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オルテンシアの魔法博物館 〜出戻り魔法使い、博物館の経営始めます!〜  作者: 雪嶺さとり


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25.向き合う時(1)


「で? なんだか凄いことになってたみたいだけど大丈夫なわけ?」


 以前より世間を騒がせていたアルクメオン家の家宝を取り戻しただけでなく、魔法学院内での殺人未遂騒動。


 シグルズとオルテンシアはすっかり重大事件の渦中の人物となり、その影響で博物館も休館中だ。

 そんな中訪れてくれたのはシグルズの友人である、あのカフェの青年だった。

 

「ええ……なんとか」


 エントランスにいるのはオルテンシアだけで、しんとしていたところに賑やかさが加わって、苦笑いしつつなんだか嬉しかった。


 差し入れを持ってきてくれたようで渡された箱を開けると、フルーツタルトが入っていた。


「私もシグルズさんも怪我はないですし、捜査も順調でしたからすぐ解放されましたよ。正直、もうこれ以上関わりたくはないですね……」


 あの後、アルバは駆けつけた警吏隊にすみやかに逮捕された。

 念の為オルテンシアたちは病院で診察を受けたが、二人ともこれといって傷はなく、逆にシグルズの治癒魔法を見て医者に感心されたぐらいだった。


 アルバの犯行も怨恨によるもので、盗難事件の経緯としても、アルバが開発した違法薬品との取引で犯行グループから入手したとのことだった。


 オルテンシアから魔力を奪うために多くの実験を重ねていたようで、研究室からは様々な倫理に反する実験の数々が証拠として上がっている。


「これからは魔法学院の方が大変だろうな。今回の件でイメージはガタ落ちで、学生たちが可哀想だ」

「本当に、そうですよね……。アルバさん、あんなに慕われていたのに……」


 遠くを見すぎて、足元にある幸せが見えなくなってしまったのだろう。

 魔法学院の若き秀才教授の裏の顔、なんてタブロイド紙にも書かれてしまっていた。

 生徒たちの今後に影響のないよう、学院は手を尽くしてくれると信じたい。


「ま、暗いことばっか言っててもしょうがないな。館長さんたちに怪我がなくてよかったよ。人間、健康が一番だからな」


 暗い雰囲気になってしまったところで、青年は明るく笑い飛ばして空気を変えてくれた。


「そういや、妖精のお嬢ちゃんは今日はいないのか?」

「あら? さっきまでイヴェッタさんと庭にいたと思うんですけれど、入れ違いになったのかも」

「そっか。じゃ、自分で探しに行くわ。館長さんも、仕事はほどほどにちゃんと休んでくれよな」

「はい。ありがとうございます」


 リーナにも声をかけていくつもりなのだろう。

 オルテンシアたちが事件に巻き込まれたと知り、リーナは泣きながら病院に駆けつけてくれた。

 心労をかけてしまった分、リーナには元気な姿を見て安心してもらいたい。


「おや、あの子はもう行ってしまいましたか。つくづく彼はタイミングが悪いですねぇ」


 青年を見送ってからすぐ声がして驚く。

 

「エドアルドさん……」

「数日ぶりですね。まだしばらく安静にしていいと言ったのに出勤とは、相変わらず真面目な人だ」


 エドアルドはにこやかに笑いながらこちらへ向かってくるが、なんとなくオルテンシアは気まずくて目を逸らしてしまった。

 

「あの……指輪、どうなりました?」

「返してきましたよ。もっとも、指輪よりもあなたの身の安全の方が気になっていた様子でしたが」

「そう、ですか……」


 アルクメオン家の指輪は結局、エドアルドを通して返却してもらった。


 警吏隊を通して返却されるものだとばかり思っていたが、所有者であるアルクメオン家当主からオルテンシアへ渡すようにと、返ってきてしまったのだ。


 オルテンシアはアルクメオン家の娘であるため、所有権自体はオルテンシアにもある。


 だが、当主が何を考えているのかがさっぱり分からず受け取る気になれなかったのだ。


(結局、戻ってきてからも迷惑をかけるなんて……せめて怒られた方がマシだったかも)

 

 いきなり家出した恩知らずな娘が、何故か盗まれた家宝を巻き込んだ殺人未遂事件の被害者になっている……なんて、さすがの当主も驚いただろう。

 

 血縁でもないのに育ててもらった恩を忘れ、責務を全て放棄した愚か者のことなどとうに忘れているだろうと思っていた。

 

 指輪を手切れ金代わりに今後一切関わるなということかと解釈したが、どうもそういうわけではなく、かといって帰る勇気もなく、最終的にエドアルドを頼ってしまった。


「帰りたければ旅費ぐらい出してあげますよ。しばらくご実家で休まれては?」

「いえ、それは結構です」


 気遣うように提案してくれているように思えて、裏があることはもう分かっている。

 指輪を返すことをなんなく承諾してくれた時点で、エドアルドは確実にアルクメオン家当主と関わりがあると確信していた。


「それより、あの時、シグルズさんが助けに来てくれたのってエドアルドさんのおかげですか?」


 話をそらすように聞いてみれば、エドアルドは頷いた。

 

「ええ。言ったはずですよ。僕はいつもあなたを見ている、と」


 エドアルドが一歩近づいて、オルテンシアの顔を覗き込む。

 うんと背の高い彼に見つめられると、まるで隅に追い詰められた小動物かなにかの気持ちになる。

 シグルズとはまた違う、底知れない魅力のある人だ。

 でも深淵を覗けるほど、オルテンシアは好奇心旺盛ではなかった。


「じゃあ、これからも見ていてくださいね。エドアルドさんに守って貰えるのなら、安心できますから」

「おや、聞かないんですか? 聞きたいこと、たくさんあるんでしょう?」


 すっかり心の内を見透かされている。

 エドアルドにもシグルズにも聞きたいことは山ほどあるに決まっている。

 アルバはオルテンシアに、シグルズがアルクメオン家のことを知っていると言ったが、あれはオルテンシアの心を揺らがせたくて咄嗟に嘘をついた訳ではないと分かっていた。

 シグルズとエドアルドは、どういう目的があってオルテンシアを魔法博物館へ連れてきたのか。

 アルバの声がまだ耳から離れない。忘れられない男になった……あまり認めたくはない事実だった。


「聞いてもいいんです?」

「もちろん。あなたにその覚悟があるのなら」


 覚悟と問われ、オルテンシアは少し考える。

 知っているはずなのに知らないふりは続けたくなかった。

 今見ないことにしても、いずれ直面することになるのは間違いない。

 ただ、アルバから守ってくれたシグルズの思いは、決して疑うことはしないとオルテンシアは感じていた。

 それを覚悟と問われると頷けるかは分からないが、向き合うためには必要なものだ。


「シグルズさんとお話してきます。私、まだこの博物館にいたいので」


 オルテンシアは、シグルズを探してエントランスの階段を上っていく。

 

「ふふ、そうですねぇ。期待していますよ、館長さん」

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