表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートな兄を追放しました~パーティー≠ファミリー~  作者: ミント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/20

戦い方

 エドさんの話を聞いて、レオンは吹っ切れることができたらしい。


 徐々に元気を取り戻し始めたレオンは初心者向けの薬草摘みやゴブリン退治など簡単な依頼を黙々とこなすようになり、日々の鍛錬も一層力を入れて行うようになった。その努力が功を奏してか勇者としての力も少しずつ成長しており、『方舟に曳かれて』の名誉回復に向けて精進している様子が見受けられる。


 そんなレオンに、クライドのパーティーに誘われたことを言い出せなかった私だが今となっては「言わなくてもいいか」と思い始めていた。




 クライドはかつてのエドさんのように、驕り高ぶっていた。


 自分のあまりの優秀さと、それを裏付ける実績。自分を認め、持ち上げる周囲の人々。その全てに酔い、いつの間にか人の気持ちのわからない人間になってしまったのだ。そして私もまた、クライドの妹であるというだけでそれが正しいことだと判断してしまっていた。冷静に物事を見れるレオンだけが、そんな私たち兄妹の歪んだ人格を見抜いた。そしてそれが矯正不可能になる前に、なんとかしようと動いてくれたのだ。例えそれが自分たちのパーティーのランクを下げるとしても。パーティー、『方舟に曳かれて』のマイナスになるとしても、私とクライドのこれからを考えて苦渋の決断を下したのだ。私だって兄に頼り切りでは、剣士としての腕が未熟なままだっただろう。剣士は捨て駒ではなく、あくまで戦って生きるのが仕事だ。クライドの魔法に頼り切りだった私はいつのまにか、剣士としての質を落としていたのだ。


 紆余曲折あったものの私は剣士として生きる道を選び、そして戦ってきた。それなら、いつまでもクライドに頼ってばかりいるべきではない。そう考えたらもう、クライドのパーティーに入るなどという選択肢はなくなっていたのだ。


 そうやって少しずつ再出発を始めた私とレオンは、新しい依頼を探し求めてギルドの依頼票を探し回っていた。


「イヴ、これ見てみろよ」


 言いながらレオンが、掲示板を指さす。何か新しい依頼だろうか、と思って目をやるとそこに貼り付けられていたのは魔法協会からのお知らせだった。


「『タリスマン・ケーキ無料配布のご案内、先着五十名様、魔法を使う人なら誰でも歓迎』だってさ。イヴ、行ってみたらどうだ?」


 レオンの言葉に私は「いいの?」と尋ね返す。


 タリスマンとは魔力向上のために作られたあらゆる道具や商品全般を指す言葉だ。タリスマン・ケーキはその中でも口にすると魔力の上昇に繋がるため、もちろんケーキとしての甘みも兼ね揃えているので、特に女性僧侶や女魔法使いに好まれている。


「この前、エドワードさんと一緒にミノタウロスと戦った時にイヴが魔法を使えてかなり助かったんだ。だからイヴの魔力が向上すれば、俺としてはかなり助かる。だから、行ってみてくれないか?」

 レオンの言葉に、私はふわっと心が浮き上がるのを感じる。


 褒めて、もらえた。たったそれだけのことだ。今までだってレオンやクライドに「偉いな」とか「よく頑張ったな」とか言ってもらえたことがあった。だけど、魔法について言及されたのはたぶん今回が初めてだ。


 今まではクライドという非の打ち所のない魔法使いが側にいたせいで、私の魔法が役に立つ機会なんてなかった。剣士のついでに魔法をやっているだけの私が、それを認めてもらえるだなんて思っていなかった。


 心の底からジワジワと温かいものが上りだし、頬が緩んでくる。そんな自分に戸惑いつつ、私はできるだけ平静を装いながらタリスマン・ケーキの文章に目を落とし――しかし胸の奥で何か、新しいものが芽生えたような気持ちでいるのだった。




 タリスマン・ケーキ配布会場は職種を問わず、たくさんの女性で賑わっている。男性も数名ほどいるが、会場のほとんどは女性で埋め尽くされていてなんとなく華やかでフワフワとした空気が流れている。


 私のように、本業は剣士でも魔法を使うというタイプの冒険者は別に珍しくない。僧侶や勇者といった魔法使い以外の冒険者でも、魔法を使う人はそれなりに多いのだ。そして魔法を使うのなら、タリスマン・ケーキでの魔力底上げは十分なレベルアップになる。先着五十名様、の真ん中辺りに辿り着いた私は何とはなしに周りを見渡す。ひょっとしたら剣士見習いの時の知り合いがいるかもしれない、知人や友人も一緒に来ているかもしれない。そんなことを考えながら、会場にいる女性たちを見回していると――黒い髪の美少女と、目が合った。




 あの子は確か――クライドのパーティーにいたネクロマンサーだ。




 そう気がついた瞬間、私の体は強張ったように動かなくなる。向こうも私の姿に気がついたのか、ぴたりと動きを止めるとそのままじっと私に向かって無感情な視線を投げつけた。


 ……クライドと一緒にいた時はツインテールだったが、今は髪をおろしている。その姿は先日の可憐な印象と違いひどく大人びていて、まるで別人のようだ。ネクロマンサー専用の衣装を着ていなければ、きっと誰だかわからなかっただろう……しかし向こうはこちらを見つめたまま、何を言うでもなくずっと黙り込んでいる。次にその口から飛び出すのは口汚い罵声か、あるいはクライドに対する不義理を責め立てる言葉か。何を言われるかわからず、私たちはなんとなく気まずい沈黙のままお互いに立ち尽くす。


 私とネクロマンサーの彼女が二人、凍り付いたように動けないでいると――そこに事情を知らない、見ず知らずのパーティーに所属する魔法使いと僧侶が割り込んできた。


「あら、貴女ネクロマンサーなの? 私、ネクロマンサーなんて初めて見たわぁ」


「今日はタリスマン・ケーキをもらいにきたのかしら? でも死霊使いみたいに自分が戦わない人が食べたら太っちゃうんじゃないの~?」


 ……彼女たちの言うことは特に意味はなく、本人たちからしてみれば軽い世間話のようなつもりなのだろう。けれど、言葉の端から滲み出る侮蔑と嘲笑の色は聞いているこちらまで気分が悪くなってくる。


 何か適当な理由をつけて助けなければ。そう思いながらネクロマンサーの彼女に近づこうとすると、先に彼女の唇が動いた。


「あなたたちに、怨霊がついています。髪の長い女の人ですね。憎い、憎いとあなたたちに向かって叫んでいますよ」


 淡々とした物言いに、ネクロマンサーを指さしていた女たちがぎょっと顔を見合わせる。思い当たるところがあるのだろう、顔を真っ青にする二人を面白がるように、彼女は上目遣いで口元を歪める。


「私たちネクロマンサーはこの世に恨みを残した人間の無念を晴らすために、死霊を呼び寄せます。あなたたちに憑いている方々も今、この場で呼び出してさしあげましょうか」


 ひっ、と魔法使いが短い悲鳴を上げて彼女の元から逃げ出す。その背中を追う形で僧侶も、慌てて私と彼女の前から姿を消した。


 剣士である私は死霊に関する知識を持ち合わせていない。けれど目の前の、ネクロマンサーである彼女に私はどう見えているだろう。そんな不安を抱えながら、私はおずおずと彼女へ話しかける。


「あの、ネクロマンサーさん」

「ボニーです」


 間髪言われた言葉に私はへっ? と間抜けな声を返す。


「私の名前はボニーです。職業はネクロマンサーで、ハーフエルフのアンと魔法使いのクライド様と一緒に『失われた風景』を結成しています」


 クライドといた時にできなかった自己紹介。遅れてそれをされた、と気がついた私は慌てて頭を下げる。


「えっと、私は剣士のイヴ、クライドとは兄妹で……」


「あなたのことはクライド様からお聞きしています」


 言おうとしたことを遮られ、私は所在なさげに立ち尽くす。彼女、ボニーはそんな私からふいと目を逸らすとやはり淡々とした物腰で口を開いた。


「安心してください。あなたに怨霊がついている様子は見られません。そもそもさっき私が言ったことは、全部デタラメです」


「え? でも、『髪の長い女の人』って……」


「女の人は髪の長い人が多いし、ああいう女はどうせ少なからず他の女の恨みを買っているでしょう。だから適当に言ったら、それがたまたま当たっただけです」




 ……言われてみれば、その通りだ。


 髪の長い女性なんて山ほどいる。同性に嫌われる女性も、また然りだ。けれど「ネクロマンサー」という特殊な肩書きを持つボニーの言葉だから、本当に悪霊がいると信じてしまった。だが「適当」というからにはボニーは、本当は幽霊が見えないということだろうか? 訝しげな表情をする私に、ボニーは淡々と話してみせる。


「私たちネクロマンサーは死霊を呼んでその力をお借りします。けれど、逆に言えば呼べる『だけ』なのでその魂をいつでも確認することができるわけではないですし、まして自由に操ることができるわけではないのです」


 それなら、ネクロマンサーはどうやって戦っているのだろう。私のその疑問を察したのか、彼女はネクロマンサーの証である笛に手を当てながら言葉を紡ぐ。


「ネクロマンサーは本来、死霊の声に耳を傾けるのが本来の役割です。怒り、悲しみ、未練、後悔。そういった無念を晴らしたいと願う方々を呼び出して思う存分暴れさせ、魂を浄化してあの世へ送り出す。その利害を一致させて初めてネクロマンサーは、戦えるのです」


「そう、なんだ……」

 たった今、始めて知った事実に私は呆気にとられたような返事をする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ