごった返しているんだ。
どうしてこんなことになっているのか。それは、列の先頭、初めて作った畑、そこに蒔いた種が原因だった。
初めて柵を作ったのが5日前。あの日は、畑の柵を作るだけで終わった私たち。柵に関しては、範囲は狭かったけど、それでもしっかりと柵を立てることができたよ。
そして次の日は、畑内の草を全て抜き、抜いた草は、何か別のことに使えるかもと、ルーファスに空間にしまってもらって、その後は畑を耕したんだ。セイリーが、作物がよく育つ土の作り方を知っていてね、その通りに土を作ったんだ。
そうして、種を蒔いたのがつい昨日のこと。記念すべき最初の野菜は、形はトマトに似ていて、味もそっくり、とっても甘くて美味しいトーマという野菜の種を蒔いたんだ。
種は家からいろいろと拝借してきていたから、どの野菜でも良かったんだけど、トーマはルーファスの大好物でね。ラウルも他の子魔獣たちも、トーマが大好きってことで、この野菜に決定。決まった時も、種を蒔いた時も、ルーファスとラウルは大喜びだったよ。
それでね、セイリーの話では、毎日かかさずに水をあげて、天気が良ければ、10日もすれば芽が出てくるってことだったから。今日は朝ごはんの前に、水撒きをしようと家を出たんだけど、その時にはすでに、それが畑にあったんだ……。
ドームのような箱庭。範囲も広いけれど天井もかなり高くて、それこそ大きなドームの天井よりも高いかもしれない。その天井ギリギリまで、大きな植物が育っていたんだ。あの、空まで届くほど大きく伸びた、童話に出てくる植物みたいなね。
最初見た時、私もルーファスも固まったよ。だって1日で、こんな大きな植物が生えるなんて、考えもしないでしょう? でも、すぐに現実に戻った私は、固まって動かないルーファスを頭に乗せると、急いでセイリーさんを呼びに行ったんだ。
だってここは、地球とは違う植物が生える世界。私たちに害をなすものは、箱庭の中には入れないから大丈夫なはずだけど。でも、もしかしたら、ということもあるかもしれないでしょう?
それで、私があまりにも慌てていたからか、急いで見にきてくれたセイリーさん。ただ、植物を見てすぐに、
『あらあら、まぁまぁ。これは子供たちが喜びそうね。2人とも、これは危険な植物じゃないから安心して。そうだわ、ルーファス。ラウルを呼んできてくれるかしら』
そう、ニコニコしながら私たちに言ってきたんだ。そうして、ルーファスがラウルを呼んでくると、植物を見たラウルは大興奮し、これまたすぐに他の子魔獣たちを呼びに行ってね。そんな、みんなの反応に戸惑っている中、
『まさか1日で、トーマが食べられるまで成長するなんてね。今日はみんなで遊んだ後、パーティーをしましょう』
と、セイリーさんが言ったの。そう、この木みたいな、空まで届くんじゃないかと思われるほど大きな植物は、成長したトーマだったの。
もちろん普通に育てれば、地球の平均的なトマトの株と同じくらいの大きさにしか育たないし。畑に種を蒔いた時も、そのことを考慮して、いい具合に間を開けて種を蒔いて、セイリーさんも、それで良いって言っていたんだ。それなのに、1日でこれだよ。
そうして、ラウルがトーマのことを話しまくった結果。話はどんどん広まり、直接ラウルから話を聞かなくても、子魔獣たちが次々と集まってきての、今のこの行列なんだ。
行列は、セイリーさんの、みんなで遊んだ後っていっていたでしょう? これは、どうやって遊ぶのかと思ったら、これだけ大きいと葉っぱも私たちの家の屋根よりも広くてね。上の方の葉っぱまで登って行って、そこで景色を眺めながら遊ぶってことだったようで。この列は、上に連れて行ってもらうための列なの。
しっかりしているから、セイリーくらいの大きさなら、普通に葉っぱに乗れるらしくて。子供たちの親魔獣の中で飛べる魔獣や、セイリーみたいに移動に優れていて、身軽な親魔獣たちが、順番に子供たちを運んでくれているんだ。
『お姉ちゃん、1番後ろはここですか?』
「あ、う、うん! ここだよ」
私がボケッと、登っていく子魔獣たちを見ていたら、うさぎに似ているラビという魔獣の子が話しかけてきた。
『いっぱい並んでる……』
「うん、いっぱいだね。でも、いっぺんに、たくさんのお友達が登って行っているから、すぐに順番が来るよ」
『ほんと?』
「うん、本当。ほら、今いっぱい前に進んだでしょう?」
『ほんとだ!! 前に進まなくちゃ!! お姉ちゃんも後でくる?』
「うん、行くよ!」
『じゃあ、後で遊ぼうね!!』
そう言い、前に進んで行ったラビの子魔獣。それから約1時間くらい、私たちは列の整理にあたることになったんだ。そして……。
『さぁ、あなたたちで最後よ。しっかり掴まっていてね』
「はい!」
『キキッ!』
『ほい!』
ようやく、遊びに来た子魔獣たちを全員上へ送り届け、残るは私とルーファスとラウルだけに。私たちはセイリーが迎えに来てくれたよ。そしてセイリーの背に乗ると、セイリーは大きな葉っぱをつたいながら、一気にトーマの株を登り始めたんだ。
そうして1番上まで着けば、もうすでに子魔獣たちが葉っぱの上で、思い思いに過ごしていたよ。
景色を眺める子魔獣たち。景色そっちのけで、遊びまくる子魔獣たち。走り回る子魔獣たちに、葉っぱをトランポリンみたいに使い、上に下にと忙しい子供たち。まぁ、いろいろしてたよね。
これだけやっても下に落ちないのは、ゴンタのおかげ。ゴンタは犬系の魔獣で、大きさはライオンより少し大きいくらい。耳は頭の上にピンと立った三角形、顔立ちはオオカミに似ていて、鼻先はちょっと長くて大きいよ。
それから、毛は全体的に長くて密度が高く、特に首から胸元にかけて毛が特にもふもふしているんだ。体つきもがっしりね。
渋みのある顔つをしていて、どんと構えている姿が、いかにもゴンタって感じの魔獣だよ。初めて見た時、思わずゴンタって言っちゃって、何で名前を知っているんだ? って言われたくらいにね。
ゴンタは、誰よりも結界を張るのが上手で、子供たちが普段と違う遊びをする時や、普段でも、ゴンタが危険だと判断したときは、強力な結界を張ってくれるの。今回は、上空での遊びだから、しっかりゴンタが結界を張ってくれているよ。
みんなに合流し、すぐに遊び始めたルーファスとラウル。私も、下で約束したラビと遊ぶことに。まぁ、私の意識は半分くらい、トーマの実の方に向いていたかな。遊びでもなく、景色でもなくね。
いや、景色はね、さすが上空。箱庭全体が見えて、こう風景画を見ているみたいで、本当に素晴らしかったんだけど。運動会の大玉転がしで使う球くらい、大きなトーマの実が、たくさんなっていて、そっちの方が気になっちゃったんだよ。
大玉転がしの球だよ? 直径1メートルくらいのトマトみたいな実が、普通になっているんだから、そりゃあ、気になるでしょうよ。
でも、まぁ、こんな経験は早々できないと思って、後半は前半よりも遊べたけどね。そして夕方……。
「とっても綺麗だね!」
『キキキー』
『綺麗ねぇ』
空から見る夕焼けと箱庭は、本当に綺麗だったよ。……ただ、その夕焼けに子魔獣たちが同化しなければ、もっと綺麗だったかもしれないけど。
夕方少し前。おやつにトーマを食べたのに、そして夕ご飯まで、まだまだ時間があったのに、ルーファスもラウルも他の子魔獣たちもお腹が空いたと言い始めて。仕方なく早昼や早夜ならぬ、はやはや夕ご飯を食べることになってね。
おやつはトーマを切り分けて、少し食べたけど、夕飯はおやつよりもガッツリ食べるって、みんながみんな大きなトーマの実に直接かぶりついたの。そうしたら、あっという間にトーマの汁まみれに……。
挙句、汁の色が夕焼け色だったから、ラウルの魔法を使わなくても、まぁ、同化するわ同化するわ。まったく、せっかくの綺麗な夕焼けが、綺麗だけど面白い夕焼けになっちゃったよ。
ちなみに、この後のトーマだけど。大きなトーマの実が大量になっていたから、それはみんなに配って。大きなトーマの株は、簡単に枯れないってことで、遊び場として残すことになったんだ。
***************************
『……ん? この気配は……』
『レジナルド様!!』
『どうした?』
『ポプリットの方から、何者かが近づいてきています!!』
『ああ、それならば問題はない。あれを我は知っているからな。皆にもそう伝えてくれ』
『ハッ!!』
ドタバタッ!!
『……さて、奴らはなぜ、こちらに向かってきているのか。我に関係することか、それとも……』




