キノコ
ーーキノコだ。
テーブルに皿が置かれ始める。
最初に瞳に捉えたのは、皿に盛られたキノコ達。
少し焦げてはいるが、表面は油で輝いている。
森とは違う、香ばしい香りもする。
だが、キノコだ。
ネラは視線を移す。
次に瞳に映ったのは、小さな器に盛られた、こんがりと茶色くなった木の実の山。
小さい森の空気が、この空間を包み始めている。
木の実の香りが、ほのかに甘く、懐かしい。
テーブルの中心の物へと視線を動かす。
深い赤褐色の肉が入った皿。
それは赤い煮汁と絡まっている。
きっと赤ワインだろう。
酸っぱい森の香り。
果実の酸味が、肉の重さを優しく切り裂く。
更に視線を動かす。
あれはただのソーセージが並んだ皿。
だけど表面に細かな緑の葉片が散らばっている。
ハーブ……ハーブの香りだ、あれは。
森の奥で見たことのある葉の匂い。
ここでは、別の形で息づいている。
最後の皿へと視線を動かす。
器に盛られてる輝く小さな黒い粒。
これはなんだろう。森にはない。
かすかな塩気のある香りを感じる。
ーー海か?
街は包まれていない。
この酒場も包まれていない。
だが、今この瞬間、この小さな空間は森の空気に包まれた事を感じる。
木の実の甘さ、ハーブの清涼、ワインの酸味、肉の重み。
すべてが、ネラの知る森の断片を、違った形で再現している。
ウルフはワインをグラスへと注ぎ始めた。
ベリーの香りが更に小さな空間を包む。
それは、森の果実が熟れた日の匂いのように、甘く、懐かしい。




