パーティーは家族
『パーティーは家族』。それはこの世界において時に格言のように、時に呪文のように口にされる言葉だ。
人類に害を為す闇の世界の住人・魔物。姿や知能に差はあれど、彼らは常に人々の生活を脅かそうと暗躍している。そんな彼らに立ち向かうべく、魔法や武術などを身に着けて戦う人々は「冒険者」という名で総括される。
冒険者たちはそれぞれ仲間を見つけて、パーティーを組む。お互いに命を預け、戦いに身を投じる中で生まれた絆はかけがえのないものだ。だからパーティーのメンバーはみんな、互いを心の底から信頼し何もかもを共有できる家族のような間柄でなければならない。
それゆえ、『パーティーは家族』。……私やクライドだって、それはきちんと理解していると思っていた。その上で、冒険者として活動し続けていると思っていたはずだった。
――それを打ち砕かれたのは、一ヶ月前のことだった。
「クライドをこのパーティーから追放することになるかもしれない」
依頼を終えて、冒険者たちのために格安で提供された宿のロビー。そこでいつも身に纏っている、鋼の鎧を脱いだ彼は軽装で私の前に立っている。しかし鎧以上に重いものを背負っているようで……私は震える口で、やっと言葉を紡ぐ。
「……どういうこと」
「言った通りだ。一ヶ月後、クライドを俺たちのパーティーから追放する。本人にももう宣告済みだ。『冗談だろ?』なんて言って本気にしていないみたいだがな。けれどイヴはアイツの、血の繋がった妹だから。一応、伝えておこうと思ったんだ」
レオンの言葉には、苦々しいものが滲み出ている。
普段の彼は冷静沈着、穏やかでどんな時も常に落ち着き払って行動できる優秀な勇者だ。私もクライドも、そんな彼を慕って日々『方舟に曳かれて』の一員として戦いを繰り広げていたのだけれど。
「そんな、どうして。クライドはパーティー全体のスキル底上げをしている、私たち『方舟に曳かれて』の要じゃない。私たちが戦っている間もずっと付与術を使ってパーティー全体の戦闘力を上げてるし、防御魔法を使って敵の攻撃が届かないようにしている。それに、『パーティーは家族』って……」
「――俺たちのパーティー、ブラックリスト入りが決まったんだ」
反論する私を遮り、レオンの口から飛び出たのはそんな言葉だった。
そんな、嘘でしょ。そう口にしようとした私の唇は空回りし、言葉を放つことができない。せめて、と縋るような目をレオンに向けてみるが返ってくるのは重苦しい眼差しだけだ。それゆえに彼の口から告げられた事実は鉛のように重く、私の上にのしかかる。
能力はあるが、メンバーの人格に問題がある。メンバー同士の中が悪く、常にギスギスした空気が流れている。そういった表沙汰にできない問題のあるパーティーはギルドによって、ブラック認定が為される。
一度、ブラックリスト入りしたパーティーは表立って「ブラック」と宣伝されるわけではないがギルドによる「調整」が為され他のバーティーと組んだ依頼が来なくなったり、新人が入ってこなくなったりするなどの不都合が生じるようになるのだ。
とはいえパーティーは本来、仲の良い冒険者同士が集まってできるものだ。それがブラック入りするほどの軋轢を生むことは少なく、実際ブラック入りしたと言われているパーティーの名前も片手で数えられる程度と言われている。
だから私たち、『方舟に曳かれて』がそれに該当するなんて――悪い意味で「伝説」と言える、ブラックリスト入りパーティーの汚名を着せられる理由なんて想像もつかなかった。
「俺たちと組んだパーティーから、苦情がきてるんだ。あそこの魔法使い……クライドにさんざん罵倒された、女性メンバーがしつこく口説かれて困った、って。あまりの言われように冒険者を辞めた人間も多くて、今までもギルドから何度か指導が入ってたんだ」
言いづらそうに、ときどき私の顔色を窺いながらそう話すレオン。その姿を見れば話の内容が全て真実であり、私たちに気を遣って今までずっと黙っていたであろうことが察せられる。
ギルドによる苦情はパーティーのリーダー、つまりレオンが処理しなければならなくなる。レオンはその度にギルドへ頭を下げ、クライドにも注意したのだろう。だけど――それがブラック認定を下されるほど問題視されるだなんて、思ってもみなかった。信じられないような気持を抱えながら、私は今までのクライドの行動を思い返してみる。
確かに、クライドは優秀であるがゆえ他人にも厳しい。
他のパーティーのメンバーに対しても「こうするべきだ」「こうした方がいい」と口にすることもあるがそれらは全て的を射た内容で、正論を口にしている。女性に対しても私という身近な異性がいるせいか、気軽に声をかけるし紳士的な態度で接することもあった。でもそれが、第三者に問題視されるほどひどいものだとは思えない。
何かの間違いではないだろうか? と疑問を抱える私を見透かすようにレオンが口を開く。
「信じられないのはわかるが、これはもうギルドで決まったことだし俺が覆せることでもない。だけど、イヴはちゃんと知っておいてほしい。知った上で、これからのことを考えてほしいんだ」
俺は本気で、クライドをパーティーから追放することを考えているから。
きっぱりとそう告げたレオンに、私は目を見開く。レオンはそんな私から気まずそうに目を反らし、言葉を紡いだ。
「明日、ユニコーンの討伐で他パーティーとやる依頼があるだろう? その時にクライドの様子を、注意して見ていてほしい」
そうすれば、何が悪いかわかるはずだ。
それだけ言うとレオンは踵を返す。
宿にいる冒険者たちはそれぞれ、明日の依頼に向けてゆっくりと休んでいる最中なのだ。男性であるレオン・クライドと違い、私は女性専用の一人部屋へ戻らなければいけない。仕方なく、自分の部屋に戻った私はそのまま打ちひしがれたようにベッドへ寝転ぶ。けれど頭の中では、レオンに言われたことがぐるぐると駆け回り頭の中を駆け回り続けていた。
クライドは魔法使いとしても、そして冒険者としてもかなり優秀だ。使える魔法の種類が豊富で、魔力の量も底がない。加えて武術も堪能で、相手に合わせて戦術を変える頭脳も持ち合わせている。戦士や僧侶、詩人といった様々な職業の仕事を一人で行うことができるのだ。私たちパーティーが三人という比較的少ない人数でやっていけるのも、ブラック入りを宣告されたとはいえ表向きは「Aランクパーティー」という評価を受けているのも、クライドの尽力があってこそだろう。
そんなクライドを追放したら私たち『方舟に曳かれて』は良くてCランク、最悪Eランクまで落ちるだろう。そんなことはリーダーであるレオンが一番わかっているはずだ。それでもなおクライドを追放したい、と提案するのは。
「……それだけクライドがひどいってことなのかな」
私の呟きは暗闇に紛れ、そのまま溶けるように消えていった。




