表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元跡継ぎ令嬢はお見合い結婚した騎士伯爵と恋をします  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/60

第23話 妹は、挨拶の準備を始めました

読みに来てくださりありがとうございます。

今回はグランフェル家側のお話です。

エミリアがシャロンとの対面に向けて少しそわそわし、ノエルはまだ少し緊張しているようです。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

シャロン嬢からの返事を受け取った翌日、グランフェル家の小サロンは少しだけ賑やかだった。


 原因は、エミリアである。


「兄様、シャロン様はどのようなお茶がお好きなのでしょう」


「そこまでは、まだ聞いていない」


「では、お菓子は?」


「蜂蜜の焼き菓子は気に入ってくださった」


「それは兄様が嬉しそうに何度もおっしゃっていたので存じています」


「何度も言った覚えはない」


「顔で何度もおっしゃっていました」


 セドリックは返事に困った。


 最近、家族が顔を読む技術を上げすぎている。


 いや、もともと高かったのかもしれない。

 自分が気づいていなかっただけで。


 小サロンの机には、茶器と菓子の皿が並んでいる。

 母アメリアは優雅に紅茶を飲みながら、楽しそうにこちらを見ていた。


 父ギルバートは窓際の椅子に座り、領地から届いた書類に目を通している。

 無関心に見えるが、耳は確実にこちらへ向いている。


 ノエルは少し離れた席で、記録表の写しを整理していた。


 つまり、家族全員がそれぞれの顔をしながら、この話を聞いている。


「エミリア」


 セドリックは妹を見た。


「まだ正式に日取りが決まったわけではない」


「でも、シャロン様は、いつかお目にかかれましたら嬉しいとお返事くださったのでしょう?」


「ああ」


「では、準備は必要です」


 エミリアは真剣だった。


 明るい栗色の髪を揺らし、緑の瞳を輝かせている。

 可憐な令嬢らしい見た目なのに、その表情には武門の娘らしい決断力がある。


「未来の義姉になるかもしれない方に、失礼があってはいけません」


「未来の、という言葉はまだ早い」


「可能性の話です」


「可能性か」


「はい。兄様がとても大切そうになさっている可能性です」


 また返せなくなった。


 アメリアが口元に手を当てて笑う。


「エミリア、あまり兄を追い詰めないの」


「追い詰めているつもりはありません。確認です」


「確認なら仕方ないわね」


「母上」


 セドリックが見ても、母はにこにこと笑うだけだった。


 味方はいないらしい。


「シャロン嬢は、少し警戒心の強い方だ」


 セドリックは言った。


「だから、会った時にあまり距離を詰めすぎないようにしてほしい」


「わかりました」


 エミリアは素直に頷いた。


「けれど、歓迎していることは伝えたいです」


「それは、きっと伝わる」


「兄様が言うと、少し説得力がありますね」


「どういう意味だ」


「兄様は、言葉が少なくても誠実さだけは伝わるので」


「だけ、とは」


「褒めています」


 本当に褒めているのか、判断に困る。


 ノエルが小さく笑った。


 それに気づいたエミリアが、今度は弟へ顔を向ける。


「ノエルも、いつかシャロン様にご挨拶しないといけませんね」


 ノエルはびくりと肩を揺らした。


「私も、ですか」


「もちろん。記録表の件でお世話になっているのでしょう?」


「それは、そうですが……」


 ノエルは手元の紙を見下ろした。


 灰緑色の瞳が、不安そうに揺れる。


「まだ、何を話せばいいかわかりません。失礼なことを言ったらどうしましょう」


「あなたは礼儀正しいから大丈夫よ」


 アメリアが柔らかく言った。


 だが、ノエルは小さく首を横に振る。


「シャロン嬢は、すごい方です。記録表のことも、道のことも、私が思いつかない見方をなさるので……実際にお会いしたら、緊張して何も言えない気がします」


 セドリックは弟の言葉を聞きながら、静かに頷いた。


 無理に会わせるべきではない。


 ノエルにとって、シャロンはすでに少し大きな存在になっている。

 だからこそ、今会わせると余計に固くなるだろう。


「ノエルは、まだ急がなくていい」


 セドリックが言うと、ノエルは顔を上げた。


「いいのですか」


「ああ。まずは記録表をしっかり作ればいい。シャロン嬢にも、そのことを伝えてある」


「……はい」


「会う時が来たら、その時に礼を言えばいい」


 ノエルは少しだけ安心したように息を吐いた。


「ありがとうございます、兄上」


「急がなくていい。だが、いつか会った時、実際に形にしたのはお前だと伝えるといい」


「私が?」


「ああ。助言を受けて、それを使える形にしたのはお前だ」


 ノエルは目を伏せた。


 けれどその頬には、ほんの少しだけ赤みが差していた。


 ギルバートが書類から目を上げる。


「セドリックの言う通りだ」


 低い声だった。


 ノエルは背筋を伸ばす。


「はい、父上」


「会うのは急がなくていい。だが、自分の仕事を小さく見るな」


「……はい」


 ノエルは紙を握りしめ、小さく頷いた。


 エミリアはそんな弟を見て、ふっと笑った。


「では、先に私がご挨拶してきますね」


「ご挨拶というより、少し話すだけだ」


 セドリックが訂正すると、エミリアは首を傾げた。


「兄様」


「何だ」


「少し話す、が一番大事なのでは?」


 セドリックは言葉を止めた。


 少し。


 その言葉に、最近ずいぶん弱くなっている気がする。


 シャロン嬢が手紙に書いた、少しずつ。

 少し楽しみにしております。

 少しずつお話ししてもよいのかもしれない。


 どれも控えめで、けれど確かにこちらへ向けられた言葉だった。


「ああ」


 セドリックは静かに答えた。


「そうだな。少し話すことが、大事なのだと思う」


 エミリアは満足そうに笑った。


「では、私も少しずつ仲良くなります」


「頼む」


「ただし、兄様」


「何だ」


「シャロン様がとても素敵な方だった場合、私も好きになってしまうと思います」


「それは良いことではないのか」


「はい。兄様が少し困るかもしれません」


「なぜだ」


「私がシャロン様をお茶に誘いすぎるかもしれないので」


 セドリックは想像した。


 エミリアとシャロンが並んで茶を飲む。

 エミリアが明るく話しかけ、シャロンが少し困りながらも丁寧に返す。

 そこへアメリアが加わり、気づけば三人で何かを見抜き合っている。


 少し怖い。


 いや、かなり怖い。


「……ほどほどにしてくれ」


「努力します」


「努力が必要なのか」


「シャロン様次第です」


 エミリアはにっこり笑った。


 アメリアが楽しそうに頷く。


「きっと合うと思うわ」


「母上まで」


「だって、シャロン嬢は強くて不器用で、エミリアは可憐に見えて遠慮がないもの」


「それは褒めていますか?」


 エミリアが尋ねると、アメリアは微笑んだ。


「もちろん」


「なら、受け取ります」


 母娘の会話に、ギルバートが静かに茶を飲んだ。


 おそらく、口を挟まない方が安全だと判断したのだろう。

 賢明である。


 しばらくして、エミリアがふと表情を改めた。


「兄様、ひとつだけ確認してもいいですか」


「ああ」


「シャロン様は、私たちに会うことを負担に感じないでしょうか」


 その問いは、思ったより真剣だった。


 セドリックは少し考えた。


「緊張はなさると思う」


「はい」


「けれど、嫌ではないと書いてくださった」


「そうですか」


「ただ、こちらが一気に距離を詰めすぎれば、負担になるだろう」


「では、本当に少しずつですね」


「ああ」


 エミリアは頷いた。


「わかりました。最初は、きちんとご挨拶して、お茶を一杯。それから、兄様のお話がどれほど本当なのか確認します」


「何を確認するつもりだ」


「焼き菓子と地図と記録表で仲良くなる令嬢が、本当に存在するのかを」


「存在する」


「兄様が真面目に断言すると、ますます気になります」


 エミリアは楽しそうに笑った。


 セドリックも、つられて少しだけ笑った。


 その日の夕方、セドリックはベルフォール家へ送る手紙を書いた。


 エミリアが、もし都合が合えば近いうちにご挨拶したいと話していること。

 ただし無理のない範囲で構わないこと。

 ノエルは記録表の件で感謝しているが、まだ緊張しているため、まずはセドリックから礼を伝えること。


 そこまで書いて、少し手を止める。


 そして、もう一文を加えた。


 ――妹のエミリアは少し率直ですが、あなたにお会いできることを心から楽しみにしています。

 ――ノエルについては、いつか本人から礼を申し上げられる日が来ればと思っています。


 これでいい。


 無理に家族全員を近づける必要はない。

 けれど、少しずつ知ってもらいたい。


 自分の家族を。

 自分が大切にしているものを。


 シャロン嬢がミルディア領の春市を話そうとしてくれているように、自分もグランフェル家を少しずつ見せていきたい。


 追伸には、蜂蜜菓子についても書いた。


 ――次回の比較材料については、候補を二つまで絞りました。

 ――三つ以上は試食会になると母に止められました。


 書き終えて、セドリックは少しだけ笑った。


 この手紙を読んだシャロン嬢は、きっと扇で口元を隠すだろう。


 そして、たぶん少しだけ笑ってくれる。


 そう思うだけで、次の返事が待ち遠しくなった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

エミリアは近いうちにシャロンと会うことになりそうです。

一方のノエルは、まだ少し勇気をためている段階のようです。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ