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元跡継ぎ令嬢はお見合い結婚した騎士伯爵と恋をします  作者: 影道AIKA


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第25話 可憐な令嬢は、静かな妹の興味を引きました

読みに来てくださりありがとうございます。

今回はエミリアとの初対面を終えた後のベルフォール家側のお話です。

フローラも少しエミリアに興味を持ち始めたようです。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

エミリア様との茶会を終えた後、私は自室ではなく小サロンへ戻った。


 なぜなら、リディアとフローラが当然のように待っていたからである。


 正確には、リディアは待ちきれずに扉の近くをうろうろしており、フローラは窓辺の椅子で本を開いていた。


 ただし、本のページはまったく進んでいない。


「お姉様!」


 私が入るなり、リディアがぱっと顔を上げた。


「エミリア様、どうでした? 可愛らしい方でしたか? 優しかったですか? セドリック様とは似ていましたか?」


「質問が多いわ」


「厳選しました!」


「もっと削りなさい」


 リディアは不満そうにしながらも、目だけは期待で輝いている。


 その横で、フローラが静かに本を閉じた。


「私も気になります」


「あら、あなたも?」


「はい。リディアお姉様ほど騒がしくはありませんが」


「フローラ、今ちょっと失礼だったわよ」


「事実です」


「事実でも言い方があるでしょう?」


「では、リディアお姉様ほど華やかには尋ねませんが」


「少し良くなった気がするわ!」


「良くなったかしら……」


 私はため息をつきながら、長椅子に腰を下ろした。


 茶会そのものは、穏やかに終わった。


 エミリア様は礼儀正しく、可憐で、そして想像以上に率直だった。

 セドリック様を大切に思っていることも、グランフェル家の空気も、彼女の言葉からよく伝わってきた。


「エミリア様は、可憐な方だったわ」


 私がそう言うと、リディアが両手を合わせた。


「やっぱり!」


「ただし、可憐なだけではないわね」


 そこでフローラの薄い灰紫の瞳が、少しだけ動いた。


「可憐なだけではない?」


「ええ。とても率直な方だったわ。柔らかく笑いながら、必要なことをまっすぐ言うの」


「アメリア様に似ているのですね」


「そう思ったわ」


 フローラは少し考えるように視線を落とした。


 リディアは楽しそうに身を乗り出す。


「どんなことをお話ししたんですか?」


「セドリック様の話を少し」


「まあ!」


「あなたが期待しているような甘い話ではないわよ」


「まだ何も言っていません」


「顔に書いてあるわ」


「お姉様も顔を読むようになってきましたね」


「あなたたちが毎日言うからよ」


 私は扇を開きかけて、やめた。


 今日はもう何度も扇へ逃げかけた。

 少しくらい、手ぶらで話してもいいだろう。


「エミリア様は、セドリック様が私の話を楽しそうにしていたとおっしゃっていたわ」


 口にしてから、少しだけ頬が熱くなる。


 リディアは当然のように目を輝かせた。


「素敵です!」


「その一言で片づけるのはやめなさい」


「だって、素敵ですもの」


 フローラは静かに言った。


「セドリック様は、あまり自分の感情を派手に出す方ではなさそうです。それを妹君が読み取っているのなら、エミリア様はかなり観察眼がある方ですね」


「そうね。私もそう感じたわ」


「面白そうな方です」


 フローラがそう言った。


 その声はいつも通り静かだったが、私はわずかに眉を上げた。


 フローラが誰かに興味を持つのは、そう多くない。


「珍しいわね」


「何がですか」


「あなたが会ってもいない方に、そんなふうに興味を示すのは」


「お姉様の話を聞いている限り、エミリア様は一見可憐で、けれど中身はかなり率直な方のようなので」


「ええ」


「そういう方は、観察対象として興味深いです」


「友人候補ではなく観察対象なの?」


「最初は」


「最初は、なのね」


 フローラは小さく首を傾けた。


「お会いしてみないとわかりません」


 その言葉に、リディアがぱっと顔を輝かせた。


「それなら、次はフローラも一緒にお茶会しましょう!」


「リディアお姉様、決めるのが早すぎます」


「だって同い年でしょう? きっと仲良くなれるわ!」


「同い年だから仲良くなれるとは限りません」


「でも、二人とも可愛いし、しっかりしているし、見た目より鋭いところがあるのでしょう?」


「リディア」


 私は思わず名前を呼んだ。


「それ、褒めているの?」


「もちろんです!」


 フローラは少しだけ目を伏せた。


「見た目より鋭い、という評価は否定しません」


「否定しないのね」


「事実ですので」


 この妹は本当に揺るがない。


 けれど、エミリア様と並べると確かに面白いかもしれない。


 フローラは静かに本質を見る。

 エミリア様は可憐な顔で率直に踏み込む。


 方向は違うが、どちらも見た目通りの令嬢ではない。


 もし二人が話したら、何か妙な同盟でも結びそうだ。


 ……いや、今のは考えすぎだろう。


「お姉様」


 フローラがこちらを見た。


「今、少し嫌な予感がした顔をしていました」


「あなたたち姉妹は、本当に私の顔を読みすぎよ」


「わかりやすい時がありますので」


「いつからそんなにわかりやすくなったのかしら」


「最近です」


 フローラは即答した。


 リディアも頷く。


「セドリック様とお手紙を交わすようになってからです」


「リディア」


「はい、少し黙ります」


 少しだけらしい。


 私は追及を諦めた。


「エミリア様は、また話したいと言ってくださったわ」


「お姉様は?」


 リディアが尋ねる。


「私?」


「はい。またお話ししたいですか?」


 少し前なら、私は礼儀として、と答えていただろう。

 相手から望まれたなら、失礼のない範囲で、と。


 けれど、今はその答えだけでは少し足りない。


「……そうね」


 私はゆっくり言った。


「またお話ししても、いいと思うわ」


 リディアが嬉しそうに笑う。


 フローラは静かにこちらを見ていた。


「お姉様の『いいと思う』は、かなり前向きですね」


「あなたまでリディアのようなことを言うのね」


「観察結果です」


「便利ね、本当に」


 私は茶杯を手に取った。


 少し冷めた紅茶を飲むと、胸の奥の落ち着かなさも少し和らいだ。


 エミリア様は、私を歓迎したいと言った。

 未来の家族になるかもしれない人として。


 その言葉は重かった。

 でも、不思議と嫌ではなかった。


 グランフェル家の人々が、セドリック様を通して少しずつ私の方へ歩いてくる。


 怖くないわけではない。

 けれど、逃げたいだけでもない。


「それで、フローラ」


 私は静かに妹へ視線を向けた。


「もし次にエミリア様とお会いする機会があったら、あなたも挨拶してみる?」


 フローラは本を膝に置いたまま、少しだけ瞬きをした。


 意外だったらしい。


「私が、ですか」


「嫌なら無理には言わないわ」


「嫌とは言っていません」


 それを聞いた瞬間、リディアがぱっと明るい顔になった。


「ほら!」


「リディアお姉様、声が大きいです」


「だって嬉しいんだもの」


「まだ会うとは決まっていません」


「でも半分くらい決まりました!」


「その計算はどこから」


 私は扇で口元を隠した。


 たぶん、次にエミリア様と会う時、フローラも何らかの形で顔を合わせることになるだろう。


 その時、何が起きるかはわからない。


 ただ、少しだけ思う。


 エミリア様とフローラは、案外合うかもしれない。


 そう思ってしまうくらいには、今日の茶会は悪くなかった。


 その日の夕方、私はセドリック様へ礼状を書くことにした。


 エミリア様と会えたことへの感謝。

 可憐で率直な方だったこと。

 またお話しできれば嬉しいこと。


 そこまで書いてから、少し迷った。


 フローラのことを書くべきか。


 まだ会うと決まったわけではない。

 けれど、エミリア様が私に興味を持ってくださったように、こちらにも彼女へ興味を持った妹がいる。


 それを伝えてもよい気がした。


 私はペンを取り直した。


 ――妹のフローラも、エミリア様のお話に興味を持っておりました。

 ――もし次にお会いする機会がございましたら、顔を合わせることがあるかもしれません。


 書いてから、少しだけ不安になる。


 これは余計だっただろうか。


 けれど、フローラは嫌とは言っていなかった。

 エミリア様も、きっと悪く受け取らないだろう。


 たぶん。


 最後に、蜂蜜の焼き菓子についても触れた。


 ――なお、蜂蜜の焼き菓子の再比較については、先日の結果を覆すほどの品が出るか、少しだけ注目しております。


 書いてから、私は便箋を見つめた。


 少しだけ。


 また使ってしまった。


 最近、この言葉に逃げている気がする。


 でも今は、それでもいいのかもしれない。


 大きく踏み出すにはまだ怖い。

 けれど、少しだけなら前へ進める。


 私は手紙を封じ、侍女に託した。


 窓の外では、夕暮れの光が庭を淡く染めている。


 可憐な令嬢は、静かな妹の興味を引きました。


 そして私は、その二人が並んだところを少しだけ想像して、なぜか小さな胸騒ぎを覚えた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

エミリアの存在が、フローラにも少し届いた回でした。

同い年の二人が顔を合わせる日も近いかもしれません。

次回もよろしくお願いします。

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