一か月後
そうして一ヶ月が経ち、クライドを追放するかどうか決める前の晩。
「……クライド、変わってないよね」
私はレオンの表情に目を配りながら、おそるおそるそう口にする。
本当は否定してほしい。やっぱりクライドを追放するのはやめにする。そう言ってほしかったけれど、レオンの答えは現実を容赦なく突きつけるものだった。
「そうだな。俺もイヴもかなり態度を改めるように言ったのに、アイツは本気で捉えなかった。あの調子だと、これからもずっと変わらないだろう。アイツの追放は決定だ。明日、本人に通告する」
レオンの言葉は私の胸に、ずしりと重くのしかかる。
覚悟はしていたものの、断言されるとやはり暗澹とした気持ちになった。『方舟に曳かれて』の一員として、クライドは前衛から後衛まで幅広くサポートをしてくれた。Aランクという高い評価をされていたのも、その戦績のほとんどもクライドの存在があってこそだ。戦いだけでなく普段の生活でも、クライドは私を妹として可愛がってくれたしパーティーのメンバーとしても私を尊重してくれたと思う。
けれど――その一方で「やっぱりか」という諦めもあった。
あれからいくら注意しても、いくら苦言を呈してもクライドの行動は全く改善されなかった。
「俺は相手の為を思って言っている」
「同じ冒険者として必要なことを言っているだけだ」
「本人がきちんと考えて行動しないのが悪い」
クライドはそう言って自分が正しいと信じ込み、周囲を傷つけていることにちっとも気がついていない。いくら真実でも伝え方がある、自分が当たり前のようにできることを他人もできると思ってはいけない。私は色々と例を挙げて、一生懸命にクライドを説得した。だけどそのどれもがクライドに届くことはなく――結局、クライドは自分が正しいと信じて疑わなかった。
いや……クライドだけじゃない。
今まで私はクライドの妹であるというだけで、彼のことを盲目的に信じ切ってしまっていた。クライドの言うことはどれも正論だから、クライドは実力も実績もあるから。それだけで、クライドの言うことが絶対に正しいと判断してしまっていた。冷静に物事を見れるレオンだけが、そんな私たち兄妹の歪んだ人格を見抜いていたのだ。そして――それが矯正不可能になる前に、なんとかしようと動いてくれたのだ。
同時に――私も剣士としての腕が未熟であることに気がついた。私だって兄に頼り切りでは、剣士としての腕が未熟なままだっただろう。剣士は捨て駒ではなく、あくまで戦って生きるのが仕事だ。クライドの魔法に頼り切りだった私はいつのまにか、剣士としての質を落としていたのだ。
このままでは私もクライドも、そして『方舟に曳かれて』も駄目になる。「パーティーは家族」という言葉に縛られ、いつまでも現状を放置していたらどうしようもならなくなる。
……そうわかっているけれど、どうしても私が実の兄であるクライドを追放するという決断を下すのには躊躇いがあった。
「もしイヴがクライドを追放しないなら今度はイヴ、お前を追放する」
レオンの唐突な言葉に、私は思わず顔を上げる。
私を見つめるレオンの眼差しは優しく、温かいものだ。けれどその視線の奥に一抹の寂しさが噛みしめられているのが見えて、私は何も言えなくなる。
「そうすればお前は『あの時はレオンに逆らえなかった』と言って、クライドとパーティーを組めばいい。確かにクライドはもう同じパーティーとしてはやっていけないぐらい問題があるけれど、根がいい奴なのはわかってるしお前にとっては実の兄妹ってこともわかってるから。だからイヴは、心配しなくていいよ」
「そ、んな」
それじゃあレオンが一人ぼっちになってしまうじゃない。
そう言おうとした私の口は空回りし、乾いた唇から声にならずに零れていく。だがそんな私の様子を見てもレオンはなお、冷静な態度を崩そうとしない。……彼は私と違って、何もかも覚悟しているのだ。
いつまでも悩み、決断できず中途半端なまま戸惑っているのは私だけ。それを自覚し、改めて自分がいつも周りに頼ってばかりであることを実感した私は――ただ、レオンに謝ることしかできなかった。




