チートな兄を追放しました
「クライド。今日限りでお前を、『方舟に曳かれて』から追放する」
苦々しげな表情でそう告げるのは、金色の髪に青い瞳を持った凛々しい青年。丈夫だが、軽く動きやすい鎧を身に纏った彼の職業は冒険者。私たち『方舟に曳かれて』のリーダーであり、ギルドでは「勇者レオン」として登録されている。そんなレオンを信じられないような目で見つめているのは、先ほど追放されたばかりの「魔法使い」クライドだった。
「ちょっと待てよ! 俺はそんなこと聞いてない! だいたい、なんで俺がパーティーから追放されるんだ!」
「一ヶ月前に言っただろう。『お前はパーティーの和を乱している、態度を改めないようならパーティーから追放する』と。この一ヶ月の間、俺もイヴもさんざん注意をしたがお前はそれを聞かなかっただろう? だからもう、追放するしかないんだ」
レオンにそう言われたクライドは、今度は縋るような目でイヴ——私の方を見つめる。
私とクライドは、血を分けた実の兄妹だ。お揃いの茶髪に緑色の瞳、しかし魔法使い専用の青いローブを纏ったクライドと違って私は剣士の恰好をしている。その私がクライドを追い出す決断をするなんてありえない、同じ環境で育ってきた私ならクライドがこのパーティーにとってどれだけ重要かわかっているはず。そう考えているのが、手に取るようにわかった。
だけど私はそんなクライドの目から逃れるように、そっと視線を逸らした。
「……ごめん、クライド」
呟くようにそう口にした私を見て、クライドは一度、憎々しげにレオンを睨みつける。
しかしそれでもう反論する気は失せたのか、「わかった」とだけ告げるとしぶしぶレオンに背を向けた。そのまま空間転移魔法を使い、クライドは一瞬で姿を消す。
レオンはクライドにとって幼馴染みでもある存在だ。本当はこんな風に追放、という形を取りたくなかっただろう。パーティーのために憎まれ役を買って出てくれた彼には頭が上がらない……そう思いながら私はレオンに話しかける。
「ごめんね、嫌な役目を押し付けちゃって」
「気にすることはない。これはリーダーである俺の役目だからな。それより、イヴはアイツについていかなくて本当にいいのか?」
憂いを帯びた表情のままレオンは、私にそう問いかける。
仲間思いの彼だ、兄妹である私がクライドと決別することになったのを心配してくれているのだろう。同郷の出身である彼は、私とクライドが二つ歳の離れた兄妹であることをとっくの昔に知っている。そうでなくとも同じ鈍色の髪に黒い瞳、そして性別を除けばよく似た顔つきである私たちを見ればすぐそうと察することができるはずだ。
けれど――クライドはあらゆる面で私をはるかに凌駕している。特に魔法使いとしての腕は桁違いで、魔法協会では「千年に一度の天才」とまで謳われているほどだ。チート、最強、生ける伝説。クライドを語る時はそんな、あらゆる賛辞がついてまわる。
一方、私は魔法を使うことはできるもののそこまで高レベルなことができるわけではない。魔法を学んだ者ならだいたいが使用できるであろう基礎的魔法を一通り習得している、というだけ。それでも身体強化魔法が得意だったので、このパーティーでは名目上「剣士」として活動していた。
そんな私たち兄妹のことをよく知っていたレオンはずっと冒険者稼業に就くことを夢見ていて、成長すると自然と「三人でパーティーを組もう」という話をするようになった。
「俺たち三人なら、きっとどんな相手でも倒せる」
「力を合わせて、最高のパーティーになろう」
希望に満ちあふれた目でそう口にしたレオンに、まだ経験の浅かった私とクライドは強く頷いた。
あの時の熱量は、嘘ではなかった。私もレオンも、そしてクライドも。みんなで力を合わせれば、何も怖いものはない。私たちはお互いを心の底から信頼し合える、確かな強い絆で結ばれていた。
だけど――私はそっと俯いて口を開く。
「……クライドをこのままにしておくよりはいいよ」
私の言葉にレオンは、沈黙で頷いた。




