大樹
『街のウルフ』ではなかった。
彼はウルフのままだった。
ネラはグラスの先のウルフに視線を移す。
ウルフは赤褐色の肉を小皿に取り分けながら、静かに口を開いた。
「さて、ここからは真面目な話だ。現段階では魂の生成プロセスが纏まり始めた所だったな。そして、その次に控えているのが、肉体の生成プロセスになる」
ウルフはその小皿をメイニヤックの前へと置いた。
ーーいや、ウルフでもない。
今の彼は『森に来てくれたウルフ』だ。
彼はもう森に入っている。
だけど、自分はまだ街の中だ。
彼と居場所が違う。
そっとグラスに手を伸ばし、ワインを一口流し込んだ。
「ええ……でも、火属性との組み合わせが上手くいけば、その行程に入るわね」
森の息吹が身体に広がる。
入った息吹が、そのまま口から発せられる。
大丈夫。
もう、私は森の魔女だ。
魔女の瞳でウルフを見つめる。
彼の口から、次の言葉が出るのを待つ。
メイニヤックが赤褐色の肉を食べ始めた。
「しかし、肉体の再現というのも、どうやらとんでもない難題だったらしい。俺は頭・腕・身体・足などの認識で多少筋肉量などによって微調整をすればいい……などのレベルで考えてたが、どうやら肉体の再現は細胞レベルから作り出さないといけないらしい」
ーー崩れた大樹。
確かにその通りだ。
根源の力の概念は、鮮明になってきた。
魂の概念は自分の想像より複雑な概念の組み合わせだった。
それなら、同じように肉体も。
魂と同程と複雑な概念の組み合わせから発生しているのが自然だろう。
しかし、細胞レベルとは。
いくらなんでも、精密すぎる。
グラスを握る手が震える。
「そう……細胞レベルの再構築……私の理論では、まだそこまでの技術は……」
次に進むべき道は見えている。
今の道を進み終えた時、行くべき道はわかっている。
だが、その入口は崩れた大樹によって塞がれている。
出口はわかっているが、入る事の出来ない閉ざされた道。




