↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/50

第23話 岩竜を斬る

 岩竜が前足を振り下ろすと、悠真の立っていた床が陥没した。砕けた石が跳ね、広間に地鳴りが走る。まともに踏まれたら、人の体は形を残さないだろう。

 飛びのきざまに、悠真はその足を月鋼剣で切りつけた。

 刃が厚い岩の皮へ食い込み、硬い感触が腕へ返ってきても止まりはしない。深い傷から赤い光が漏れて、岩竜が怒りの声を上げた。


「ちゃんと通るな」


 悠真は笑った。斬れるなら、倒せる。こんな大物を持って帰ったら、ギルドの連中はどんな顔をするだろう。

 そこへ横からリラが飛び込み、獣王の大剣を振るった。金色の斬撃が後ろ足を捉えて岩の破片が大量に散り、巨大な体が傾く。


「悠真さん、足が止まりました!」

「そのまま、もう一回!」


 リラの二撃目が同じ場所へ入ると、岩竜はたまらず長い尾を振り回した。悠真がとっさに彼女の前へ障壁を張って自分もその中へ入った直後、城壁が倒れてきたような圧力が透明な壁を叩いた。

 今度は少し足が滑った。悠真が魔力を足して押し返すと、尾の棘が砕けて岩竜が不機嫌そうに唸る。

 重い。強い。

 それでも、受け止められる。

 悠真はさらに剣へ力を込めた。もう一段強く振れば、この厚い皮をどこまで断てるだろう。

 岩竜の皮に文字が浮かぶ。硬化。魔力を流した部分を、さらに硬くする力らしい。斬り込む前に、その能力を自分へ複写しておく。

 見ているうちに、竜の前足が灰色から黒へ変わる。傷が塞がるように見えたが、よく見ると表面を硬い層で覆っているだけだ。


「なるほど。そこを強くするのか」


 悠真は自分の能力の文字へ触れ、硬化の強さと扱いやすさを書き換えた。腕が重くなることも、指が動かしづらくなることもない。ただ、肌の下に頼もしい芯が一本通ったような感覚がある。

 試しに落ちていた鋭い石を握ると、石の方が砕ける。掌は無傷だ。


「リラ、少しこっちへ」


 彼女が戻るまでの間、悠真は障壁で竜を押しとどめた。怒りに任せて巨体が壁を殴りつける音の中で、駆け寄ってきたリラの手へ触れる。


「新しい守りを渡す。鋼身(こうしん)だ」


 強化した硬化を付与すると、リラは目を丸くして自分の腕を眺めた。


「何か、体の中がしっかりしました」

「動けるか?」

「はい。今までと同じです」

「よし。これで多少の破片なら平気だ。無茶はしすぎなくていいけど、思いきりやろう」


 リラの頬がゆるんだ。その顔が見られるなら、もっといい能力をいくらでも探したくなる。


「悠真さんと一緒だと、どんどん強くなれますね」

「俺も強くなる。二人で楽に勝てるくらいまでな」


 障壁を解除すると、待ち構えていた岩竜が口を開いた。石の息吹が来る。悠真はリラの腰を支え、広間の端へ大きく跳んだ。背後で床が削れ、白い粉が天井まで舞う。

 着地と同時にリラが大剣を構えたところへ、土煙を割って竜の頭が突っ込んできた。悠真が障壁で正面から受け止めると、鼻先が大きくへこんで顎が床へ落ち、両角がこちらへ突き出す。

 狙う場所ができた。

 その角の一本へ月鋼剣を叩き込んだ。硬化で黒く染まった角が金属のような音を響かせ、肩へ来た反動は新しく得た守りが受け止める。

 刃を押し込む。

 角が根元から折れ、巨大な破片が床へ突き刺さった。

 岩竜が悲鳴を上げ、さっきまでこちらを押し潰そうとしていた巨体が初めて後ずさった。相手がひるんだ時こそ、一気に決めたい。悠真はすかさず追った。


「リラ、もう一度足を!」

「任せてください!」


 金色に輝く獣王の大剣で、リラが竜の前足へ斬撃を放つ。体勢が崩れたその隙に、悠真は低くなった頭へ近づいた。

 岩竜の全身の皮が黒く変わり始めた。残った魔力を守りへ回すつもりだろうが、悠真には能力の流れが見えている。竜がどこを固めるか迷っているうちに、こっちは攻め手を増やせばいい。

 炎の槍を背中へ撃つ。岩竜がそちらへ力を回した瞬間、月鋼剣を頬へ振るった。硬い皮が裂け、赤い瞳が大きく見開かれる。

 リラの大剣が、もう片方の角を砕いた。

 二つの衝撃が重なり、岩竜の頭が床へ落ちた。石の山が崩れたような音が広間に響く。それでも巨大な顎はまだ動いて、悠真へ最後の息吹を吐こうとしていた。


「それは、もう見た」


 悠真が口の前へ障壁を張ると、石の嵐は外へ出る前に押し返されて竜自身の顎を打ち砕いた。うめき声が途切れた瞬間、剣へ全身の力を乗せる。

 白い刃が、岩竜の首を断つ。

 重い体が地面へ沈み、広間全体が揺れた。悠真が剣を下ろして見上げた巨体は、もう動かない。赤く光っていた瞳も、ゆっくり暗くなっていく。


「……倒したな」


 言葉にした途端、腹の底から笑いがこみ上げてきた。こんな大物を、俺とリラの二人で倒したんだ。

 リラが大剣を立て、悠真へ走ってきた。


「倒しました! すごいです、悠真さん!」

「ああ。リラもよくやった」


 目の前まで来たところで、リラの膝がかくんと折れた。そのまま床へ座り込み、自分でも驚いた顔で見上げてくる。


「あれ……立てません」


 悠真は手を差し出しかけて、やめた。自分の膝も、さっきから少し笑っている。結局、彼女の隣へ腰を落とした。


「実は、俺もだ」

「悠真さんもですか?」

「竜の前じゃ、格好つけてたからな」


 吹き出したリラの尾が床の石粉を払い、白い煙が二人の間に上がる。


「私、竜に勝っちゃいました」

「これから、もっと勝とう」

「はい!」


 悠真は隣に座ったまま、リラの腕を確かめた。飛び散った岩が当たったはずなのに、白い肌にはかすり傷もない。触れられたところを見下ろして、彼女はくすぐったそうに笑った。


「鋼身、ちゃんと効いていました。痛くもなかったです」

「よかった。強くなっても、傷だらけになるのは嫌だからな」

「悠真さんも、綺麗なお顔のままです」


 頬へ伸びてきたリラの指が、ついていた白い粉を拭う。近くから見つめられて、悠真の心臓が跳ねた。竜の正面に立つより、こういう時の方が落ち着かない。彼女の指が離れるまで、じっと動けずにいた。

 少し落ち着いたところで、悠真は岩竜の体へ触れた。爪や牙だけ切り取れば運ぶのは簡単だ。だが、二人で倒した竜だ。牙を何本か見せるだけじゃ、物足りない。


「大きすぎますか?」


 リラが心配そうに聞く。


「収納が入れてくれるなら、丸ごと持って帰る」


 悠真が意識を向けると、竜の巨体が光に包まれた。抵抗する感覚もないまま、岩竜はそっくり収納へ収まった。

 広間が急に広くなる。

 リラは何もなくなった床を見て、口を開けた。


「本当に全部です」

「やったな。町の人にも、ちゃんと見せられる」

「悠真さん、今、楽しそうです」

「楽しいよ。リラ、ギルドで出す時も隣にいてくれ」

「はい。角を折ったところ、私から話してもいいですか」

「ああ。俺も、リラが足を止めたところを話す」

「ギルドの人たち、驚きますね」

「受付の机には、絶対に載らないな」


 少しだけ得意げなリラを見ていると、こちらまで誇らしくなる。二人とも泥と石の粉にまみれているが、この気分は町へ戻るまで消えそうにない。

 彼は床へ転がった角の先を拾い、割れた方も忘れずに収納した。

 巨体のなくなった床には、長い爪の跡が残っていた。リラがその横へ大剣を並べ、あまりの大きさに笑う。


「これが、さっき目の前へ来たんですね」

「もう一度来ても、勝てると思う」


 悠真が迷わず答えると、リラは大剣を持ち直し、次も自分が足を止めると請け合った。

 岩竜が寝ていた場所の奥には、冒険者が言った通り金色の扉があった。今は中央が少し開き、中から温かな光が漏れている。

 二人で近づくと、扉は軽い音を立てて開いた。

 悠真は足を止めた。

 金貨が山になっている。宝石、銀の杯、装飾の施された箱。奥には立派な武具まで並んでいた。床を覆う輝きが、リラの瞳にも映っている。


「これ……全部、持って帰っていいんですよね」

「ああ」


 悠真が一番手前の金貨を拾って指で弾くと、澄んだ音が宝物庫に響いた。


「好きなものを選ぼう。今日は、遠慮なしだ」


お読みいただき、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや☆からの評価をいただけるとうれしいです。

感想も楽しみにしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。