妖精
一つ歩みを進め、自分も空気の一部となる。
だが、その瞬間、ネラの瞳に映る新たな風景。
そこにあったのは、何も纏わず、何も隠さず、ただ肌だけを輝かせて舞う女。
思考が繋がらない。
静かに風景が広がっていく。
女は酒場の中心の舞台の上のような場所に立っている。
そして、それを囲うように置かれた、多くの席。
その席には多くの人々が座っている。
そして、男達は女を眺めている。
ーーあぁ、ウルフらしい店だ。
なんとか思考は繋がった。
だが、この景色を眺める事は、少し苦しい。
胸の奥で、白い炎が小さく震える。
それは、森の静けさを知る魔女にとって、ここはあまりに熱く、騒がしく、剥き出しの場所だった。
「二階席だ」
ウルフの言葉が耳に届く。
その言葉で視線を左へと動かす。
ーーあぁ、二階もあるのか。
二階へと続く螺旋階段がそこにあった。
鉄と木が絡み合う階段は、薄暗い照明の下で鈍く光り、
酒場の喧騒から少しだけ離れた静けさを約束しているようだった。
ウルフ達はそちらへと歩みを進め、階段を昇っていく。
ネラもまたそのウルフの後を追う。
ただ、彼の背中だけを見て。
踏み外さぬよう床板だけを見て。
階段の木がきしむ小さな音が、ネラの足音と重なる。
下から上がってくる笑い声と酒の匂いが、身体に纏わりつく。
ネラはそっと息を吐き、胸の炎を抑えた。
ーーここは、森ではない。
だが、ウルフの背中は、変わらず確かだった。
階段の先、二階の席がゆっくりと近づく。
そこに静かな場所が待っていることを、ネラは信じた。




