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チートな兄を追放しました~パーティー≠ファミリー~  作者: ミント


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18/19

特訓

「なんだか、大変なことになったみたいだな」


 私の手紙にすぐ返信を寄越し、嫌がる素振りも見せず駆けつけてくれた相手――元『太陽の天使』所属のフリー剣士、エドワードさんに私は頭を下げる。




 今エドワードさんと私、レオンがいるのはゴブリンが出ると噂されている山道だ。エドワードさんはもともとゴブリン退治をするつもりでここに来たらしく、ゴブリンが出たらそのまま仕留めるつもりだそうだ。エドワードさんはそのまま模擬戦用の木製剣を私に渡すと、近くにある木の上に上りぶら下がる。


「デュラハンはどの個体も皆、精鋭揃いで全員戦闘力が高い。だが馬から引きずりおろせば、その戦闘力はかなり落ちる。俺もまだシルヴィアといた時に何度かデュラハンを相手にしたことがあるが、いずれも馬を仕留めてからだと上手くいった」


 だからヤツを倒すならまず、馬の方を仕留めるといい。そう言ってエドワードさんは枝に掴まり、私はそれを見上げる形となる。


「まずは、俺をここから引きずりおろしてみてほしい。俺は剣を持たないし反撃もしない。君の攻撃を避けたり、木にしがみつく以外は何もしないから、君たち二人はとにかく俺をデュラハンだと思ってここから落とすことだけを考えてくれ」


「い、いいんですか……?」




 エドワードさんの提案に私は戸惑いつつ、そう聞き返す。


 本物の剣でないとはいえ、「絶対に抵抗しない」と宣言をしている相手に一方的な攻撃を行うのは人道に反する行為だ。加えて私はレオンと二人、いくらエドワードさんがあの『太陽の天使』の一員だったとはいえそんなに不利な状況で戦いを挑んでいいものだろうか。レオンと二人、逡巡しているとエドワードさんそんな私たちを安心させるように、自分の胸を叩く。


「自分で言うのもなんだが俺は君たちより冒険者歴が長いし、この鎧も頑丈だから多少の攻撃は防ぐことができる。この高さなら受け身を取れば落ちても怪我をすることはないだろう。だから君たちは全力でかかってきてくれ」


 そうでなければ訓練にならないし、デュラハンにも勝てない。


 エドワードさんの落ち着いた、しかしはっきりと断定した言葉に私とレオンは顔を見合わせ頷く。


 相手は実際にデュラハンを倒したことのあるエドワードさんだ。本人は強力な僧侶であるシルヴィアさんに頼り切りだったなんて言うけれどあの『太陽の天使』の一員として活動していたのは事実だし、その腕が確かであることは以前デュラハンと一緒に戦ったことでも明らかだ。そして何より、私たちは「何がなんでもデュラハンを倒さなければならない」という状況に追い込まれている。そうであればエドワードさんの言葉に甘え、思いきり訓練しないと目的は達成できないだろう。


「それじゃあ、よろしくお願いします」


 そう口にして、私はまずエドワードさんの足元から右斜めに向かって剣を振り上げる。しかしエドワードさんはそれを難なく躱し、私と反対の方向から攻撃しようとしていたレオンの剣もあっさり避けてしまった。


「止まるな! どんどん攻撃しろ!」


 エドワードさんに檄を飛ばされ、私は慌てて剣を構えなおす。それから今度は移動魔法――エドワードさんとの約束の日にちまでに練習し、前より使いこなせるようになったのだ――を使ってエドワードさんの斜め後ろに瞬間移動する。ここならエドワードさんにとっては死角になる、と私は肘を引きエドワードさんに自らの剣を突き刺そうとした。だがそれもエドワードさんにとっては予想内だったらしく、最低限の体の捻りであっさりと空振りに終わってしまう。それはレオンがやっても同じことだ。エドワードさんは私とレオンの攻撃を時に体を捻じり、時に腕を振り払ったりしながらいとも簡単に受け流していく。


「これでわかっただろう? デュラハンは『馬に乗っている』ってだけで圧倒的に有利な戦い方ができる。だからそれを倒そう、っていうんなら一つの型に囚われず色んな戦闘法を考えてみるべきだ」


 私とレオンが疲れて一旦、休憩をすることになった時。なおも木から降りようとせず、疲れた様子も見せないエドさんは冷静にデュラハンとの戦い方を分析する。


「もちろんデュラハン本体も十分強いが、それでも馬から引きずりおろせば動揺するし戦力もかなり落とせる。だからまずはどうやってデュラハンを、馬と引き離すかを考えるんだ。場合によっては弓矢とかの飛び道具や、姑息だが目くらましを使うのもアリだな」


 闇雲に戦うだけでは到底無理だ、デュラハンを倒すにはそれぐらいしなければならない。淡々と語るエドさんは私とレオンを誇張も過小もせず、ただ純粋に評価している。レオンは改めて突き付けられたその現実に苦悩しているのか眉間に皺を寄せているが、私はぎゅっと剣を掴む腕に力が入るのを感じた。


 ただでさえクライドを追放したことにより弱体化している『方舟に曳かれて』だ。そう簡単に勝てる相手でないことはわかっている。無謀だと言われてしまうのも仕方がないとは思っている。だけど、目の前のエドさんはそんな私たちを真摯に評価し冷静に「勝ち方」を教えてくれる。少なくとも私たちの挑戦を信じ、応援しようとしてくれているのだ。ならば、最初にデュラハン討伐を言い出した私が頑張らなければならない。可能性を期待してもらえるなら、それに応えなければならない。そう思い、気を引き締めた私は自分の手にある剣へと目を落とす。


 瞬間移動しながら戦うという当初の考えはあまり効果がないとわかった。そうであれば、どのように戦うのがいいだろう? 単純な剣の腕前だけでは、デュラハンにも目の前にいえるエドさんにも勝てない。瞬間移動で死角から狙っても、気配であっさりと躱された。私の剣は、その程度なのだろうか。


 私の目に石ころが留まる。どこにでもある、ありふれた石ころだ。誰にも注目されず、ただ転がっているだけの物体。そんな地味で、何もできない姿に今の自分が重なる。家族の誰にも期待されず、唯一認めてくれたレオンの役に立つことはできない。魔法も剣も中途半端で、同じ親から生まれたはずのクライドとは比べ物にならない。何もかもが未熟で、誰からも必要とされない。強い魔物を倒したり誰かを助けたりすることなんてできるはずもなく、ただぼんやりとその場に転がっていることしかできない。私はそんな、地味で惨めな存在にしかなれないのだろうか。


 違う、と否定したいが他ならぬ私が自信を持っていない以上そうすることはできず――私は自分の剣を見つめた後、再び石ころを見る。何の変哲もない、誰の心にも引っかからない石ころ……




 その瞬間、はたと思いついた。




「さぁ、二人とも鍛錬の再開だ。どこからでもかかってこい」

 おどけたように、だけど目の奥で私たちの様子を伺いながらそう告げるエドさん。


 レオンは躊躇いがちにだがそれでもエドさんに向かって走り出し、一度身を屈めるとその手を突き上げるようにして木の上にいるエドさんへ攻撃をする。エドさんが上半身を捻ってそれを避けたところで、私は一度エドさんの前に顔を見せるとすぐ移動魔法で背後に回り込む。とはいえ、そのパターンは既に何度も行った流れだ。エドさんもそれを予測し、やはり最低限の動きで私の攻撃から逃れようとするが――


「――痛っ!」


 エドさんが思わずそう叫んだ拍子に、私はエドさんの腕を掴む。そのまま自分の体重を利用して、地面に滑り落ちようとした。それでもエドさんの腕力は強く、状況を素早く把握したレオンも加勢するがエドさんは木からほんの少しずり落ちただけに留まった。


 それでも、今までより格段に大きなダメージをエドさんに与えられたのは事実で……体勢を持ち直し、頭をさするエドさんが私の方へ向き直る。


「なるほど、石ころを移動魔法で俺の頭の上に移動させてそれを落としたわけか……古典的だが、いいトラップだ。ただ、デュラハンは首がないからな……やるならいっそのこと短刀とかの方がいい。けれど、よく思いついたな。」


 私が閃いたアイデアを、あっさり言い当てたエドさん。だがその姿は、クライドのように無意識に私を下に見る態度ではない。ただ自然で、素直に口から零れ出た誉め言葉。それに私は照れながら、「ありがとう」と返す。


 ただの石ころでも役に立てる。そう実感する私に、レオンも「すごいじゃないか」と気さくな言葉をかけてくれる。


 ……正直、こんな単純な方法をやってみて良いのだろうかという躊躇いはあった。ふざけるなと怒られるんじゃないか、見下され笑われてしまうんじゃないか、と……けれど、その不安を上回ったのは「レオンとエドさんなら大丈夫」という信頼だった。クライドと一緒にいた時では、決して持つことのできなかった安心感。それがあったからこそ、手にすることのできた小さな達成感に――私の胸の奥で、仄かな光が灯るのを感じるのだった。


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