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金色の鳥と夜のピクニック

 否応なく夜は来る。夕餉がすめば、また一人きりの夜が来るのだ。

 侍女は、丈高い夜用の蝋燭立てに大きく太い蝋燭を三本ほど灯すと、鍵をかけ、そそくさと階段を駆け下りていく。

 レティシアは、まるで人形のようにぽつんと椅子にかけたまま、その場に取り残されていた。

 チップを呼び出す勇気をもてないまま、レティシアが身動ぎもせず座り込んでいると、突然、ばたん、と大きな音を立てて露台に通じる扉が開いた。

 レティシアが飛び上がって驚くと、金色の鳥が悪戯っぽく笑いながら、戸口から覗き込んだ。

「や、これは失礼。ちょっと風が強すぎましたね」

「金色の鳥さん!」

 レティシアは椅子から転がるように降りると、そのまま金色の鳥に走り寄り、その首に飛び上がるようにして抱きついた。

「どうしたんです? レティシア姫。お寂しかったんですか?」

 青年は軽々とレティシアを抱き上げ、その顔を覗き込んだ。

「・・・・・・もう、もう、いらっしゃらないと思ってたんです」

 おやおや、と青年は眉を上げた。

「夕べ僕が言った『また明日』が、聞こえなかったんですね? もうだいぶおねむのようでしたから、しかたがありませんけど」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 レティシアは、青年のマントの襟に顔をうずめて再び泣き出しそうになるのを必死で堪えた。


 また泣いて困らせてしまっては同じことになってしまう。あやまらなくては、と思うのだが、どうしてもそれ以外に言葉が出てこない。

 もちろん金色の鳥は、レティシアを怒ったりなどしなかった。青年はこのうえもなくやさしい顔で、レティシアの茶色の柔らかい髪を撫でた。

「何をそんなに謝ったりしていらっしゃるんです? さぁ、今日こそはお外へ行きましょう。下で彼女も待っていますから、ね?」

「黒い鳥さんもいらしてますか?」

 青年のマントの襟から顔をあげ、レティシアが急き込むように尋ねると、金色の鳥はこともなげにうなずいた。

「ええ、もちろん。もうあちらの草原でご馳走を広げてお待ちしています」

 あぁ、とレティシアが安堵のため息をつく暇もなく、金色の鳥はそのまましっかりと彼女の身体を抱えなおし、露台へ出ていった。

「チップ! おいで!」

 扉が閉まる直前にレティシアが思い出したように叫ぶと、ベッドの下から青白い小さな灯りが勢いよく飛び出してふるふると揺れながら小さな肩に乗った。


「準備が出来たようですね。では参りましょうか」

 かすかに笑いを含んだ優しい声で金色の鳥が言い、レティシアがうなずいた。

 頬にあたる風は冷たいが、レティシアにはそんなことはまるで気にならなかった。

 金色の鳥は人の形のままでレティシアを胸にしっかり抱きかかえ、身軽く露台の手すりに飛び乗り、

「いいですか?レティシア姫。怖くなったらそうおっしゃってくださいね」

 と言うと、レティシアがうなずくのを認めてから小さく微笑んで、何のためらいもなく大気の中へ飛び出していった。


 落ちるという感じがまったくしない。

 ふわりと空気が柔らかく包み込んでくれるような感じで、まるで重みのない羽根のように空中を漂いながら、地上目指してゆっくりと滑空していく。

 彼の白いマントが風をはらんで大きく膨らみ、まるで翼のように見えた。

 レティシアは、目を丸くして初めての空中から見る夜の風景に見惚れていた。

「怖くはありませんか?」

 耳元で金色の鳥がささやいたが、レティシアはそれにうなずくことしかできない。

 城を抜け出ると、やがて二人は大きな森の上を通った。

 森のそばには草原が遥かに広がっているのが、月明かりでよく見えた。遠く地平線の向こうまで草原は続いている。

「なんて広いの。なんて綺麗なの」

 彼らの真下の緑の大地を、小さな黒い影が同じ方へ走っていく。

 それが月明かりに照らされた自分たちの影だとレティシアが気づいた頃には、二人はもうだいぶ地上近くまで降りていた。


 **..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**


 草の海の中に、場違いなほど明るい空間がある。

 そこで空に向かって手を振っている人影が、漆黒の鳥だということにレティシアはすぐ気がついた。

 今日は白いレースで縁取りした明るい色のドレスに身を包んでいる。

 広げられた淡い水色のクロースの上には、すでにたくさんの料理の皿が並べられているのが見えた。

 その回りにはチップと同じような蒼白い灯りがいくつも飛び交っている。

 蒼白い灯りと月光に照らされて、クロースの回りだけはまるで春の夕暮れ時のようにほんわりと明るい。

 地上に近づくにつれて漆黒の鳥が、微笑んでいるのまでがはっきりと見えた。

「わたし、わたし・・・・・どうしよう」

 腕の中でレティシアがつぶやくのを聞きとがめ、金色の鳥が眉を上げた。

「姫様・・・・・? どうしました?」

 レティシアはそれに答えられず、いやいやするようにかぶりを振った。

 ほどなくふわりと彼の足が草地へついた。

 ほとんど衝撃もなく、椅子の上から飛び降りるよりももっと柔らかい感触が伝わる。

 レティシアは静かに草の絨毯じゅうたんの上に下ろされた。

 まだ短い春の草のひんやりとした感触が裸足に気持ちがいい。

「ありがとう、西風ゼフィロス。助かったよ」

 後ろで金色の鳥が誰かに礼を言っているのが聞こえた。

 だが、それを不審に思う余裕もなく、レティシアは泣きそうな顔でうつむいてしまった。


「わたし、寝巻きのままです。靴も履いてません。どうしましょう」

 心配げに顔を覗き込む金色の鳥に聞こえるか聞こえないかの小さな声だった。

 あの時は勢いにまかせて飛び出してきたが、レティシアは夕餉の後、侍女に寝巻きに着替えさせられたままで、しかも上靴すら履いてはいなかった。

 もっとも靴は、あの塔へ幽閉されるときに取り上げられてしまい、今は上靴しか与えられていないのだが、せめてあれだけでも履いて来ていればよかった。

 少し惨めな気持ちで、それでもレティシアは歯を食いしばって、顔を上げた。漆黒の鳥にもこの前の無礼のお詫びをしなければならないのだ。

 だが、「ごめんなさ・・・・・・」という詫びの言葉は、最後までつづられることがなかった。

 華奢な漆黒の鳥の腕が、レティシアの身体を宙にさらっていったからだ。

「こんばんは、レティシア姫。さぁ、お着替えしましょうね。それがすんだらご馳走をいただくのよ」

 漆黒の鳥は、まるで風のようにすばやくレティシアを持ち上げ、敷かれたクロースの隅へ連れて行った。

 そこに置かれていた大きな蓋付きの籠の中から、次々と綺麗な色の下着やドレスが取り出されていくのを、レティシアは言葉もなく目を丸くしてただ見守っているしかなかった。


 逆らうひまもなく、レティシアは真新しい白いレースのふんだんに付いた下着とスカートがふわりと広がった淡い薔薇色の綿の可憐なドレスを着せられていた。

 白い靴下を身に付けると最後に差し出されたのは、足首をリボンで留める赤い柔らかな裏革で作られた可愛らしい靴だった。

「さぁ、いかが? 着心地、履き心地のほうは」

 柔らかな茶色の髪を梳かして、靴と同じ裏革の赤いリボンで留めてやりながら、漆黒の鳥が尋ねた。

「とっても素敵です」

 うっとりと自分のドレスと靴を眺めながら、レティシアが目を潤ませた。

 ドレスも靴も、誂えたようにぴったりとレティシアに合っていた。

 清潔ではあったが、ずっと同じような簡素な物しか身につけていない生活が続いていたレティシアにとって、新しいこれらのものは、この上もなく美しく心躍る贈り物だった。その女の子らしい様子に、満足そうに漆黒の鳥がうなずいた。

「やっぱり女の子はこうでなくっちゃね」


 だが、レティシアはふと大事なことを思い出した。まだ彼女には先日の詫びをちゃんと言えていないのだ。

「ごめんなさい。この間は、わたし、とても無礼なことをいたしました。どうぞ許してください」

 レティシアは、神妙な顔つきで漆黒の鳥に頭を下げて謝った。

「まぁ、レティシア姫ったら、あれは無礼な事ではありませんわ」

 優しく漆黒の鳥がなだめたが、レティシアは顔があげられなかった。

「ごめんなさい」

 漆黒の鳥が困ったように側に立っていた金色の鳥を見上げた。

「レティシア姫」

 金色の鳥が、レティシアと同じ高さまで膝をついてしゃがみこんだ。

 彼はレティシアの小さな手をとると、その顔を覗き込みながら口元に笑みを浮かべた。

「そういう時は、姫様。謝るものではありません」

 レティシアは、そこでやっと顔を上げた。

「では、どうしたらよろしいでしょう?」

 おろおろと戸惑うレティシアに、金色の鳥は優しくささやいた。

「謝罪の言葉よりも、ありがとうのひと言のほうが、この場合、ふさわしいと僕は思いますが」

 レティシアの口が小さなオーの字に開かれた。

 そんなことは考えもしなかった。

「漆黒の鳥は、あれを迷惑だとはちっとも思ってないはずです。相手が傷つくような悪いことをしたのなら、姫君は謝らなくてはいけないでしょうけれど、そうでない場合はお礼のほうが、お互いに嬉しくはないでしょうか?」

 覗き込む金色の鳥の静かな口調にレティシアは、素直にうなずいた。

「ああ! そう、そうですね」

 金色の鳥は再びにっこりと優しく微笑んで、レティシアの手を取ったまま静かに立ち上がった。

「さぁ、レティシア姫」

 金色の鳥に促され、レティシアは漆黒の鳥の前に立った。

 漆黒の鳥がやはり金色の鳥と同じように小さく微笑みながら、大きな目でじっとレティシアを見ている。

 レティシアはちょっと迷って、それから思い切りよく漆黒の鳥へ走り寄り、その白い手をとると膝を曲げて額がつかんばかりに深く腰をかがめた。

「漆黒の鳥さん、先日は失礼をいたしました。わたし、深く感謝しております。本当にありがとうございます」

「どういたしまして、姫様。こちらこそ失礼をいたしました。どうぞお顔をおあげくださまし」

 レティシアが顔を上げ、二人は顔を見合わせてにっこりと心の底からの微笑を浮かべた。漆黒の鳥がためらわず、そのままレティシアを引き寄せて、しっかりとその胸に抱きしめた。

「私はただの鳥なんですから、こういうご無礼はお許しくださいましね」

 レティシアは、最初は漆黒の鳥の突然の行為に目を丸くしていたが、そのまま彼女の背中に腕を廻してしっかりと抱きついた。

 またふわりと花の香りがしたが、今日のそれは薔薇ではないようだった。


「さて、では姫様のご用意も出来たのですから、そろそろ美味しいものをいただきたいなぁ」

 二人の様子を見守っていた金色の鳥がそう言いながら、一足先にクロースの端にどっかりとあぐらをかいて座り込んだ。

「まぁ、食いしん坊ね。あなた、お夕飯もちゃんと頂いたでしょ?」

 漆黒の鳥が金色の鳥を軽く睨み、抱かれたままのレティシアがくすくすと笑った。

「そんな何刻も前のことを言われてもね。大体レティシア姫一人で、これが全部平らげられるとは思わないでしょ、君だって」

 金色の鳥は、眉を上げて両手でクロースの上を指し示した。

 確かにクロースの上に所狭しと広げられた料理はかなりの量で、それぞれを一口ずつ食べたとしても、レティシアならおなかがいっぱいになってしまいそうだった。

 すでに金色の鳥は二つのグラスに、嬉しそうな顔で葡萄酒を注いでいる。

 二人はそれぞれクッションを敷いて、金色の鳥の前に座った。

 すかさず金色の鳥によって、先ほどの葡萄酒のグラスが漆黒の鳥の前に、レティシアのところには、薄いオレンジに色づいた透明な飲み物が置かれた。

 ほのかにあんずの香りがする。

「しかたのない人ね。じゃあ、レティシア姫、全部彼に食べられてしまう前に頂きましょうね」

 そう言いながら漆黒の鳥が、青い花模様のついた皿に料理を少しずつ取ってくれた。

 膝の上にナプキンを広げてそのお皿を受け取りながら、くすくすとレティシアはまた笑った。

「とってもお二人は、仲が良いんですね」

 あら、と漆黒の鳥が声をあげ、白い頬を少し染めた。

「いやいや、いつも僕がいじめられて小さくなってますよ」

 女らしく恥らう漆黒の鳥にはお構いなく、にやにや笑いながら葡萄酒のグラスを片手に金色の鳥が言うと、

「まぁ! いつ私が、あなたを苛めたの? いい加減なことを、レティシア姫に言わないで」

 むきになった漆黒の鳥が、その綺麗な黒い瞳を煌かせて彼を睨んだ。

 金色の鳥が肩をすくめ、

「ほらね? 苛めるんですよ」

 と、悪戯っぽく笑った。

「もうっ! どっちが意地悪なの?」

 漆黒の鳥がまるで少女のように少し頬を膨らませ、レティシアは笑いを堪えるのに苦労していた。

 やはり仲が良いのだろう。

 お互いに本気で悪く言っているのではないことが、子供のレティシアにもすぐわかる。

 自分のために、明るく振舞ってくれているのが伝わってきてレティシアは嬉しくなった。


「あら? お口に合いませんか?」

 心配そうに漆黒の鳥が、まだ何にも手をつけていないレティシアの皿を覗き込んだ。

「あ! いいえ、違います。なんだか夢を見ているみたいなんです」

 レティシアは、ぐるっと首をめぐらせてあたりを見渡した。

 月の光と魔法の蒼白い灯りの控えめな照明のおかげで、あたりは柔らかにほの明るい。鮮やかな新緑の草原をわたる風が、さわやかですがすがしい空気と香りを運んできていた。

「こんな広くて気持ちいい草原で、綺麗な服を纏って、美味しいお料理を頂いて・・・・・・。みんな夢みたいです」

 半分溜め息混じりに言いながら、レティシアが頬にえくぼを浮かべて微笑んだ。

「美味しいかどうかわかりませんよ。まだ、食べてないんだし」

 金色の鳥が茶々をいれると、漆黒の鳥がまたむくれた。

「あら! あなたは、私のお料理が美味しくないって、そうおっしゃりたいの?」

「やだな、そうは言ってないでしょ? 僕が言いたいのは、とりあえず食べてみたらってことだよ」

「そうは聞こえないわ」

「いやいや、君のお料理は、いつもとっても美味しいです。ちゃんと僕も認めてますってば」

 どう聞いてもじゃれあっているとしか思えない二人の会話に、レティシアは目を丸くして割り込んだ。

「あの、あの、このお料理って漆黒の鳥さんがお作りになったんですか?」

 なおも金色の鳥に何かを言い募ろうとしていた漆黒の鳥は、レティシアの言葉に驚いたように振り向き目をしばたたいた。

「あら。ええ、もちろん私が作ったんです。彼も手伝ってくれましたけど」

 黄金色のかぼちゃが見え隠れしているパイの大きな一切れを、口に運びながら、金色の鳥がかぶりを振った。

「僕は野菜の皮むきくらいしかしてないよ」

「金色の鳥さんが、お野菜の皮むきをなさるんですか?」

 さらに驚いたように声をあげるレティシアに、金色の鳥は苦笑した。

「それくらいはね、僕でも出来ますよ」

「でもあなた、パンを焼いたりするのも得意よね?」

 漆黒の鳥が金色の鳥に向かってにっこり笑った。

「それはなに? 次からは僕が焼けばいいのに、っていう意味かな?」

「あら、わかった?」

 漆黒の鳥が華やかな笑い声をあげ、金色の鳥がおどけて顔をしかめて見せたが、レティシアは声も出ない。

 レティシアの口がびっくりしたように大きく開かれ、その彼女の様子に漆黒の鳥のほうが驚いていた。

「あら、レティシア姫。そんなに驚くようなことでしたか?」

 レティシアは正直にうなずいた。

「ドレスも私が縫いました。白い木綿を桜の若木で染めたんです。綺麗なピンク色でしょう? 靴は革をなめして彼が作ったものです」

 漆黒の鳥が少し得意げに言い、レティシアは目をむいた。

「お洋服も手で作れるんですか? 靴も? 染める? なめすって何ですか? どうして? どうやって?」

 矢継ぎ早の質問に、漆黒の鳥が軽やかな笑い声をたてた。

「いやだわ。だって林檎や桃みたいに、木になるものではありませんもの。もちろん、町に行けばお店に売ってはいますけれどね。革をなめすっていうのは、動物の皮を靴を作ったりしやすいように、えーと、いろいろ処理すること、でいいかしら?」

 漆黒の鳥は、ちょっと困ったように金色の鳥の方を見やった。

 金色の鳥はレティシアの質問を面白がっているような顔つきで、二人を等分にながめている。


 考えてみれば、誰かが作らなければ、物はそこに存在しないのだ。単純な事実であったが、レティシアにとってそれは新鮮な驚きであった。

「私は貴族のお姫様じゃありませんもの。何でも自分で作る生活をずっとしてきているの。お針の仕事も、お炊事やお洗濯や、お城なら下女がやるようなそういうことも・・・・・・」

 最後のほうは少し口ごもりながら、漆黒の鳥は少し恥じ入ったようにその黒く長い睫毛を伏せ、自分の手を見つめながら小さくつぶやいた。

「・・・・・・私も貴族のお姫様ならよかったんだけど」

 金色の鳥が、肩をすくめて見せた。

「冗談でしょ。何にもできない何にも知らない貴族の姫君なんて、僕はごめんだね」

「でも、そういう高い身分の女性をたくさんあなた、知っているでしょう?」

 少し悲しい目で漆黒の鳥が金色の鳥をみつめ、彼は彼女の暗い気持ちを吹き飛ばすように、大きく喉をそらせて明るく笑った。

「だからこそ、そう言ってるんだけど? 身分の上下はともかく、そういうことを含めて、何も世の中のことを知らない女性に僕はまったく興味がわかないね」

 それから金色の鳥は真面目な顔で、レティシアの方を向いた。

「そうでしょう? 姫様。何も知らないことは、恥にしかなりませんよ。あなたはまだあまりにも、お小さい姫君です。でも、だからと言って、何も知らなくていいはずはありません。何かあったとき、知っていて黙っていることと、無知のために黙っているしかないということは、天と地ほど違うのですよ」

 レティシアは、大きく目を見開いたままうなずいた。


 金色の鳥の話は少し難しかったが、それでも自分が何も知らないということはわかっていた。

 そして、そのために恥ずかしい思いをするのは、いろいろなことを知っている漆黒の鳥ではなく、無知な自分の方だということも理解できた。

 レティシアは、漆黒の鳥の方に顔を向けた。

「お二人のように、たくさんのことができるのって本当に素敵です。わたしも、いろいろできるようになりたいと思います。わたしにもできそうなことを、教えてくださいますか?」

 漆黒の鳥は大きな黒い目をぱちくりさせた。

「まぁ、姫様。本気ですか?」

「はい」

 レティシアは大きくうなずき、漆黒の鳥が少し戸惑ったような顔をした。

「でも私がお教えできるのは、お針とかお炊事とかお洗濯とか。あ、あとは薬草のことは少しお教えできますかしら。でも私ではたいしたことは・・・・・・」

「あと君は、花の名前とか植物の育て方とかも得意でしょ?」

 金色の鳥がにこにこ笑った。

「それでいいんだよ。鳥の名前、花の名前、星の名前、そんなことからはじめよう」

 それから彼は悪戯っぽく目を煌かせながらすっくと立ち上がり、優雅にお辞儀をした。

「僕は魔術師、マリオン。彼女は魔女、フェリシア。どうぞ姫君、以後お見知りおきを」


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