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第64話 雷まで俺の力になる

 雷獣は、青黒い毛をした大きな豹(ひょう)に似ていた。

 通路から広間へ出た七人を見て、群れが音もなく散る。背中の毛の間で、青白い火花が弾けている。欲しかった雷が、向こうから来てくれた。

 書記の文字が浮かぶ。

 雷撃。身体にためた魔力を雷へ変え、敵へ放つ。

 使い方は素直で、強化する余地も多い。悠真は剣を構えながら、その文字を自分へ複写した。

 胸の奥に新しい熱が宿る。炎とは違う、鋭く跳ねる感覚だった。指先へ意識を向けると、青い火花が一つ散った。


「ガレスさん、少し見せたいものがある」

「なんだ?」

「今、覚えた」


 悠真が掌を開くと、雷が指の間を走る。ガレスが目を見開き、トーマは思わず弓を下げかけた。


「おい、雷まで使うのか!」

「見てたら使えそうだった」

「そんな軽い話じゃないだろ!」


 トーマの驚きをよそに、リラとセリカは得意げに顔を見合わせた。結衣は、雷の走る悠真の指先から目を離さない。

 こちらの雷へ反応したのか、雷獣の一頭が低く唸った。地面を蹴った途端、その姿が青い線になって迫る。

 速い。普通の冒険者なら、剣を合わせる前に喉を噛まれるだろう。

 悠真には、踏み込んでくる獣の目まで見えた。

 雷撃の文字へ指を走らせる。放出量を増やし、狙いを散らさず、身体へ流れ戻る分を切り離す。欲しいのは、扱いやすくて強い力だ。


「試させてもらうぞ」


 掌から雷が走った。

 飛び掛かった雷獣の胸を貫き、その後ろの一頭まで吹き飛ばす。青白い光が壁を照らし、獣たちは声を上げる間もなく床へ倒れた。

 手には痺れも痛みもない。狙った場所へ、そのまま届いた。


「これは、いいな」


 悠真が笑うと、ガレスも大きく笑った。


「本当に使いやがった! しかも本家より強いぞ!」


 残った群れが一斉に放った雷を聖光結界で受け止め、悠真はその内側で次の雷を組み立てた。一本ずつ放つより、複数を同時に狙いたい。

 並列記述が働く。指の先に光が分かれ、それぞれが獣の気配を追った。

 ガレスの盾が、後ろへ回り込んだ一頭を止める。


「こっちは任せろ!」


 悠真は頷き、雷を解き放った。

 広間をいくつもの光が走る。雷獣たちが逃げる方向を変えても、狙いは外れない。床へ大きな影が次々と落ち、光が消えるたびに数が減っていった。

 ガレスの盾が止めた一頭へは、横から飛び込んだリラが大剣を叩きつける。逃げ道を探した手負いの獣も、セリカの炎と結衣の光に挟まれて動けなくなった。

 悠真はもっとも大きな親玉へ向き直る。

 背中に角のような結晶があり、ほかの獣より濃い雷をまとっていた。群れを失った怒りか、牙を剥(む)いて悠真を睨(にら)む。


「お前の雷も見せてくれ」


 言葉に応えるように親玉が吠え、結晶から落ちた巨大な雷が地面を砕きながらこちらへ走ってくる。

 悠真は自分の雷を正面から合わせた。

 衝突の光で広間が白く染まり、押し返された空気にマントが大きくなびく。親玉の雷は数瞬だけ踏ん張ったものの、すぐに悠真の光に押し切られた。

 雷は結晶を砕き、親玉の巨体を壁へ叩きつけた。

 低い音が響く。最後の獣が動かなくなったのを確かめ、悠真は掌を閉じた。

 広間に残ったのは、焦げた匂いと青い魔石の輝きだった。


「全部、倒したのか……」


 トーマが呟く横で、ベラは傷がないのを確かめるように悠真の手へ顔を寄せた。


「自分の身体に負担もないのね」

「その部分も直したから」

「便利、という言葉では足りないわ」


 ガレスが悠真の背中を強く叩いた。


「お前、底が見えんな! 一緒に潜ろうと誘ってよかった。こんな戦いは初めて見たぞ」


 掌を見せて消したばかりの雷をもう一度小さく灯すと、ガレスは顔を近づけ、まだ強くできるのかと尋ねた。

 リラが腕へ抱きついてくる。


「悠真さん、雷も格好いいです!」

「使ってて気持ちよかったよ」


 結衣は悠真の掌をのぞき込み、少し考えた。


「次は、光と雷を並べてみたいね」

「ああ。組み合わせたら、もっと面白いことができそうだ」


 ガレスが広間の端に立つ細い石柱を指した。


「今の力、近くに味方がいても使えるのか?」

「狙う場所は選べる。少し試しておこう」


 柱の周りに落ちた小石から、大きさも距離も違う三つを選ぶ。それぞれへ細い雷を飛ばすと、狙った石だけが跳ね、柱には焦げ跡さえ付かなかった。

 トーマが近づいて地面を確かめる。


「これだけ絞れるなら、俺たちが前にいても平気だな」

「ああ。後ろから援護もできる」

「頼もしいじゃないか。ますます楽しくなるぞ」


 ガレスの言葉に、悠真も頷いた。掌の中で、雷が素直に言うことを聞く。これは、たまらない。

 リラが指先の小さな光を覗き込んだ。


「これなら、剣の先からも出せますか?」

「できそうだな。まだ試してないけど」


 悠真は月鋼剣を抜き、誰もいない壁へ向けた。刀身へ流した雷が先端から走り、遠くの石を弾く。掌から撃つ時とは狙う感覚が違った。

 次は剣を動かしながら放ってみる。刃が向いた場所へ飛んだ光が二つ目の石を砕くと、リラが目を輝かせて大剣を持ち直した。


「届かない相手にも、斬ったあとで当てられますね」

「ああ。剣の出番までなくならずに済む」


 悠真は刀身の雷を消し、いつもの淡銀の刃を見た。振る楽しみが、また一つ増えた。

 魔石を集めると、収納の中がずいぶん賑やかになった。親玉の結晶は割れていても価値が高いらしく、ガレスが大きな欠片を拾って悠真へ渡してくれる。


「こいつはお前の取り分だ。帰ったら、いい値がつく」

「酒も奢れそうだな」

「もうその話か。なら楽しみにしてる」


 回収を終える頃、通路の向こうから別の組が姿を見せた。広間の入口で止まり、倒れた親玉へ目を向ける。


「この先へ行くために、人を集めてきたんだが」


 男が言うと、ガレスは悠真を親指で示した。


「こいつが倒した。道は空いたぞ」

「四人でか?」

「こっちの三人もいる。七人だよ」


 それでもガレスは、親玉の雷を正面から押し返したのはこいつだと笑って譲らない。親玉の砕けた結晶を見た男たちは、次はギルドで声をかけてもいいかと尋ねてきた。


「面白い場所があったら、教えてくれ」


 悠真はそう返し、相手の差し出した手を握った。

 初日から十分な収穫があり、深層へ進むなら食料や道具を増やしたい。そう言って、ガレスは今日はここで引き返すと決めた。

 悠真も賛成した。新しい力を試す相手は、明日もいる。今夜は稼いだ金で、三人と旨いものを食べたい。

 帰り道では、雷鼠が一匹だけ襲ってきた。悠真が指を軽く向けると小さな雷が飛び、魔物はその場で倒れる。


「便利すぎるな、それ」


 トーマが羨ましそうに言った。


「矢が減らないのは、たしかに楽だ」


 指先の火花を消しながら返すと、トーマは大げさに肩を落とした。


「俺の弓まで要らなくなるじゃないか」

「そんなことはない。ガレスさんが止めた相手へ当てるの、速かったぞ」


 そう言ってやると、トーマは照れたように笑った。

 地上へ戻ると、夕方の風が頬に気持ちよかった。

 ギルドへ魔石と素材を持ち込むと、受付の男が奥から鑑定役を呼びに走った。雷獣の親玉を初日で倒したと聞き、周囲の冒険者がまたこちらを見始める。

 ガレスが隠そうともせず、悠真が雷で群れを一掃したと話すたびに声が上がる。三人に囲まれながら、悠真は少し得意な顔で報酬を受け取った。

 金貨の重みが増えると、今夜の店を迷う必要がなくなった。


「ガレスさん。約束の酒、今夜でいいか」

「おう。俺の好きな店でいいなら案内するぞ」

「一番いい酒を頼んでくれ」


 ガレスが膝を叩いて笑うと、トーマが拳を上げ、ベラまで今日は少し飲もうかと微笑んだ。

 料理の多い店がいい、とリラが言えばセリカも真顔で頷く。その間も結衣は、悠真の手を握って嬉しそうに見上げていた。


「今夜は私が隣に座るね。先に言っておく」


 悠真はその手を握り返し、店へ向かうガレスに追いついた。通りを行く人が彼らへ声をかけ、先輩は馴染みの店の方角を指しながら応えていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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