16 冒険者ギルドが襲われていると依頼される
キース達四人は全速力で王都へと馬を走らせている。
馬が隣国の馬でなければここまでの強行軍はできなかっただろうと思う。
夜が更けて閉門するギリギリに街に入れたので、その日はそこで宿を取った。
キースは冒険者ギルドへ行って、一体何の用があるのか尋ねると「王都のギルマスからキースが現れたら王都に最速で来るように伝えるようにとしか聞いておりません」と素気無く言われてしまった。
そしてこっそりと耳打ちされる。
「知る人は知っているのですが、機密なんです。少しでも早く王都へと行ってください」
馬を酷使して王都に着いたのは一週間後だった。
ヘロヘロになって冒険者ギルドに顔を出すと、ギルマスはキースの顔を見た途端怒鳴り声を上げた。
「姿を消すなら連絡くらい入れておけっ!!」
「そんな義務ありませんよ」
「義務はなくても責任はあるだろうがっ!!」
「ありませんよ。そんなもの」
「・・・・・・」
ギルマスは受付の子に服の裾を引っ張られて、黙ることにしたらしかった。
実際に冒険者にそんな責任も義務もない。
「で、急ぎの用とは何なんですか?」
付いて来いと顎をしゃくられ奥の会議室へと通された。
全員が腰を落ち着けるとギルマスが重々しく口を開いた。
「小さな町の冒険者ギルドが襲撃されて職員が殺されている。既に四箇所襲撃されていて、全滅している。殺された中にはその場にいた冒険者までもが皆殺しにされている」
キースは思わず「全滅?」と口にして「冒険者が居て?」とゼロの師匠が呆然と聞いた。
冒険者と行ってもピンからキリまで居るだろうけど、それでも素人ではないのだ。
そんな話は信じられなかった。
潰されたギルドの場所を聞いて何人かは顔が思い浮かぶ受付の子がいて、キースは顔をしかめた。
ギルマスは地図を広げて、襲われた町の上に手近にあった文具を置いていく。
「次はこのあたりが狙われるんじゃないかと思っている」
「本当に小規模なギルドばかり狙っているんですね」
受付が一人と事務方が一人、そしてギルマスの三人〜五人位で運営しているギルドが狙われていた。
「キースはどう思う?」
「何が目的でギルドを狙っているのか解っているのか?」
「はっきりとは解っていないが、金庫は空にされている」
「金目のものは盗んでいく・・・他に盗まれたものはないんですか?」
「解らん!!狙われたところには犯罪者を受け入れることも出来ないようなところばかりだ!全員が亡くなっているから何が無くなっているか解らない!襲うような金品だって多くないはずだ!!」
「そう、ですよね・・・」
「憲兵達はどう言っているのですか?」
「そんな気配はなかったとしか聞いていない」
「まぁ、憲兵では限界がありますしね」
キースは少し考えて西から東へと襲われた地図を見ながら、少し南に外れた町を指さした。
「次か、その次にはここが狙われるかもしれない」
少し北上した小さな町を指さした。
「理由はあるのか?!」
「いえ全く。ただの勘です」
「・・・まぁ、いい。なら早速動いてくれ!」
「解りました」
赤ん坊を殺して回っていたグアンテの時に集まっていた冒険者達がまた集められていて、キース達と行動をともにするという。
「とにかくお前は必要なところで必要な行動を取ってくれ」
キースは頷いて物資を手に入れ他方がいいものもあったので出発は明日ということにした。
全員がそれぞれに物を買い漁っていく。
最近商売していないなぁ〜とキースは呑気にも考えていた。
グアンテの一件以来、自分のスタンスが崩れていっている。
目についた食料を買い占めて、宿で死んだように眠った。
翌朝開門と同時に二十人の男達を引き連れてキースは王都を後にした。
見知った顔の中に知らない顔が混ざっている。
王都に来るまでに北の国の馬を酷使したので、ギルドで面倒を見てもらうことにして、この国の馬に乗り換えた。
そうしないと、他の冒険者達の馬が付いてこれないからだ。
小さくなった馬にどこか頼りなさを感じながら馬が潰れない程度のスピードで先を急ぐ。
キースは色んな方向を指さしながら「三人!」とか「五人!!」と前回同様に指示を出していく。
指示されてはぐれた冒険者は翌朝には合流していて、練度が上がってきていることにキースは感心していた。
今回始めて参加した冒険者が「キースさんってなんで見えてもいないのに犯罪が起こっている場所が解るんですか?」と聞いてきてキースは「勘」としか答えようがなかった。
「それとな、俺の行く先には犯罪が落ちているんだよ」
情けない気分で答えた。
そう、勘が鋭いことも事実ではあるが、キースは犯罪と遭遇する事が異様に多い。
キースがバウティハンターをしていなかったら既に命を落としていてもおかしくないくらいに遭遇している。
今の世の中、生きていくのが厳しいので昨日まで真面目に生きていた奴が、明日には犯罪者に身を落とすことなどザラにあるが、人一人の一生で犯罪者と遭遇するのなんて二度か三度あればいいほうだろう。
だがキースは行くところ行くところに犯罪が起きる。
ちょっと小休止しようと立ち寄った村は犯罪者の巣窟になっていたり、村人同士が喧嘩して相手を殺しそうになっていたりするのだ。
今のキースにとってはいい儲けになるのだが、たまにはゆっくりしたいと思ってしまうのは贅沢なことだろうか?と自問自答する。
キースのように犯罪者に出くわさなかったら不安になる方がおかしいのだ。
「なぁ」
ゼロがキースに話しかけてくる。
思えばこのゼロはいつの間にか俺に対して反抗しなくなったよな。
いつから素直になったんだったか?思い出そうとして、グアンテの一件の終盤頃だったと思い出した。
「なんだ?」
「なんだかゆっくり移動しているみたいだけど・・・」
「そうなんだよなぁ。あんまり急ぐ気になれないんだ」
「なんか理由はあるのか?」
「いや、急げという急く気持ちにならないのと、体が動かないだけだ」
ゼロの師匠も納得いかないようにキースとゼロの話を聞いている。
ショウは短いながらも、キースの行動には一つ一つ後付であろうが理由が出てくると知っているようで、もう何も言わない。
キースはその夜の野営の暇つぶしに、ゼロの師匠に師匠同士が出会った頃の話を聞かせて欲しいとせがんでみた。
ゼロの師匠はポツリポツリと話してくれた。
ゼロの師匠がまだ二十台の頃のことだったらしい。
その頃はまだバウティハンターという職種自体はなくて、冒険者と一括りだった。
まぁ、それは今もあまり変わりはない。
キースやゼロ、ゼロの師匠、後数人あたりはバウティハンターとして認識されているが、それ以外はやはりただの冒険者でしかない。
討伐依頼が中心で一応犯罪者の手配書は渡されるが、傍を通っても気づかないのが普通だ。
まぁ、誰が見ても怪しいやつというのは居るのだが。
ただそんな時代にも関わらず、犯罪者を捕まえるのが異様にうまい男がいるという噂が立っていて、それがキースの師匠だったらしい。
最初の邂逅は多分、普通にばったりと冒険者ギルドでの出会いだった。
ギルドの受付に「あの人が犯罪者を捕まえるのがうまい人だ」と教えられて「へー・・・あの男が」と思っただけだった。
次に出会ったのも冒険者ギルドだった。
手配書を受け取っている所でゼロの師匠は師匠に声を掛けた。
「犯罪者を捕まえるのは儲かるか?」と。
「いや儲からん」と返事をされてそれなら冒険者のままの方がいいかと思った。
それから二年ほど経ってゼロの師匠の母親が住んでいる村に盗賊がやって来て、村人達をいたぶって遊ぶだけ遊んで、盗めるものは盗んでいなくなった。
ゼロの師匠の母親は無事だったけど、村の半分が殺されてしまった。当然知り合いばかりだ。
ゼロの師匠は師匠に指名依頼を出した。
村を襲った盗賊を捕まえる手伝いをして欲しいと。
師匠はその依頼を受け、ゼロの師匠と暫く行動を共にした。
師匠の気の向くままに村から村へ流れて、三ヶ月程経った頃に師匠が「見つけた」と言って盗賊の後をつけることになった。
ゼロの師匠は直ぐにでも捕まえようとしたけれど「全滅させたいならアジトを見つけなければならない」と諭されて、逸る気持ちを抑え込むのに苦労したと苦笑しながら話している。
師匠は五日ほど掛けて盗賊団のアジトを見つけてその人数規模などを調べ上げた。
師匠はゼロの師匠と二人では無理だと判断して、近くの町の冒険者ギルドに人数を集めるように頼んで、十人の冒険者が集められた。
師匠は「捕まえることより、生き残ることを第一に考えろ」と全員に言い聞かせ、十二人で夜中に奇襲をかけて捕まえることが出来た。
その時に初めて生きているものを入れられるマジックバックの存在を知ったらしい。
師匠が捕まえた盗賊からゼロの師匠の母が住む村を襲った確証を得ることが出来て、ゼロの師匠が指名依頼した案件は終了した。
それからちょっとしたことから生き物を入れられるマジックバックを手に入れることができ、師匠にバウティハンターとしての知識を教えてくれと頼んだらしい。
師匠は「一年ほど一緒に行動するか?」と言って本当に一年間だけ一緒に行動して、ゼロの師匠は師匠のしていることを見て覚えた。
師匠と別れてからはバウティハンター一本では食べていけなかったので、冒険者をしながら手配書に目を通して失敗しながら現在があるんだと話してくれた。
「ってことは俺の兄弟子になるんですかね?」
キースがゼロの師匠にそう聞いた。
「いや、残念なことに俺は弟子とは認めてもらえなかったよ」
遠い目をして言ったのがキースには印象に残った。




