パーティー≠ファミリー
私たちがデュラハンを倒したところで、この世界の何かが大きく変わるわけではない。
他にもたくさん魔物がいるし、別個体のデュラハンだって存在する。当然、それと戦う冒険者の仕事も決してなくならないのが現実だ。
今日も私は、ギルドに来て新しい依頼を探している。……なんだかんだ言って、デュラハン討伐により私たち『方舟に曳かれて』のパーティーとしての地位は向上した。私自身も剣士としての実力に自信がついたので、結果的に大きく成長できたような気がする……そう考えていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「イヴ……本当にやったんだな」
聞き慣れたはずのその声は、なぜだか遠くから聞こえたように感じて――私はなんとなくうんざりしたような気持ちになりながらもゆっくり振り返る。そこには私の予想通り、軽い笑みを携えたクライドがいた。
アンとボニーはクライドの後ろにそびえ立つようにひっそりと、こちらに目を向けている。アンは人形のように可愛らしいが無感情な笑顔、ボニーは無表情だが何か言いたげに私の方をじっと見つめている。そんな二人のことなど気にも留めず、クライドは「すごいぞ」と口を開く。
「正直、お前が『デュラハン討伐の依頼を受ける』って言いだした時は無茶なことを、って思ってたんだ。でもお前は短期間の間に成長して、見事にそれを成し遂げてみせた。兄として、誇らしいよ。偉いぞ、イヴ」
いつも通り、クライドが私の頭を撫でようとするが――私は会釈することによってそれを不自然なく躱し、クライドに告げる。
「ありがとう。でも私はこれからも、『方舟に曳かれて』で頑張るから。クライドも『失われた風景』で頑張って」
私はもう、クライドのパーティーじゃない。
私の所属するパーティーは『方舟に曳かれて』で、クライドのいる場所ではないのだ。血の繋がりを断ち切ることはできないが、パーティーとしての絆は確かに違えた。その事実はもう否定できない、覆すこともできない。誰が何と言おうと、私とクライドはパーティーではなくなった。もう、以前のような「家族」ではないのだ。
できるだけ他人行儀に、丁寧な角度で頭を下げるとクライドは困惑したように私の名前を呼ぶ。だけど、私はそれを気にせず踵を返してクライドの元を立ち去った。
私は、私の道を行く。
そこにクライドはもういない、これから関わることももうない。そんな現実をじっくりと噛み締め――私は胸を張り、かつてのパーティーメンバーであり「家族」だったクライドに背を向けるのだった。
「次の依頼、何にする?」
ギルド内で、冒険者向けクエストの依頼票を見るレオンに私はそう持ちかける。
『方舟に曳かれて』のパーティーランクが下がらなかったのはいいが、だからといって何もしないわけにはいかない。引き続きパーティーを維持するためには冒険者稼業を続けなければならないし、その小さな積み重ねが「人々の平和を守る」という最大の目標に繋がっているのだ。だから私たちは、立ち止まってなどいられない。
次はどれがいいか、どれなら今の私たちに達成できるか……と考えていると、レオンが私に話しかけてくる。
「イヴ。最近、少し明るくなったな」
唐突なその言葉に、私は目を丸くする。
クライドを追放してから『方舟に曳かれて』存続の危機や『失われた風景』への勧誘、加えてデュラハン討伐など気疲れする部分が多かったことは確かだ。だけど第三者に指摘されるほど、あからさまな変化が自分にあっただろうか。そんなことを思い悩む私にレオンは「わかるさ」と照れくさそうに笑ってみせる。
「同じ『方舟に曳かれて』のメンバーで、いつも近くにいるだろ? パーティーは家族、なんだから見ていたらわかるに決まってるよ」
その言葉に私はどくんと鼓動が高鳴るのを感じる。
『パーティーは家族』。それはこの世界において時に格言のように、時に呪文のように口にされる言葉だ。
人類に害を為す闇の世界の住人・魔物。姿や知能に差はあれど、彼らは常に人々の生活を脅かそうと暗躍している。そんな彼らに立ち向かうべく、魔法や武術などを身に着けて戦う人々は「冒険者」という名で総括される。
私とクライド、レオンもそうだった。だけどそれはいつの間にか歪み、誰かを傷つけ、ただぬるま湯に浸かるような日々を送るだけのグループになっていた。『パーティーは家族』なのに、その「家族」がどうしようもできないほど壊れた集団になっていたのだ。そこからクライドを追放した今、『方舟に曳かれて』はたった二人のパーティーになってしまったが……それでもレオンはこうして、私を「家族」として扱ってくれる。実の兄妹であるクライド以上に私を思いやり、些細な変化を見抜き、そうして労わってくれるのだ。
「ありがとうレオン」
あなたが私のパーティーで良かった、私の本当の「家族」になってくれて良かった。そんな感謝を込めて私はレオンに向かってはにかみ――それから『方舟に曳かれて』の次の依頼についてまた考えるのだった。
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