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オルテンシアの魔法博物館 〜出戻り魔法使い、博物館の経営始めます!〜  作者: 雪嶺さとり


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26.向き合う時(2)

 シグルズは企画展用の展示室にいた。

 度々ここにいるのを見かけていたため、もしかしてと思って来てみたが間違いなかった。

 手に何か握っていて、ぼうっと眺めているようだ。


「シグルズさん」


 遠慮がちに声をかけてみれば、シグルズはすぐにこちらを見る。

 

「オルテンシア……」

「休館日なのに、私たち全員集まってましたね」

「寝ていなくていいのか」

「それはシグルズさんの方じゃないんですか? いくら治癒魔法で治ったとはいえ、撃たれたんですから」

「魔力を持ってかれた方が重症だろう。多少は回復したようだが、無理はするな」


 魔力が無くなってすぐは目眩や倦怠感はあったものの、いつも通り健康的に生活していればすぐに回復するものだ。

 実際オルテンシアはもう何ともないぐらいピンピンしている。

 それでもいくら元気な様子を見せたところでシグルズは納得してくれなかった。

 

「分かりました。では、今日は早く帰りますね」

「ああ。今日も家まで送っていくから」


 やっと安心したように頷いてくれる。

 そこでようやく、シグルズが持っているものに気がついた。


「その魔石……」


 以前シグルズに見せてもらった赤紫色の魔石だ。文字が刻まれていたはずだが今は消えている。

 その上、なぜか輝きを失っているかのように濁った色になっていた。

 

「前に見せたものだな。もう力は残ってないんだが、捨てられなくて」

「もしかして、治癒魔法は魔石を使って……」

「そうだ。俺の祖母がくれたんだ。いつか必ず守ってくれるだろう、と。おかげでなんとか回復できた上に自分の血を使って魔法を使う余裕もできた」


 シグルズが使った魔法は治癒魔法と拘束魔法だった。

 致命傷からの治癒だけでもかなり高度な技術が要求されるのに、その状態から血を使って文字を描き拘束魔法を出現させたなんて。

 わずかな時間でありながら、アルバに気取られないように完璧にこなしてくれた。

 やはりシグルズはただの魔法使いではないと、改めてオルテンシアは感じさせられた。


「それで、オルテンシア。俺への答え……聞かせてくれるか」


 シグルズは再びオルテンシアと視線を合わせる。

 

「君が好きだ、オルテンシア」


 オルテンシアの答えはもうとっくに決まっている。

 

「ええ。でも、その前にあなたに聞きたいことがあります。――――あなたはいつから、私を知っていたんですか?」


 少しの間、シグルズは悩んでいるように見えた。

 けれどすぐに元の表情に戻る。

 

「最初からだ。駅で出会った時よりも、ずっと前から」


 偶然の出会いのように思えて、最初からシグルズはオルテンシアが駅に来ることを分かっていた。

 運命の出会いなんてものを信じていたつもりはないが、やはり、初めから計算された出会いだったようだ。

 

「俺たちの本当の仕事は情報屋、代行業者だ。表沙汰にできないような依頼を受けている」

「なるほど……」

「あんまり驚かないんだな」


 シグルズに苦笑いされるが、なんとなくオルテンシアにとって納得できるようなそうでないようなものだったからだ。


「あの方、たくさん顔と名前がありそうですから。正体不明というかなんというか」

「おや、よく分かっているじゃないか。実の所、俺もエドアルドの全てを知っているわけじゃない。もう何年も過ごしてきたが、エドアルドっていうのが本名なのかも怪しいぐらいだ」

「たしかに私もそう思います。シグルズさんよりお付き合いは短いですけど、本当に不思議な人ですよね」


 名前も年齢と本当のようで嘘のようにも見える。

 それでもシグルズがエドアルドの側にいるのは、それらの情報がきにならないぐらい彼を信頼しているからだろう。

 

「いつもどこで繋がりがあるのか分からないような依頼人ばかりで、エドアルドが何者なのか今でも分からなくなるときがあるぐらいだ。今回の依頼もとんでもない依頼相手だと驚かされたよ」

「その依頼相手は……」


 ようやく本題に入るようだ。オルテンシアは緊張からぐっと拳を握りしめる。

 

「ああ、オルテンシアの思っている人物だよ。最初に依頼を受けたのは数年前だった。『行方不明になった娘を探して欲しいが本人には気付かれないよう内密に』というものだったが、国内のどこを探しても見つからず、結局、エドアルドが君をノクトレアで見つけたんだ」


 そんなに前からだったとは思いもよらなかった。

 『僕はいつもあなたを見ている』――――エドアルドが度々口にしていたことは、本当のことだった。

 最初からエドアルドはオルテンシアに隠したりしていなかったのだ。


「なんだ、全部知ってたんですね。私、一人で隠そうと必死になっちゃって」


 ずっと一人で重苦しい気分を抱えていたこれまでを思うと、拍子抜けしそうだった。

 

「依頼が追加されたのはそこからだ。あるものを娘に渡したいが、自分ではどうにもできない。だから、俺たちに代行してくれと」

「あるもの、ってまさか」

「そのまさかだ。娘の本当の父親の忘れ形見を集めた博物館……グレイナーシャ魔法博物館を設立し、オルテンシア・アルクメオンに全て譲渡する。俺たちが引き受けた依頼はこれが全てだ」


 オルテンシアは思わずなんと返せば良いのか分からなかった。

 

「な……本当の父親、って……」


 この博物館の収蔵品は全て、まだオルテンシアが幼い頃に亡くなった父親の所持品であったなんて、誰が思うだろうか。

 それも、ただ渡すのではなくなぜ博物館という形にしたのか。

 顔も知らない実の親の遺産を渡してあげることで、オルテンシアが喜ぶとでも?


「オルテンシア……?」


 俯いて固まってしまったオルテンシアを前にしてシグルズが狼狽えている。

 思っていた反応と全く違ったのだろう。

 オルテンシア自身もそうだった。

 今、自分の中にこんな感情が湧き上がってくるなんて考えもしなかった。

 

「分からないです。全然、何考えてるのか分からないです」


 わざわざ博物館の館長なんて職を与えて、オルテンシアが全て裏で仕立ててあげなければ仕事も見つけられないような幼い子どもだと言いたいのか。


 それも、全部エドアルドとシグルズを通してだ。

 

 あの人は、今も昔もオルテンシアとの対話を拒み続けている。


 昔の内気で自信の無いオルテンシアなら諦めていただろう。

 けれどこの博物館に来て、シグルズに出会ってオルテンシアは変わった。

 

 最後まで黙ったまま、オルテンシアとの親子関係を終わらせるつもりならば、こちらにも考えはある。


「決めました。私、当主様に会いに行きます」

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