表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートな兄を追放しました~パーティー≠ファミリー~  作者: ミント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/20

家族のようなもの

 ネクロマンサーは死霊を用いて戦う。


 それはてっきり死した人々を「使役」するものだと思っていたが、それはあくまでネクロマンサーを知らない私たちの勝手なイメージだった。実際は死霊の声を聞き、いわば共闘する存在だったのだ。そう思う私にボニーは「イヴさんは」と話しかける。




「イヴさんはどうして、クライド様を追放なさったのですか」


咎めるつもりも窘めるつもりもない、ただ単純に疑問を感じたから口にした。そんな口調のボニーに私は戸惑い、口ごもるがボニーは続ける。


「クライド様はとても嘆いておられました。きっとイヴはレオンに逆らえなかったんだ、実の妹なのに、と」

「それ、は」


 ボニーにとってクライドは今のパーティーの仲間だ。それをどうして追放したのか、疑問に思うのも無理はない。ましてクライドはこの世界でも有数の才能を持った魔法使いなのだ。そんな優秀な人物をどうして、とボニーは思ったのだろう。


 クライドの行動が目に余るから。パーティーそのものがブラック入りしてしまったから。理由を正直に答えることは簡単だ。けれどクライドの妹である私が、今のクライドの仲間であるボニーにそれを言っていいのか。躊躇いと戸惑いは私の口を結び、「えっと、その」と口ごもるしかできなくなってしまう。ボニーはそんな私から目を離すと「クライド様は素晴らしい方です」と口火を切った。


「私たちネクロマンサーは基本、自分たちだけで固まって動くことはできません。死霊に指示をする人間が複数いたら霊たちが混乱し、戦いに支障が出るからです。なので私も一人でパーティーメンバーを探さなければならなかったのですが、ネクロマンサーを嫌う人は多い。確かにギルドから各種、優遇措置を受けることはできますがそれも私たちからしたらまだまだ足りていない状態で……まだ冒険者になったばかりの私も、よく苦労したものです」


 穏やかな口調で語るボニーに、私は何と声をかけたらいいのかわからず口をつぐむ。




 ネクロマンサーは長い間、人々に嫌われ不当な扱いを受けてきた。


 しかし現在はその歴史をひっくり返すかのごとく、「差別撤廃」の名の下に冒険者として何かと便宜が図られるようになっている。例えば、通常なら審査が厳しいパーティーランクの判定もネクロマンサーがいると簡単に昇格・降格したりパーディー同士で同じ依頼の取り合いになったらねくろのいるパーティーの方が優先権を与えられたり、といった具合だ。いずれも「ネクロマンサーを差別している!」という声を封じるため良くも悪くも為されていることであり、それを不満に思う冒険者が出るのも無理はない。




 だが――逆に言えば、それだけギルドが懸命に努力し、理不尽を無くそうとしなければネクロマンサーは冒険者として活動するのが難しいのだろう。




 今のボニーの話を聞けばネクロマンサーは自分たちだけのパーティーを作ることはできないし、そうなると必然的に孤立して迫害される機会も増えることになる。ギルドが何もしなければ不当な扱いを受ける、それを防ぐために色々と対策を立てればそれが今度は「依怙贔屓されている」と陰口を叩かれる。ネクロマンサーはネクロマンサーである以上、差別からは逃れられないのだ。しかしボニーはそれを撥ねのけるように、毅然とした態度で佇んでいる。私はそんな彼女の言葉に、黙って耳を傾けることしかできなかった。


「とはいえ、冒険者になりたての頃は苦労しました。子どもだからと言って別のメンバーに報酬を取られたり、パーティーに『加入させてやったんだから』と露骨に見下されたり。暴行を加えられそうになったことも一度や二度ではありません。そういうことが嫌で私は何度もパーティーを移り変わっていました。アンと出会ったのは、その時です」


青い瞳に、尖り耳を持ったハーフエルフの美少女。クライドと共にパーティーを組んでいたその姿を、私は思い起こす。彼女もまたネクロマンサーと同じ、差別と闘わざるをえない状況に置かれている存在だ。


「アン……今の私の仲間であるハーフエルフの彼女は、元は奴隷でした首にはネックレスに見せかけた首輪がつけられ、逆らうとそこから痛みが走る魔法をかけられていました。親を亡くし、後ろ盾のない彼女はそのような扱いの中でも生きるためにそのパーティーの一員として働くしかできなかったのです。私はそんな彼女を不憫に思い、彼女の両親の魂を呼び出すことにしました」


 奴隷、という単語の登場に私はさっと体が冷たくなるような感覚に陥る。


 この世界において人間の奴隷は違法であるが人外――例えば今までに戦ったミノタウロスやサイクロプスのように「人間に近い姿をしているけど魔物」といった存在にまでそれが及ぶかどうかは議論の対象となっている。


「人間と変わらない意思疎通ができる以上、隷属は人道に反することだ」


「人間に近い猿や、犬猫のように言葉を話せなくても感情のある動物はペットとして首輪をつけられている」


「どっちにしたって愛情がなければ虐待にすぎない、関係性に名前をつけても意味がない」


 ……そんな様々な意見がぶつかりあい、結果エルフ並びにハーフエルフの奴隷は現時点で黙認状態だ。魔法入りの首輪までつけられていたら基本的に、第三者が口を挟むことなどできなくなる。




 そんな状態から一体どうやって、ボニーはアンを助け出したのだろう? ボニーは形のいい唇をスラスラと動かし、私の疑問を解消してみせる。


「私は彼女の両親に万能薬エリクサーの精製法を聞き出しパーティーから解放することに成功しました。けれど、そのまま彼女を一人にしていたらいずれ他のパーティーで同じような目に遭うでしょう。ちょうど、私も自分がいたパーティーを飛び出してきたばかりなので私も彼女とパーティーを組むことにしました。私たちは扱いとして『子ども』であり『被差別対象』です。ぜひ加入したい、という人はたくさんいましたが私たちはその誰ともパーティーを組む気持ちになれませんでした」


 だってみんな、私たちをパーティーに入れることで得られる優遇措置が目当てであることはわかっていましたから。


 ふっ、と自嘲気味に笑ってみせるボニーの表情からは、彼女がどれだけ苦労したかが窺える。まだ冒険者になったばかりの時から人間の嫌な部分を、薄汚い部分ばかりを見せつけられてうんざりしてきたのだろう。それを「その時に、クライド様と出会ったのです」という言葉でボニーは振り切ってみせる。


「クライド様の魔法の才能が素晴らしい、ということは聞いていました。それなのになぜ追放されたか、追放されるような行いをしてきたのかも一応、知っています。だけど、私たちとしてはその方が好都合でした。追放されたような人間なら私たち相手にも、強く出ることはできないだろうと」


 自分自身が訳ありなら、他にも「訳あり」の人間に近づいた方がいい。職業や人種に限らず、そういった打算は誰しも抱くものだ。だからボニーは、パーティーを追放されたクライドを選んだ。きっとボニーは、クライドの評判を知っていただろう。素晴らしい才能を持ちながらパーティーを追い出されるとは、どういうことかもわかっていただろう。




 けれど――だからこそ自分たちと対等であると考えた。




 お互い、何かしら事情があるなら少なくとも攻撃されずに済む。今まで関わってきた人間のように邪険にされることもないだろうし、最悪の場合また追い出すという手を打つこともできる。そんな悲しくも打算的な推測の元に、ボニーはアンを引き連れてクライドと『失われた風景』を結成した。そうしてパーティーとして活動する中で何かしら、クライドを認める事情があり彼を『失われた風景』のリーダーにすると決断したのだろう。


「実際、一緒にいたら確かにクライド様はプライドが高く周囲にも威圧的だった。でも従順であることをアピールすれば酷いことはしないし、私やアンの事情にも理解を示してくれました。だから私は、クライド様を素晴らしい方だと思っています。……あなた方がクライド様をどう思っているかは知りませんが、そんなことは私に関係ありません。例え周囲に聖人と持て囃される人でも私に害を為す相手なら、その人は私にとって悪人です。逆にどんな悪者でも私に良くして、大切にしてくださるなら私はその人を『いい人』だと思います。だからクライド様は、私とアンにとってこれ以上ないほど素晴らしい方で私たち『失われた風景』のリーダーにふさわしい方なのです」


きっぱり告げると、ボニーは私の目を真っ直ぐに見据える。その目は数々の窮地を乗り越えてきた心の強さが、確かに宿っていた。その迫力に私は怯み縮こまってしまう。




 彼女を、子どもだと思っていた。


 ネクロマンサーという職業なら、特別な待遇を受けていると思っていた。弱い立場だと、守られる方の立場だと勝手に勘違いしていた。でも実際は違った。ボニーは立派な冒険者の一人であり、彼女なりの思惑と信念があってクライドを選んだ。ただなし崩し的にパーティーを組んだのではなく、クライドの悪い部分も含めて「仲間」になると決意したのだ。そこにはただ同じ家で生まれた、というだけの私とクライド以上に大きな信頼関係があるように見えて……圧倒されている私を、ボニーはただ無表情でじっと見つめている。


「あなたがネクロマンサーを見下すような人間じゃないということはわかりました。ですがもしあなたが私たちのパーティー、『失われた風景』に入るのならクライド様のことを大切になさると約束してください。彼はもう私にとってパーティーのリーダーであり、家族のようなものなのですから」


ボニーはそれだけ言うとぺこりと頭を下げ、私の前からさっさと立ち去っていく。


 彼女は今からタリスマン・ケーキをもらいに行くのだろう。その背中を見送りながら私は、ボニーに言われたことを反芻する。


「クライド様は素晴らしい方です」


「あなた方がクライド様をどう思っているかは知りませんが、そんなことは私に関係ありません」


「もしあなたが私たちのパーティー、『失われた風景』に入るのならクライド様のことを大切になさると約束してください。彼はもう私にとってパーティーのリーダーであり、家族のようなものなのですから」




 ……そのうちの「家族」、という単語に私の胸が痛む。




 クライドの本当の家族である私より、ボニーの方がよほど「家族」としてクライドを信頼している。クライドもまたそんなボニーを、そしてアンを信用しているだろう。


 ……私はどうだろうか。『方舟に曳かれて』の一員だった時から、また『失われた風景』に誘われてから。冒険者としても一人の人間としても、クライドはどれほど私のことを信用しているのだろうか。私の剣士としての腕も、冒険者としての矜持もそこまで必要とされていない。ただ、実の妹だからなんとなく私を誘ったのではないか。私という人間は、その程度の価値しかないのではないだろうか。そこまで思い至って、私は俯く。


 人間の価値は、相手によって決まる。考えてみれば当たり前のそれは、ボニーも先ほど言及したばかりだ。……クライドを突き放した私は、どうなのだろう。兄を見捨てた卑怯者、才能ある者についていかなかった愚か者。そんな存在になっているんじゃないかと思うと私はただ、地面を見つめて暗い穴の中に閉じこもっていくような気持ちになることしかできなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ