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第16話 レイラとの再会、そして続く箱庭生活

「父上、入ります」


「ああ、来たか。例の子供について、調査が終わった」


「何か分かりましたか?」


「ああ……」


「父上?」


「少々面倒なことになった」


「面倒?」


「フィオナの本名は、フィオナ・ドレイファス。ドレイファス伯爵家の娘だ」


「ドレイファス伯爵家の!? そういえば……。少し前にドレイファス家から、死亡届が出されていたはず」


「そうだ。その死亡したと報告されたのがフィオナだった」


「しかし、届けには病死と」


「ああ、書類ではな。だが実際は、魔の森でフィオナを殺し、病死と見せかけようとしたのだ。運良くフィオナたちは生きていたが……。フィオナを殺そうとした騎士たちの言葉を、そのまま鵜呑みにしたらしい。フィオナを殺さず、魔の森の魔獣が殺すだろうと、魔獣を恐れて逃げ帰った騎士たちの言葉をな」


「なぜそのようなことを?」


「これを見てみろ」


「これは、フィオナに関する報告書……。はぁ、なるほど」


「奴らめ、もともといい噂は……というよりも、祖父母の代は良かったが、奴らに代が変わってからは、少々力が強いだけで、大した実績もなかったというのに。フィオナの能力が弱いと分かると、それを他の者に知られたくないという理由だけで、自分の子供を殺そうとするとは」


「魔の森で、魔獣王のお子様と出会う前、騎士に殺されそうになっていたというのは、それだったのですね。父上、これからどうするのですか?」


「魔獣王が、私たちだけで勝手に動くなとおっしゃったからな。今は何もせずに、まずは報告に行く。だが、奴らの方は、子殺しの決定的な証拠がないからな。どこまで責任を取らせることができるか。それに……」


「それに?」


「魔獣王は、フィオナの意思を尊重したいと言っている。もしもこのままフィオナが、何もしないでほしいと言ってくれば、我々はそれに従うことになる」


「ですが、それでは……」


「分かっている。その場合でも、あの者たちに対して何かできないか考えるつもりだ」


「レイラについては、何か分かりましたか?」


「ああ。レイラはフィオナの乳母だった。今も、あの者たちの~をしている。だが、その扱いがな……。こちらは魔獣王の意向には反することになったが、先に手を打たせてもらった。命に関わることだったからな」


「では、今は?」


「ある場所で保護している。奴らには気づかれないよう、上手く連れ出したから問題はない。……奴らが、彼女をフィオナのように消そうとしなかったのは意外だったが、これからの魔獣王との話し合いで、彼女のことは決めようと思う」


「魔獣王様の元へは?」


「私が行く。フィオナとも、話をすることになるかもしれんからな」




      ***************************




「ルーファス、まだかな?」


『キキ……』


「まだかなぁ」


『キキキ……』


『まーだかなぁ♪ まーだかなぁ♪ なーにがまだかなぁ♪』


 いや、歌ってる場合じゃないから。って、確かにラウルはそうなるかもしれないけど、私とルーファスは今、歌う余裕はないから。

 ……まぁ、ルーファスは真剣な顔をして、白いベールみたいなものの方を見ながら、ラウルの歌に合わせてお尻を振っているけどさ。そう、それでも真剣なんだよ。


『フィオナ、なにを待ってるの?』


「この前話したでしょう? 今日は私たちの家族がここに来る日なんだよ」


『家族……、あっ! おばあちゃん!?』


「うん、そう」


『どこから来るの!? 僕、会うの楽しみだった!!』


 そう言い、なぜか川の中を覗くラウル。何してるんだ?


「ラウル、何してるの?」


『おばあちゃん、川を泳いで、それから川の中でジャンプしながら来るんでしょ!? 僕、まだちょっと泳ぐの下手。だから、おばあちゃんに教えてもらうの!!』


 ……誰だそれは。そんな人がいたら見ていたわ。いや、泳いでジャンプするなら、バタフライみたいなものか? それならいつか教えてあげられるかも…… って、だから違うって。だれだよ、ラウルに変なこと教えたの。


「ラウル、おばあちゃんは、普通に歩いてくると思うよ。向こうから」


 私は白いベールのようなものを指差す。


『え? でも、ハーヴィーが 人間は泳げるし、水の中で魚みたいにジャンプできるって。だから、フィオナとルーのおばあちゃんは、泳いでくるかもって言ってた』


 あいつか、変なことを教えたのは!! 何、おかしなこと教えてるんだよ! まったく、こっちは気が気じゃないっていうのに。あとでミナージュさんに言いつけて、しっかりとお仕置きをしてもらおう。


「ラウル、ハーヴィーは間違ってる。人間は泳げるけど、水の中でお魚みたいにジャンプはできないよ」


『えー!! ハーヴィーの間違い!?』


「うん。でも、ジャンプに似てる泳ぎはある。私はまだ泳げないけど、泳げるようになったら教えてあげるね。だから、今は一緒に、おばあちゃんが来るのを待ってよう」


『うん、お約束ね。……ハーヴィー、嘘つき。許さない。ミナージュに吹っ飛ばしてもらう』


 私と同じことを考えたラウル。うん、後でお仕置きしてもらおうね。と、今はそれよりも。


 私は、白いべールのようなものを見直す。私もルーファスも、何でこんなにソワソワしながらそっちを見ているのか。それはね……。


 箱庭に、レイラが来るんだよ。そう、私たちのことをいつも1番に考えてくれて、最後まで守ろうとしてくれたレイラがね。


 魔獣王のおかげで、住む場所を提供してもらって、そしてここの生活にも慣れて、家にいた時よりも、幸せに暮らしている私たち。でも、ずっとずっと、レイラのことを忘れたことはなかったよ。


 最後に会うことができなくて、本当にレイラは、そのまま家で働いているのか。私たちがいなくなったことで、家を追い出されていないか。


 ううん、それよりも、私たちは家では、もういないものとされているでしょう? そのせいで、今まで私たちのお世話をしてくれていたレイラから、私たちの情報が外に漏れることを恐れた父様たちが、レイラまで口封じで殺していたらって、本当に心配していたの。


 そうしたら数日前、レジナルドが大事な話があると言ってきて。それがまさかのまさか、レイラについての大事な話だったんだ。


 それに、レイラの話以外にも、驚きの連続だったよ。レジナルドは、人間の王と知り合いだとか。


 たまたまだったんだけど、私たちのことに気づいた王の関係者が、私たちについて聞きにきた時。私のことを調べるのならば、レイラのことも調べてほしいと、レジナルドが頼んでくれたとか。


 それから、私がどういう状況にあったかを知った陛下が、レイラを保護してくれたとか。本当に本当に驚いたんだ。


 あ、勝手に私のことを調べたことに関しては、何回も謝られたよ。ただ、まぁ、別に隠すことでもなかったし、私的にはレイラのことを確認してもらえたからね。謝らなくていいし、探してくれてありがとうって伝えたんだ。


 そして今日、レジナルドと陛下から、今の私たちの状況を聞いたレイラが、この箱庭に引っ越してくるの。レイラは最初、断ったみたいなんだけど、もしかしたら殺される可能性があるから、私たちとここで暮らした方が良いって、説得してくれたって。


 ちなみに、少しだけだけど、私も陛下と話をしましたとも。魔獣王も陛下も、会うのはどちらでもいいと言ってくれて。私も本当は、身分が違いすぎるから、会うのはちょっとなぁって思ったけど。


 だって、どう接していいか分からなかったからさ。日本の一般市民として生きていた私には、ハードルが高すぎるでしょう?


 でも、家のこともあったし、レジナルドとの関係もあるし、何よりも、レイラを助け出してもらったのに、会って話さないわけにはいかないからね。


 と、いうことで、少しだけ陛下にお会いして話をしたんだ。そして、私はこのままここで暮らすことと、今はまだ、私は死んだことにしておくことが決まったの。父様たちに見つかると面倒だし、私の力のことを考えると、今はここで暮らしていた方が安全だからって。


 そうして今日から、レイラとの生活が始まるんだよ!!


「まだかな?」


『キキキ……』


『ハーヴィー、許さん』


 そんな言葉を繰り返しながら待つこと1時間くらい。ついにこの時がきたんだ。


「……来た!! レイラ!!」


『キキキーッ!!』


『知らない人間のおばあちゃん!!』


「お嬢様!! ルーファス様!!」


 走って行って、レイラに抱きつく私とルーファス……とラウル。


「お嬢様、本当にお嬢様なのですね。ああ、ご無事で良かった!! 私はいつも、お嬢様方のことを案じておりました。こうしてまたお会いできるなど、夢のようです!!」


「レイラ、私たち元気だったよ!!」


『キキキッ!!』


『僕は初めてだけど、元気だった!!』


「ああ、そうなのですね。本当に、本当に……」


 再会を喜び合う私たち。レイラは泣いていて、私とルーファスはニコニコ、そしてラウルは……何でラウルが1番喜んでるんだよ。あり得ないくらいテンション高いんだけど?


 と、まぁ、ラウルのおかげで、最高に嬉しい気持ちと、何ともいえない気持ちになった再会になったけど、それでも長い時間喜びあった私たち。

 それが終わると私たちは、箱庭でどんな暮らしをしているか話しながら、箱庭の中を、とりあえず簡単に案内して、最後家に戻ってきたんだ。


「ここが、私たちの家!! レイラも一緒の暮らす家だよ!!」


『キキキッ!!』


『そう、僕たちの家!!』


 ルーファスとラウルが玄関前で、左右に少し離れて立つと、ルーファスは右に向かって両手を上下斜めに大きく広げ。ラウルは逆に左に向かって、両手を上下斜めに大きく広げて、ジャジャーンッ!! というようなポーズをとった。


 ルーファスはともかく、犬系のラウルまでそんな格好できるか、ってそうじゃなくて……。


『キキキーッ!!』


『いらっしゃいませ。えと、前は、フィオナとルーの家、今はフィオナとルーと、僕とパパの家。他の魔獣とハーヴィーも住んでる。うん、家はいい』


 ……僕とパパの家って、今まで寝ていた洞窟に帰るのが面倒になって、家に泊まるようになってから、そのままいついたんじゃないか。まぁ、ここはレジナルド作ってくれた箱庭だし、一緒に暮らすのは構わないけどさ、ミナージュさんに迷惑かけないでよ。


 私たちの家は今、最初よりも2倍ほど横にも縦にも大きくなったの。増築したって感じ。ラウルとレジナルドが家に帰るのが面倒だとここに居座ると、セイリーがラウルの世話をしないとと、やっぱり引っ越してきて。


 そのあと、ラウルの友達も遊びながら泊まりに来るようになると、その親も泊まるように。友達と親の方は、毎回違う魔獣たちが泊まるけどね。


 それからなぜか、ハーヴィーも居座るようになってさ。まぁ、ハーヴィーは、この前ミナージュさんが怒って連れ帰ったけど。部屋はそのままにしておいてくれって、荷物をそのままに帰っちゃってさ。


 そんなこんなで、部屋が足りなくなっちゃって。だからミナージュさんが増築してくれてね。その時、レジナルドなんて言ったと思う?


『まぁ、人数が増えたら、また家を大きくすればいいだろう。それに遊び場が足りないというのなら、別に空間を作るか、ここをもっと広くすればいいだけのこと』


 って。もうそれは箱庭じゃないんじゃ? 今だって、箱庭って感じの広さじゃないのに。大体、箱庭ってそんな簡単に、ひょいひょい作っていいものなのかよ。


「素敵なお家ですね」


「う、うん!! ささ、入ろう!! 中も、とっても素敵なんだよ!!」


 私は軽く頭を振ると、レイラの手を取り玄関に向かう。


 レイラも無事で、これから一緒に暮らせるなんて最高だよ。まだまだ箱庭生活は、驚きの連続だけど、でもきっと、前よりももっと楽しい生活になるはず。そしてルーファスやレイラ、ラウルやレジナルドにセイリーさん、他のみんなとも幸せに、この箱庭で暮らすんだ。


『キキキッ!!』


『うん、まずは僕たちの遊びの部屋から見る。こっち! 部屋を歩く時は気をつける。時々引っかかって、くるりんって2回転する』


 リビングは別として、1番最初が、1番散らかってる部屋から案内するのかよ。




      ***************************




『魔獣王、こちらです』


『なるほど、あの2人が、フィオナにあのようなことをした両親か。フン、人間の王が言っていた通り、大した力を持っていないではないか。あれでフィオナの力が弱いなどと、よく言えたものだな』


 我とジュードは今、人の姿に変身し、フィオナが住んでいた街、そしてフィオナが以前住んでいた家の周りに生えている木に隠れながら、フィオナの両親を見ている。


『これからどうするので?』


『フィオナには何もするなと言われたが、そうもいかんだろう。それに、我の気がすまん。が、やりすぎてバレるのもあれだからな。奴らにはある加護を与えようと思っている』


 そう、人間の王と我とフィオナとルーファスで話をした時、フィオナはキッパリと両親への復讐はしないと言った。今の幸せが大事だからと。

 そして我らは、それ以上フィオナたちに何も言うことはしなかった。殺されそうになった本人たちが言うのだから、我らがどうこう言うべきではないからだ。


 しかし、だからといって、そのままにしておくこともできん。それは人間の王も同じで、我が何かしようとしていることに気づいてはいたが、それについては何も言わず。帰る時に、


「何かあれば、後始末は私がする」


 とだけ言うと帰って行ったのだ。


『加護ですか』


『ああ。簡単なものだ。……よし、終わったぞ』


『どのような加護で?』


『不運の連鎖だ』


『ああ、なるほど。それはちょうど良い』


 我がフィオナの両親に授けた加護は『不運の連鎖』というものだ。これは不運がずっと続くもので。最初はその不運に気づかないが、それは徐々に大きな不運へと繋がり、最終的には身を滅ぼす。


 これならば、我は両親の近くにいなくとも、勝手にやつらは身を滅ぼすし、それまでに時間がかかることから、フィオナたちは我を疑うことはないだろう。それに、人間の王が後始末するのも楽なはずだ。


 街の人々には、何の罪もないからな。奴らだけに、不運が起きるようになっているため、こちらも問題はない。


『それじゃあ、我は帰るぞ』


『時々、両親の状態をお知らせしますか?』


『ああ。だが、バレるといけないからな。その場合は場所を移動するから、森にいる時は、その話は絶対にするな』


『ハッ』


 我は木々をつたい、向こうの道まで出ると、そこから街中を通り。かなり離れてから元の姿に戻って、我の森へと向かって走り出す。


 フィオナとルーファスが死ぬことなく、我と出会ったのは偶然か、それとも……。まぁ、どちらにしても関わった以上は、フィオナとルーファスが2人で生活できるようになるまで、しっかりと面倒を見てやろう。


 そして、魔法の方もしっかりと教えなくては。……いや、まずはその辺はセイリーたちに任せよう。うむ、その方がいい。


『ムッ、あれは子供たちが好きなモモンの実。よし、これを土産に帰るか』


 モモンの実を見て、喜ぶ子供たちの姿を思い浮かべながら、モモンの実を半分ほど残して回収すると再び走り出す。待っていろ。すぐに帰るからな!

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