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悪役令嬢は悪女として死ぬ覚悟を決めました。  作者: 白い鴉


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11.他国の影

 他国との内通疑惑を作るには、証拠が必要だ。


 本物の証拠ではない。発見されるための証拠だ。


 断罪の場で告発される項目の中で、他国との内通は最も重い。処刑に値する罪として機能するためには、それなりの説得力が必要になる。ただの噂では足りない。文書がいる。接触の記録がいる。あるいは、そう見えるものが。


 私は三日かけて計画を立てた。


 まず対象となる「他国」を選ぶ必要があった。


 ゲームの設定で、この王国と緊張関係にある隣国はいくつかある。その中で、内通疑惑として最も自然に見える国を選ぶ。交易路が近く、過去に領地との接触実績がある国がいい。存在しない接触を作るより、実際にあった接触を誇張する方が信憑性が高い。


 シミュレーションを回した。


『断罪の告発として最も効果的な内通疑惑の対象国』


 砂時計。


『東隣のグレイン公国。過去に先代領主との交易実績があり、現在も商人の往来がある。内通疑惑の土台として信憑性が高い』


 グレイン公国。


 ゲームにも出てきた名前だ。断罪の場での告発の中で「グレイン公国への情報提供」という項目があった。私はその項目をシナリオ通りに作ればいい。


 次を入力した。


『グレイン公国との内通疑惑を演出するために必要な最低限の証拠』


『文書が一点。接触の記録が残る証人が一人。この二点があれば告発として機能する可能性が高い』


 文書一点。証人一人。


 文書は作れる。問題は証人だ。



  *



 証人として使える人物を考えた。


 条件がある。グレイン公国の人間と接触した実績がある人物で、かつ私の動きを正直に報告する立場にある人物だ。買収した証人は信憑性が低い。自発的に証言する理由がある人物の方が、断罪の場では重みが違う。


 一人、思い当たる人物がいた。


 ハイネ侯爵家のカルロだ。


 カルロは礼儀正しく、正直だ。私から受けた侮辱を正確に侯爵に報告するタイプの人間だと、最初に会った時から判断していた。そのカルロが、グレイン公国の商人と取引のある侯爵家に仕えている。


 侯爵家とグレイン公国の接点は実在する。


 私がカルロを通じてグレイン公国に何かを流したと見える状況を、一つ作ればいい。カルロは正直に報告する。それが証言になる。


 ただし、カルロを意図的に巻き込むことには、少し引っかかるものがあった。


 あの人間は悪くない。侯爵家に仕える仕事を真面目にやっているだけの人間だ。私の計画に使われることを、おそらく知らないまま証言台に立つことになる。


 メモを開いた。


 考えを書いた。止まった。また書いた。


 最終的に書いたのは手順だけだった。引っかかりについては書かなかった。書いても変わらないことを書く習慣が、私にはない。


 そのはずだった。


 しばらくしてから、メモの末尾に一行追加した。


『カルロを使う。ただし証言の内容が彼の実害にならないよう設計すること』


 それだけ書いた。



  *



 実行に移したのは、それから四日後だった。


 グレイン公国からの商人が、この領地の近くを通る定期的な交易路がある。その商人の一人に、匿名の書状を渡した。書状の内容は、領地の農産物の取引を打診するものだった。実際に取引をするつもりはない。ただし書状を渡したという事実が残る。


 書状の渡し方を工夫した。


 カルロが侯爵家の用事でこの領地の近くを通る日程を、セレンの報告から把握していた。その日に合わせて、商人との接触を作った。カルロが目撃する可能性がある場所で、目撃できる形で。


 カルロが見たのは、領主ルーの使用人がグレイン公国の商人に書状を渡す場面だったはずだ。


 使用人として動いたのはエドだ。


 エドには「グレイン公国の商人に農産物の見積もりを依頼する書状を渡してほしい」と伝えた。嘘ではない。書状の内容は本当にそういう内容だ。ただしその場面を誰かに見られることを、エドは知らない。


 エドは仕事を忠実にこなした。


 カルロが見た。


 それだけだ。



  *



 翌日、シーン通知が届いた。



 [シーン通知]

 45分後からシーン006「他国の疑惑」が開始されます

 内容:領主の不審な動きが王都の耳に入ります

    王都からの調査官が領地への訪問を打診します

 出演者はシーンに沿った動きを心がけてください



 四十五分。


 想定より早かった。カルロが報告を上げたのか、あるいは別の経路から情報が流れたのか。いずれにしても、内通疑惑の種が王都に届いた。シナリオが次の段階に進んだ。


 四十五分で準備した。


 調査官の対応を考えた。


 調査官が来た時に、疑惑を否定しすぎてはいけない。否定すれば疑惑が薄まる。ただし肯定するわけにもいかない。最も効果的なのは、曖昧に対応することだ。否定も肯定もせず、ただ「商取引は領主の裁量の範囲内だ」と言う。それが最も疑惑を深める答えだ。


 準備を終えて待った。


 王都からの使者が来た。調査官の訪問を打診する書状を持ってきた。


 私は書状を受け取り、一度読んで、返した。


「訪問を受け入れる。日時は領主館の都合に合わせてもらう」


 使者が礼をして帰った。


 シーン006が完了した。



  *



 その夜、セレンが来た。


 報告ではなく、用件がある時の歩き方をしていた。


「調査官の件ですが」


「聞く」


「セレンから一つ申し上げてもよろしいですか」


 珍しい言い方だった。セレンが自分の名前を使って話を切り出すのは、個人的な意見を言う時だ。これまで数えるほどしかなかった。


「言え」


「グレイン公国との件、私は詳しい事情を存じません。ただ調査官が来るとなれば、記録を整理しておく必要があります。私が確認すべき書類はありますか」


 私はしばらくセレンを見た。


 この人間は何を知っているのか。何も知らないのか。それとも何かを察して、確認しに来たのか。


「書類の整理は不要だ」


「……よろしいのですか」


「見せて困るものはない」


 それは本当のことだ。エドが渡した書状は農産物の見積もり依頼だ。法的には問題がない。疑惑として機能するのは、文脈があるからだ。書類単体を見ただけでは、何も出てこない。


「承知しました」


 セレンが下がろうとした。


「セレン」


「はい」


「調査官が来た時、応接は通常通りでいい。特別なことはしなくていい」


「かしこまりました」


 扉が閉まった。


 私はスマホを取り出した。


 メモに今日の進捗を書いた。内通疑惑の種、カルロの目撃、シーン006の完了、調査官の訪問受け入れ。


 書きながら、カルロのことを考えた。


 カルロは今頃、侯爵に報告しているかもしれない。あの几帳面な人間は、見たことを正確に伝えているだろう。そしてそれが王都に流れた。


 計算通りだ。


 カルロは自分が計画の一部になっているとは知らない。ただ見たことを報告しただけだ。


 メモに書いた一行を思い出した。


『カルロを使う。ただし証言の内容が彼の実害にならないよう設計すること』


 設計はした。カルロが証言台に立つ時、彼が語る内容は事実だ。見たことを話すだけだ。嘘をつかせることはしていない。


 それで十分なのかどうか、答えは出なかった。


 窓の外に風が出てきていた。


 明日も晴れるだろう。天気の読み方は、この世界に来てから少し上手くなった気がする。魔素の観測データと気候の相関を記録し続けた結果だ。


 小さなことだ。


 ただ、前世では空を見て天気を読もうとしたことが一度もなかったと、ふと思った。


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