達成
デュラハン討伐依頼を達成した私たちは翌朝、村人たちから涙で出迎えられた。
「これで村が救われました!」
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
口々に感謝する人々は皆、私たちにギルドから支払われる分とは別の謝礼を差し出してくる。それは畑で取れた野菜や手作りの菓子といった、本当に感謝の気持ちを示すだけの品物ばかりだ。だけど、私もレオンも一つ一つ手渡されるそれを「ありがとうございます」と何度も口にしながら受け取っていく。
「あの、けんしさん」
少し舌足らずな声に呼ばれ、振り向くと幼い少年と少女がいた。少年の方は、少女より年上なのだろうか。頭一つ分ぐらい、少女より上のその顔は一生懸命に言葉を捻りだそうと悩んでいる様子が見られる。どうしたんだろう、と思い根気強く次の言葉を待っていると妹と思しき少女が「これ」と私に差し出してきた。
「けんしさん、ありがとうございます。おにいちゃんと、いっしょにつくりました」
そう言って、私へと渡されたのは――野に咲く花で作った、小さな花束だった。不格好だが落ち着いた色合いでまとめられ、真っ白な紙で包まれたそれにはピンク色のリボンが結ばれている。その先端には二人分のイニシャルが書かれている、おそらく目の前にいる兄妹のものだろう。
……私もよくこんな花束を作ったものだ。
だけど、そこにクライドがいたことはない。小さい頃から魔法に秀でていたクライドは、魔導具の方をよく作っていたのだ。だから私がこんな風に、クライドと一緒に何かを作ったことなんて無かった。だけど目の前にいる幼い兄妹は、二人で私のために花束を作ってくれた。デュラハンから村を守った私とレオンに、精一杯の感謝を示してくれたのだ。私が手にできなかったそれを、花束という形で渡してくれたのだ。
「ありがとう。これからも、お兄ちゃんと家族一緒に、仲良く暮らしてね」
私にはできなかったことだから。そんな本音を、そっと飲み込む。
「パーティーは家族」だ。だけど、家族はパーティーじゃない。
私とクライドは、実の兄妹だけどパーティーとしての絆を作ることはできなかった。本当ならただの幼馴染であるレオンの方が、よほど強固なそれを作り出してくれたのだ。そんなレオンと、私は目の前にいる本物の「兄妹」を守ることができた。『方舟に曳かれて』が確かに冒険者のパーティーとして、魔物の脅威に苦しむ誰かを救ったのだ。
「良かったな、イヴ」
レオンの言葉に私は深く頷き――村の人々にたくさん感謝されながら、その喜びを噛み締めるのだった。
「デュラハン討伐、達成しました」
思わず、誇らしげにそう報告してしまう私とレオンにギルド職員の女性は信じられない、といった様子で目を見開く。
デュラハンを退治したことはカラスを使って、先にギルドへ連絡したはずだ。
しかし実際に私たちが帰ってくるまで半信半疑でいたらしい。あの時、私たちのパーティーのランクが落ちるかもしれないことを『失われた風景』に漏らした男の職員と関りはないようだが事情は聞いているのだろう。慌てて確認をし、報酬を計算する彼はその前に「おめでとうございます」と口にしてくれた。
「今回の依頼達成で、あなた方『方舟に曳かれて』のパーティーランクの評価が見直されました。彼……あなた方パーティーの情報を口外した彼にも、厳しい処分が下されるそうです。ギルド職員の一人として秘匿すべきであるパーティーの情報漏洩があったこと、それによってトラブルが生じたこと。どちらも深く、ここでお詫びいたします。そして改めて、デュラハン討伐お疲れさまでした」
深々と頭を下げるギルド職員の女性に、レオンは「あなたが謝る必要はないですよ」と柔らかく答える。
本来、ギルド職員が仕事の上で知りえた情報を外部に漏らすことはかなりの重罪だ。パーティーの情報を別のパーティー、まして元は同じメンバーだった冒険者のいるパーティーに流すことはギルド全体の信用問題にも関わる。ここで私たちが騒いで、ギルドに何かしらの補償を求めることも可能といえば可能だろう。だが、レオンは今回のことをそこまで大事にしたくないようだ。そして、それは私も同じである。
「とりあえず、私たちはもうクライドに関わってくることはないと思うので。次からはなるべく気を付けるようにしてください」
「はい……ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるギルド職員に、私はかつての自分を思い起こす。
『パーティーは家族』『お互いに信頼し合うべき』。
そんな言葉に囚われていたが、現実はどうだろう。家族であるはずのクライドは人の痛みがわからず、結果的に『方舟に曳かれて』は他のパーティーに嫌われ降格処分の危機に陥った。私たちと同じ過ちを犯した『太陽の天使』のエドワードさは、そんなクライドを追放した私たちを間違っていないと言ってくれた。
だが、本当のところはまだわからない。現にクライドを追放して『方舟に曳かれて』のはランクダウンの危機に陥ったし、今のクライドは『失われた風景』で成功を収めている。果たして私たちの判断が本当に正しかったかどうか、間違いを正したつもりだが本当にこれで良いのか。はっきり言って、私はまだ迷っている。そして、目の前の彼女も迷っているのだろう。それでも私たちは、前に進んでいくしかない。冒険者として、ギルド職員として。経緯や手段はどうあれ、私たちには「人々に仇為す魔物を倒し、か弱い一般人の生活を守る」という共通の目的があるのだ、これからどうなるかわからなくともその目的に向かって走り続けるしかないのだろう。
「あなたは悪くありませんから。それよりこれから先、頑張ってください」
当たり障りのないその言葉は、ギルド職員である彼女だけに向けたものではない。私のパーティーであり、『家族』であるレオン。そして私自身に向けての鼓舞――それでも二人は私の言葉を受け取り、デュラハン討伐の報酬が支払われるまで私たちは共に戦った同士のような気分で佇んでいるのだった。
次回、最終回




