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チートな兄を追放しました~パーティー≠ファミリー~  作者: ミント


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6/21

新しいパーティー

 こうして私たち『方舟に曳かれて』はクライドを追放し、レオンと私二人だけのパーティーになってしまった。


 クライドを追放した代償は、やはり大きかった。

 今まで余裕で勝てていたモンスター相手にも敗北・撤退することが多くなりギルドから紹介される依頼もどんどんレベルの低いものになっていった。それだけじゃない、「あのクライドを追放するなんて」と後ろ指を指され陰口を叩かれることもあった。総合的に私たちはクライドを追放して、悪い方に変わってしまっただろう。




「大丈夫か? イヴ」


 疲れたような表情で尋ねるレオンに、私はなんとか頷いてみせる。彼だって苦労しているのだ、私が弱気になってはいけない。とはいえ長らく苦楽をともにしたパーティーだ、私の胸中などお見通しだろう……その事実に、私はぐっと奥歯を噛み締める。


 レオンは良く言えば責任感が強く、悪く言えば一人でなんでも抱え込んでしまうタイプだ。優秀すぎるほど優秀だったクライドを冷静に使いこなすことができたのは、レオンの統率力が大きいだろう。だからこそ、クライドを追放した現在の状況もそこに至るまでの経緯も苦い思いをしてきたはずだ。妹である、というだけで全面的にクライドを信用しその責任を押しつけていた私は、申し訳なさを感じてしまう。


「ごめんね、レオン」

「……なんでイヴが謝るんだよ」


 吐き捨てるようなレオンの言葉に、私は押し黙る。しばらくの間、重苦しい沈黙が流れ私は息が詰まりそうになった。


「……とりあえず、レベルの低い依頼から徐々にこなしていこう。ちょうど、マンドラゴラ採取の依頼を持ってきたんだ。本数はお互いに一本ずつ。必要な道具も全部揃えてきたから、二手に分かれてあとで合流しよう」


 淀んだ空気を断ち切るように、レオンがそう言って私に地図を渡す。こういう時、折れてくれるのはいつもレオンの方だ。礼を述べつつ、やっぱりレオンに頼り切りの自分に不甲斐なさを感じる。


「今は簡単な仕事から、淡々とこなしていこう。辛いなら無理せず休業してもいいし、それぞれ修行をしてもいい。だから、落ち着こう」


 言い聞かせるようなレオンの言葉は、誰に向かっているのだろう。私か、それともレオン本人なのか。わからないまま私は曖昧に頷き、マンドラゴラ採取の準備を始めるのだった。




 マンドラゴラは人のような形の根をした不気味な植物だ。

 魔法薬の材料として重宝されるが毒性が強く、直接手で触れることはできない。さらに地面から引き抜く際、聞く者を死に至らしめる凄まじい悲鳴を上げるのでその採集は冒険者たちへの依頼となることが多い。今回もそのパターンで、私はマンドラゴラが生えていると噂される森を俯きがちに歩いていた。


 叫び声を聞くと死ぬ、という特性上マンドラゴラ採取は人目のない場所で行われることとなる。日の差さない陰気な森の中をしばらく歩くと、やがてひっそりと咲くマンドラゴラの葉を見つけた。

 ロープを根元にしっかり結びつけると、私はその先端を持ってマンドラゴラから離れる。これぐらい離れたら大丈夫かな、というぐらいの所まで歩いたその時。音も風もないが、私は空気が変わったのを感じた。


 何か来る……!


 冒険者としての勘が、私に警鐘を鳴らす。

 咄嗟に近くの木々に身を隠し、耳を澄ますとどしん、どしんと重たい足音が聞こえてきた。私は腰に差した剣に手をかけながら、息を殺す。


 現れたのは一つ目の醜い巨人、サイクロプスだった。


 サイクロプスは怪力だが単眼ゆえに死角が多く、討伐難易度はそこまで高くないとされている。けれど単純な腕力・魔力の低い私が相手をするには、十分すぎるほどの強敵だ。怪我などして動けなくなったら、命に関わることになるかもしれない……ここはやり過ごすしかない。様子を見てサイクロプスが立ち去るのを待とう、と結論付けた次の瞬間。




「アン! 今だ!」




 引き締まった声と共に、サイクロプスの目へ矢が突き刺さった。一つしかない目玉を潰されたサイクロプスは、凄まじい叫び声を上げながら暴れ始める。


 身を隠していた私も足を取られそうになるほどの凄まじい地響き、しかしそれは地面から這い上がってきた黒い物体によって阻止された。あれは何だろう、と目を凝らした私はぎょっとする。サイクロプスの動きを封じていたのは、大勢の亡者の腕だったのだ。


 マンドラゴラは罪人の体液から生まれると言われているので、その自生地に亡者がいたこと自体はおかしくない。しかし半透明の姿でぶつぶつ、何か呟きながらサイクロプスの体に絡みつくその姿はおぞましく私は「ひっ」と悲鳴を上げそうになる。そんな私を食い止めるように光の輪が現れたかと思うと、サイクロプスの首がスパッと切り落とされた。その一撃でサイクロプスは呆気なく命を落とし、その胴体が力なく地面に倒れこむ。


「やりましたね! クライド様!」


 その場に似つかわしくない、可愛らしく鈴を転がすような少女の声。その口ぶりからしてたった今、サイクロプスを倒すのに貢献した冒険者の一人なのだろう。しかし私はクライドの名前を聞いて、身を隠した状態のままびくりと肩を震わせる。


「イヴ、いるんだろう? もうサイクロプスはいないから、出ておいで」


 聞き慣れた声に、私は弾かれたように立ち上がる。……身内の声というものは、どんな状況でも耳に入ってきてしまうものだ。サイクロプスの登場、からの見事な連係プレーに足がすくんでいたはずの私は先ほどまで金縛りにあったように、その場から動けない状態のはずだった。けれどクライドの声を聞いた途端にそれが嘘のように滑らかに動き、気がつけばクライドとその仲間がいる場所へと進み出ている。


「久しぶりだな、イヴ。でも、大丈夫か? なんだか苦労してるみたいだが」


 悪げなく、あっけらかんとそう口にするクライドに「誰のせいで」と言い返したいのをぐっと堪える。クライドから見たら私は兄を裏切った妹なのだ、そんな私のことを快く思っていなくても不思議はないだろう。そう考えながら私はクライドの隣にいる美少女二人に目を向ける。どうやら彼女たちが、今のクライドの仲間のようだ。


 ……美少女。そう、少女だ。

 この世界での成人は十五歳であり、冒険者も基本的に成人を迎えてからパーティーを結成・ギルドへと登録されるのが通常だ。だが両親の同意が得られる時、あるいは孤児で生活に困窮している場合であれば特別に十歳から冒険者になることが認められる。最もそれは特例中の特例で「子どもを危険な場所で働かせるべきではない」というのがこの世界の一般常識だ。けれどクライドの隣にいる少女たちはどう見ても、十代前半ぐらいの幼い見た目をしている。加えて、その美しい容姿は極めて異様だった。


 一人は、真っ白な肌に蒼い瞳が映えるきりりとした顔つきの美少女。その銀髪の合間から見える尖った耳は、エルフの証だ。しかし純正のエルフに見られるもう一つの特徴、長い尻尾は見られない。彼女は人間とエルフの間に生まれたハーフエルフなのだろう。ハーフエルフはかつて人間がエルフを一方的に蹂躙したため生まれた存在であり、エルフでも人間でも偏見の対象になる。その不遇の歴史は根深く、今なお奴隷のような扱いをされることもあると言われる種族だ。


 もう一人は真っ黒な髪をツインテールにした、垂れ目の美少女。魔法円を描いたその独特の衣装は、ネクロマンサー独自のものだ。ネクロマンサーは死霊を呼び出してその知識や力を借りる存在だが、「死者を冒涜している」としてやはりハーフエルフと同様に長らく被差別対象とされてきた職業だ。加えて他人、それも死人を操って戦うその戦闘方法を忌み嫌う人は多く、心ない人はネクロマンサーを「臆病な卑怯者」と罵る。そうでなくても死霊を召喚し、戦わせるその姿は傍から見るとかなり不気味で嫌がられるものだ。


 ハーフエルフとネクロマンサー。いずれも人々から忌み嫌われる存在であり、パーティー内で謂われのない中傷や暴力を受けたりギルドに登録するのを断られたりなどの不遇な扱いを受け続けてきた存在だ。現代はその状況を打開すべく「ギルドに登録するのに種族や職業で差別をしてはいけない」と法律で明記、さらに所属するパーティーの斡旋やネクロマンサーやハーフエルフを雇い入れたパーティーへの助成金などあらゆる是正措置が行われるようになっている。




 しかし———近年ではその優遇措置が「逆差別になっているのではないか?」という指摘も上がっている。




 特に被差別対象でない冒険者でも、パーティーが組めず単独で依頼をこなさなければならない人は大勢いる。資金繰りが上手くいかず解散に追い込まれるパーティーだって少なくない。そんな中でネクロマンサーやハーフエルフはただ「その種族・職業である」というだけでギルドから優遇措置を受けられるのでまず冒険者稼業で困ることはない。それゆえネクロマンサーやハーフエルフは今や「特権階級」と揶揄されており、彼らを雇い入れたパーティーは陰口を叩かれる代わりにギルドから好条件を受けることができると言われている。


 いくら追放されたとはいえ、そんな二人を連れてパーティーを作ったのならクライドは相当良い条件をギルドからもらっているだろう。そもそもクライドをパーティーから追放することになったのは、私たちのパーティーがギルドにブラック認定されたからだ。なのに、なぜクライドがそんな二人とパーティーを組めたのだろう。怪訝に思う私を前に、クライドは軽い調子で声をかける。


「イヴ。お前さえ良ければ俺たちのパーティー、『失われた風景』に入らないか?」


「……クライドのパーティーに?」


「そうだ。今、お前はレオンと二人だけのパーティーになって簡単な依頼しかこなせずにいるだろう? 俺のパーティーに入れば剣士として十分に力を発揮できるし、そうなれば貰える報酬も多くなる。それに、パーティーは家族だからさ。俺は、やっぱりお前がレオンと一緒にこのままでいるのは心配だから。レオンには悪いけれど、こっちに入るのも検討してみたらどうかな」


 ……色々と耳障りのいい言葉を並べているが、要するにクライドは「レオンを見捨てて自分たちのところに来い」と言っているのだ。その言葉に私は俯き、ぎゅっと拳を握りしめる。


 クライドからしたらレオンは、幼馴染であるにも関わらず自分を一方的に追放した卑劣で意地の悪い人間という扱いなのだろう。だけどレオンもクライドも本当なら『方舟に曳かれて』の大切な仲間だったし、血の繋がりがなくともお互いに信頼しあえる大切な家族のような存在だったはずだ。クライドは「それを踏みにじられた」と思っているのかもしれないが、今の私にとってレオンはまだパーティーの一員であり家族のようなものだ。それを貶されるような発言をされると、ふつふつと怒りが湧いてくる。




 だが――そんなクライドに反発する言葉は出てこない。




 実際、クライドがいなくなってパーティーとしての実力が落ちていることは事実なのだ。一応「剣士」として活動している私は若いうちにできるだけ力をつけ、大金を稼いだりより強い武器や防具を手にしたりする方が冒険者として長く活動できることに繋がる。何より、既にブラック入りしてしまった『方舟に曳かれて』はギルドでの評判が悪くパーティーとしてあまり活躍できていない。クライドの指摘は自惚れているものの、全て事実でいつも通りの「正論」なのだ。


 私はちらり、とクライドの隣にいる美少女二人の様子を窺う。今の話の流れを聞いて、あるいはクライドとパーティーとして活動しているうちに私とクライドが兄妹であることやパーティーを追放したことなどは理解しているだろう。そんな二人が私をどう思っているのか、と目線をやれば二人は特に気にした様子も無く穏やかに言葉を紡ぐ。


「私はクライド様が言うことなら、反対しません」

「私も、クライド様の言うことなら大賛成です!」


 私の意図を汲み取ったような発言に、心の何処かでほっとしつつ「同じパーティーのメンバーに『様』をつけて呼ぶのはおかしくないだろうか?」と疑問が沸く。クライドが自分からそう呼ぶよう口にしているとは考えづらい……というか考えたくないので、おそらく彼女たちが自主的にそう呼んでいるのだろう。だけど私はそこに、なんとなく歪な関係性を感じてしまう。


「二人もこう言っているし、イヴもどうだ? レオンと二人より俺たちと、一緒の方が安心だろう?」

 クライドのどこか見下すような物言いに反感を覚えるが、私は口をつぐむ。




 私とレオンの二人だけではいずれ、『方舟に曳かれて』のパーティーは立ち行かなくなるだろう。


 そうなるとまた別のパーティーに入るか、フリーの冒険者からスタートしならなければならない。しかし、それができるのは他のパーティーのメンバーが羨むほど珍しい力の持ち主か、たった一人でも魔物と渡り合えるほどの実力者だけだ。私もレオンも、それほどの実力があるとは言えないだろう。


 一方でクライドは既にパーティーを組んでいるし、クライドのスキルアップや援護があればまた私は元のように存分に力を発揮することができる。ネクロマンサーとハーフエルフがいるので周囲から差別的な目で見られることはあるだろうが、それによりギルドの支援を十分に受けることができる。当分、食い扶持には困らないだろうし今より良い武器を手にすることもできるかもしれない。私にとってメリットしかないその提案は、クライドなりに良かれと思って出したもののはずだ。だったら、クライドの言う通りにした方がいい。




 ……そう、頭ではわかっているはずなのに私は言葉を返すことができない。何かが心に引っかかったまま、飲み込むものを飲み込めないまま、私は頭を振る。




「ごめん、ちょっと考えさせて」


 力なく、呟くような私の答えにクライドは一瞬眉をひそめて明らかに不快そうな表情を示した。けれどすぐ、私によく似た顔を明るい笑みで埋め尽くして寂しそうに言う。


「そう、か。なら、待ってるからな」


 ひらひらと、軽く手を振ってみせるクライドに私は頷いてみせる。


 ここで、「待っている」いう回答を出してくれるのは第三者から見ると破格の条件となるのだろう。現にクライドの隣に立つ美少女たちは訝しげに私の方を見つめている。彼女にとって私は「実の兄をパーティーから追い出した挙句、その兄に差し伸べてもらった手を振り払った馬鹿な女」。冷めた目で見られるのも当然のことだろう。その視線から逃れるように、私はクライドに向かって口を開く。


「それじゃあ、その、私は今からマンドラゴラを採るから。その、またね」


 半ば強引にクライドたちを遠ざけようとする、私の言葉。クライドは特に気にせず了解してくれたものの、美少女たちの目には明らかに困惑や侮蔑と取れる色が宿っている。……クライド「様」を無下にする私が許せないのかもしいれない。そう思いながら私は彼女たちに背を向けることしかできなかった。


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